■■■ 「說文解字」 卷十五【叙】 を眺める [13附-守宮] ■■■
「說文解字」は、<蜥易 蝘蜓 守宮>。

どうしてこれが、「易経」という中華帝国公式最高経典(焚書非対象書@始皇帝代)の名称になっているのかの説明がないのが残念だが、漢代の知識人にとっては常識に類することだったのだろう。
語彙が3つあり、現代の辞書的に同類が並んでいる訳ではないから、伝えたい点を読み取る必要があろう。現代日本では余りお目にかかったことが無い生物に該当しがちだが、漢代は"やもり"は万人お馴染みで、妖怪になることもあるものの、日々の親しきお仲間だったことも忘れるべきではないだろう。

従って、生物としての用語としてカバーする範囲を示したとすれば、これは棲息地分類と考えるのが自然。
  蜥易@草原棲・・・野生トカゲ
       (ヤモリの原生とみなされていた可能性がある。)
  蝘蜓@家屋棲・・・野生ヤモリ
       (アジア全域に棲息し、各地に固有種も。)
  守宮@後宮棲・・・後宮飼育イモリ+王宮域自然棲息ヤモリ
       (江戸期の"守宮"の和訓は"いもり"。)
  蠑螈@水中棲・・・野生イモリ

小生は、守宮は倭国に移入されたと見ている。もっとも、それは、大陸との貿易がとてつもなく盛んになった時代に外来種侵入が発生したという当たり前の話ではなく、「古事記」成立以前に大切に運ばれたという見立て。
そうそう、これには解説が必要だろう。・・・現代の我々が言うところのイモリは中華帝国と日本にしか存在していない生物。一方、二ホンヤモリはいかにも固有種らしき風情の名称だが、大陸に一般的に分布する種。

さて、その守宮だが、南方熊楠:「守宮もて女の貞を試む」に詳しい。上記の用語分類は大いに混乱していると指摘しているのだが、それは主題ではない。お話の出典は、晋の張華らしいが、東方朔が漢の武帝に勧めて大いに効果があったという房室媚薬話。(江戸期の媚薬イモリ黒焼は本邦独自らしい。)
つまり、「說文解字」成立頃は、誰もが知る特別な語彙が"守宮"。しかし、トカゲ・ヤモリ・イモリ分類は錯雑していていたようである。

尚、熊楠がここらに関心を示して当然。
特に、イモリの再生能力には目を見張らされるものがあるし、♂の精巣を♀が頂戴して保管する行為は極めて珍しく、民俗的にどの様な信仰があったのか調べたくなって当然。ここらの感覚が見えてくれば、「易」と名付けた経緯も想定できる可能性がある訳で。
  

    

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