■■■ 「說文解字」 卷十四を眺める[12]  ■■■

系譜最後の文字"亥"について。

字義は草の根を意味する"荄"。妥当なところだろう。十二支文字はもともと当て字であって、その文字の主要構成文字を取り出しただけなのだから。勿論、動物名とは無関係。
<十月 微かに陽起こり 盛陰に接す>と陰陽見地からの用語であるのははっきりしている。

大陸での草木の部位定義は極めて大雑把。根荄(剛) 枝幹(柔) 華萼(陰) 華實(陽)の4部位からなる。これを考えると、樹木では根で、干枯草としては荄と思われ、亥には根源の意味があるとされていたようだ。十二支最後の文字に似つかわしい。
  雖煦噓萬物養其根荄[「後漢書」卷二十五卓魯魏劉列傳第十五]

ところが、小篆の字体を見れば、その瞬間にこれは豚文字ではないかと思ってしまう。細かく確かめると少々違う表現があることはわかるものの、微細な話。
しかし、豚草という造字はおよそあり得そうにないから「說文解字」 の判断はまとも。

そうなると、ニの下に二人としたくなるから、それはそれでよい訳だが、気になったようで引用がある。
  史趙曰:"亥有二首六身"[「春秋左氏傳(集解)」巻第十九襄公三十年]
        "下二如身是其日數也"
もっとも、(大徐本)𢁓 …古文亥為豕 興豕同 亥而生子 復從一起としてしまうとえらく厄介である。≪魯魚亥豕虚虎≫として片付ける訳にいかなくなってしまう。

亥は様々な部首と合字を形成しており、古くから用いられていたようだ。文字そのものでは、殷の高祖 王亥が有名。(商業と役牛社会の樹立と暗殺されたことで名を残している。)猪系にはほとんどかかわりがなさそう。
  王亥託于有易河伯僕牛 有易殺王亥取僕牛[「山海経」大荒東経]
つらつらと想い巡らしていると、「說文解字」成立時点ですでに十二支文字(丑や亥)の本字(紐や荄)が辿れなくなっている状況に直面しながら編纂している姿が目にうかぶ。
儒教国家の官僚統制社会ではよくあることとはいえ、編纂者達は溜息をついたのでは。
そこらの感覚。おわかりになれるだろうか。

鼠牛寅〜呼びが丁度はじまっていた頃合いだろうから、亥とは豚であるとする流れが発生していた訳で、立場上それに乗らざるを得ないのだから。

【上記の言い方を換えて再度説明すると、こういうこと。・・・】
十二支の"亥"は豚[野獣のイノシシ]に当てられている。
この人気俗説が広がってしまって、反論しても反撥されるだけだし、どうせ確定などできないから、無難に、そうしておこうという怠惰な姿勢もとれないでもない。しかし、古代のセンスで、この様に猪を描くことはまず無かろう。

それでは何かと云えば、草の用語である荄。

字形としては、上部に二があり、下部には乙形態の部品が2つ横並びで、左が子を抱いた女性で、右側が男性となる。
「說文解字」では二は地。従って、地から下方に乙型で伸びている形だから、全体としては植物生命体の根源的役割を果たしている根を示していることになる。それを生殖の男女に当てるのは、比喩的に間違いではないし、実際、その様なイメージでの形象かも知れない。特に、女性側に子の存在との指摘が傑出している。栄養繁殖の芋の存在を表現していることになるからだ。

従って、≪春秋傳≫亥有二首六身、を引いて、俗説とはこんなものと看破。これを持って、文字解説了。
 (襄公三十年 傳)
 史趙 曰:"亥有二首六身 下二如身 是其日數也"
 士文伯 曰:"然則二萬二千六百有六旬也"
   <注>"亥字二画在上 幷三人為身 如算之六"
要するに、<完>のメッセージは明瞭。・・・
「この字体では獣には見なせないし、十二支の〆文字だから、皆、解釈に苦労しているが、文字の宇宙観から眺めれば、なんということもないのだヨ、ハハハ。」
  


金幵勺几且斤斗矛車𠂤𨸏𨺅厽四宁叕亞五六七九禸嘼甲乙丙丁戊己巴庚辛辡壬癸子了孨𠫓丑寅卯辰巳午未申酉酋戌亥 
  巻一

│   巻十三


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③③③ │
垚堇里 │
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││  巻十四
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①①
金幵
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②②②②②②
勺几斤斗矛車
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│   𠂤𨸏𨺅


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