トップ頁へ>>> オジサンのための料理講座
←イラスト (C) SweetRoom 
2008.1.17
「料理講座」の目次へ>>>
 


蒸し料理の話…

 料理を始めるオジサンにお勧めなのが “蒸し料理”.

 蒸し器などなくても なんとかなる.
 先ずは 調理してみて 素材の美味しさを知ることだ.
 そして 自分好みの味付けを探そう.
 それさえわかれば 後は時間とともに調理技術は上達するものである.


 料理をしたことがない人から、挑戦したが、結局止めたとの話を聞かされることが多い。
 その理由は、料理が難しいという訳ではなさそうだ。たいした意義を感じないから、努力する気を失ったように映る。

 こうなるのは、間違った“仮説”のもとで始めたからではないか。
 期待とは違うから、止めてしまったのだと思う。

 その勘違いしている“仮説”とは以下の3つ。

(1) 自炊料理なら「安価」だ。
   人件費や場所代はかからないが、合理的に作るノウハウを欠くから安くはない。
   ・食材の大半が廃棄物化してしまう。
   ・調達力が無いから、材料は今一歩なものか、高価なものになりがち。
   ・時間ばかりかかる。(その時間分働いて、外食した方がお金が貯まる。)

(2) 家庭「独自」の味を楽しめる。
   そもそも、大半のオジサンは、“家庭”の味がよくわかっていない。
   癖のある味や香りに対する感受性が鈍くなっているからだ。
   従って、作っても、特徴ある料理にはならない。
   ・雑味をできる限り消した“お付き合い”食事を上質と考えているせいもある。
   ・一方で、子供中心の料理に慣れており、家庭料理は味が単調と思い込んでいる。
   ・しかも、癖の無い生野菜を食べるから、個性的で複雑な味を忘れかけている。

(3) 自分で作れば「美味しい」料理ができる。
   レシピ通りの条件にならないから、期待は裏切られることが多い。
   (真似だけで素敵なものができるものだろうか。)
   お金がかかった自作より、安価な外食のほうが優れていることに気付いたりする。
   (毎日頭を使っている専門家を侮るなかれ。)
   不味い外食とは、自分の好みが合わないだけかも知れない。
   (自分の好みの味や香りがわからないで、美味しい料理ができる訳がない。)

 従って、自分で料理を始めるなら、プロが作る外食とは違った美味しさが楽しめるものを狙うべきなのだ。
 先ずは、家庭料理の嬉しさとは何かをじっくり考える必要があるということ。
 はっきり言えば、先ずは五感の訓練から。

 それには、廉価で新鮮な汎用食材を使った料理から始めるのが最善。
 そして、始めのうちは、できるだけ高品質な調味料類を使うこと。教育投資とわりきり、味を知るために、多少の出費は覚悟すべきである。
 ただ、この場合、調理のスキルが無いことを自覚してかからなければならない。成功と失敗の振れが大きい料理に挑戦してはいけないのである。
 言うまでもないが、道具の良し悪し判断できる力は無いから、力がつくまで、できる限り手元の道具だけで料理を行う方がよい。

 何故、こんな説教臭い話をするかと言えば、一番最初に学ぶべき調理技術を間違っている人が多そうだから。

 例えば、魚好きだと、生の刺身や焼き魚料理から始めようとする。この姿勢がまずい。
 釣りが趣味の人を別として、最初に学ぶべき調理技術ではない。刺身なら魚屋さんにまかせればよい。それに、家庭用のロースターで焼くより、遠火/強火に徹した業務用焼魚器や炭火コンロで焼く方が美味しいのは常識。勝てない“学び”は意味が薄い。
 だいたい、生野菜・焼野菜、生肉・焼肉の調理技術を最初に学ぼうと考える人などいまい。

 それでは何からかといえば、多くの人は“炒”料理だと思いがちだ。育ちざかりの子供がいれば“揚”モノを優先するかもしれない。
 しかし、自炊せざるを得ない状況なら致し方ないが、そうでないなら、“炒”や“揚”は避けた方がよい。と言うのは、家庭用と業務用では、加熱能力が違いすぎるからだ。家庭料理の嬉しさは限定的ということである。
 それに、熱した油は後片付けが面倒だし。

 それでは、何か、と言えば、“蒸”。
 おそらく、そう考えるオジサンはほとんどいなかろう。
 “蒸”料理と言うと、“茶碗蒸し”や“焼売”が思い浮んでしまい、メジャーな調理技術との印象が薄く、面倒なだけでたいした意味はないと考え勝ち。ところが、実際には、“蒸”から学べることは多いのである。

 どういうことか解説しておこう。
 まあ、調理の技術論といったところである。

【どうして“蒸”調理から勉強すると良いのか理解してから始めること。】
  ・作る量や道具の違い、調理作業の熟達度、時間・温度の微調整加減で、料理の質が大きく変わらない。
   →つまり、質の高い料理を確実に実現できる。
  ・旨み・栄養成分が食材中に残る。
   →つまり、食材そのものの美味しさを実感できる。ここが肝心。
  ・やり方を工夫すれば後片付けは比較的楽である。
   →つまり、味わうことに集中できる。
  ・食材の形が崩れないので、盛り付けに頭をつかわないですむ。
   →つまり、オジサン料理としては“粋”な部類なのだ。

【但し、注意を要す。】
  ・油断すれば、間違いなく火傷する。(当たり前だが蒸気は熱い。)
  ・油火災は一大事。(別途、高温に熱した油を蒸し上がった魚にかける場合の話。)

【準備すべき特殊な道具はないが、知恵は欲しい。】
  専用の素敵な道具を購入せず、とりあえず、手元にあるもので工夫しよう。
  蒸し料理の美味しさがわかったら、勉強して、吟味した専用道具を揃えるとよい。
  ともあれ、以下のものを準備しよう。
  ・蒸し器 →「深鍋+お猪口+網or金属落し蓋」でもよい。
  ・布巾 →薄いタオルでもよい。
  ・取り出し用の道具 →熱い蒸気のなかから食材が乗った皿を出すのである!
  ・先が尖った串 →熱が通ったかの確認用。フォークでも可。
  この程度の道具を自分で用意できない人は、料理は止めた方がよい。
  ともあれ、重要なのは、“蒸”料理を試して、自分の味覚レベルを知ることである。

【絶対に守るべきことはある。】
  ・蒸すのには、たいていは20分はかかる。
   短時間の簡単な料理ではない。用意と後片付けも入れれば1時間は要する。
   時間に追われている状態で試すべきでない。
  ・熱いうちに蒸しあがったものを出せるように、予め準備しておく。
   取り出す道具や、熱い皿を置く台が必要である。
   汁がこぼれるかもしれないから、どう対処するか考えておくこと。
  ・途中で水がなくならないように、蒸し器に十分な水を入れておく。
   水が途中で足りなくなりそうなら、沸騰した湯を挿すしかない。
   そのためには、別途湯を沸かしておく必要がある。
  ・蒸気が十分上がっていることを確認してから、食材を入れる。
  ・水滴がたれると不味くなる料理の場合は、乾いた布巾を被せてから蓋をする。
  ・蒸し始めたら、蓋はむやみに開けない。
   十分蒸してから、熱が通ったか、串を刺して“一応”確認する。(取り出す時)
   (刺すと中身がとび出るものは確認できないから、挑戦しない方がよかろう。)

【調味料は自分の頭で考えて選ぼう。】
  良質なものを使うこと。
  色々調べて、選ぶしかない。
  頭では味がわからないから、色々と試してみる。
  (例えば、塩でも、相当な違いがあるのがわかる筈。)

【初心者が避けるべき蒸し調理の食材がある。】
 ・卵系は大概失敗する。
 ・粉モノは準備作業にスキルが必要。蒸す時間で食感も変わり、結果は保証できない。
  (店に並ぶ小麦粉の種別は大雑把すぎる。)
 ・手を加えてふっくらさせようとする類のレシピは結構難しい。
 ・新鮮さが保証できる白身魚以外の魚を使うと、とんでもなく不味いものができあがる。
  - 活きの悪い魚は話にならない。
  - 青魚は生臭さが増す。
  - 赤身魚は肉がパサパサとなり美味しくなくなる。

【味覚訓練は“蒸根菜”料理から始めるとよい。】
  しっかり育てた、ボリューム感ある新鮮な根菜を蒸すだけ。
  留意点としては、蓋を開けずに、十分蒸すこと。もちろん、蒸しすぎは気にしない。
  蒸したら調味料につけて頂く。従って、自分の好みの調味料を用意する必要がある。
  言うまでもないが、味を左右するから、調味料にはとことんこだわるべきである。
  (オジサンなら酒に合うものを探すことが楽しみになる筈。)
   - 塩やオリーブオイルといった単純なものでも違いは大きい。
   - 味噌など余りに多種多様だから、本を読んでも選べまい。
   - 野菜は、見かけや宣伝文句をあてにしてはいけないことがわかる。
  この料理で、野菜そのものが持つ旨みと調味料の深い味わい・香りがわかるようになる。
  当然ながら、サラダに向くような、癖が少ない野菜は避けるべきだ。
  根菜類以外でも、キャベツ/白菜や、 鞘ごと食べることができる豆類も美味しい。

【野菜本来の味がわかってきたら、日常食として、“蒸鶏”家庭料理を作ろう。】
  茹でた鶏を蒸し鶏と称しているレストランもあるが、茹でると、本当の旨みがわからなくなる。
   ささみ、胸、手羽、腿、それぞれを蒸して、どんな食べ方がよいか考える。
  皮や脂の好き嫌いもわかってくる筈。
  それに、鶏と言っても様々。どんな味か、色々と試すとよい。
  こうして食べていれば、自然に料理の技術力がついてくる。
  (鶏嫌いな人は難しい。他の肉は、部位の取り方の差が大きいから“学び”にならない。)
  尚、肉から出た汁は別途スープに仕立てて味わおう。良い素材の肉なら、これだけでもご馳走。
  食べ方としては、素蒸しに調味料をつけてもよいし、下味をつけて蒸すのもよい。
  当然ながら、付け合せ野菜を鶏肉と一緒に蒸すと楽しみが倍増する。

【力がついた感じがしたら、本格中華料理“清蒸鮮魚”に挑戦してみよう。】
  レシピ本はいくらでもある。以下は一例。
  1-1 腸と鱗をとった活きの良い白身魚を用意する。
      地場朝獲り表示モノを入手する。
      鮮度が保証できるなら、切り身でもよい。
      皮状態や目の色で経過時間が推定できない魚は避ける。
  1-2 身が厚い場合は、包丁で切れ目(X)を入れる。表面に、ごく軽く塩をふっておく。
  2-1 薄切り根生姜を作る。その一部を鰓に突っ込む。
  2-2 長葱の青い部分を切り、皿に並べ、薄切り根生姜も乗せ、その上に魚を乗せる。
  2-3 好みで、魚にかるく酒を振りかける。(例えば、老酒や紹興酒。日本酒でもよい。)
  2-4 薄切り根生姜を魚にかぶせておく。
  3   蒸気がたぎる蒸し器に、皿ごと入れる。蓋を取らず、20分蒸す。蒸し過ぎは気にしない。
      (時間は魚の大きさで変わるが、薄い切り身なら5分で、皮が厚いものでも25分もかければ熱が通る。)
  4-1 長葱の白い部分を糸切りしておく。(白髭葱切り用道具あり。100円から。)
  4-2 根生姜の薄切りを千切りする。
  5-1 フライパン(あれば中華鍋)で油から煙が出る位高温まで熱する。
      (例えば、落花生油。サラダオイルでもよい。温度が低いと美味しくなくなる。)
  5-2 蒸し上かがった魚を皿ごと取り出し、葱と生姜を取り除く。
  5-x [魚から出た汁だけ鍋に移し、醤油と酒を少々(1スプーン程度)加え、好みで塩や胡椒を振り煮立てる。]
  5-3 用意した糸状の葱と細切り生姜を魚の上にのせ、高温の油を一気に注ぐ。
  5-4 鍋の中で多少煮詰まった汁を掛ける。
  6-1 好みで、葉モノを飾り付ける。(例えば、香菜)
  6-2 皿の油や汁で汚れた部分を拭き取り、食卓に出す。
  6-x [別途作ったスープも添える。]

【尚、高級蒸し料理といえば、福建省福州名物の“仏跳牆”である。】
  蒸し料理といえば、屋台で売る饅頭イメージが湧いてしまう。
  しかし、超高価なスープ料理“仏跳牆”のような蒸し料理もある。(1)
  準備だけで数日かかる。

 --- 追記 ---
調理方法としては, オーブン料理もお勧めだが, 避けた方が無難.
・普及率も低いが, 日本の台所はオーブンが使いづらい設計が多い.
・お菓子作り専用になっていることもあり, 変な臭いをつけると家庭騒動の可能性大.
・電子レンジ兼用型の場合, 勝手に使っていていると, 電子レンジがその間使えなくて文句がでることもある.

 --- 参照 ---
(1) “福建首席名菜:佛跳墻” 福建新聞網 [2007年12月11日]
  http://big5.chinanews.com.cn:89/gate/big5/www.fj.chinanews.com.cn/2007-12-11/1/27264.shtml
(鍋のイラスト) (C) KANO'S FACTORY http://www.chocolat25.com/kfactory/


「料理講座」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2008 RandDManagement.com