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2008.3.6
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素人による包丁さばきの技術論…

 「なに この包丁. 葱がトントントンと切れないと 気持ち悪くて使う気がしないじゃないの.」
  ・・・当家を訪れた 家庭料理50年選手の一言.
  流石に, 普段使っているのは もっと切れないとは 口が裂けても言えない.


 包丁さばきの学習方法についてお話をしたい。
 結論から先に言おう。
 “料理をほとんどしたことがない人は、包丁さばきの勉強を後回しにすべきだ。”

 下手な包丁さばきで結構。とりあえず、今ある包丁を使って料理を始め、味わうことの方が重要ということ。
 だいたい、いきなり素晴らしい包丁を手にして、いくら時間をかけて練習したところで、他の技術がともなわないのだから、たいした料理はできない。そんなことに時間を割くより先にやることは五万とある。
 その例外は、なにがなんでも魚をさばきたいという釣り人位のもの。料理といえば先ずは刺身と考えており、包丁さばきしか眼中にないからだ。
 それ以外の人は、こうした難しい分野は魚屋さんまかせが賢い。間違いなく美味しい料理が堪能できる筈。無理して、不味いものを食すなど愚の骨頂ではないか。

 と言われても、包丁さばきを全く習わないのは不安かも知れぬ。だが、包丁の握り方もわからないなら別だが、ナイフと同じように使えばよいだけのこと。どうしたら危ないかわかない訳でもあるまい。
 それに、面倒な皮むきは、ピーラーでこと足りる。家になければ100円でも買える商品だ。とりあえず包丁を使って料理を始め、慣れてから、包丁さばきの学習を始めても遅くない。焦って始める必要などない。

 ただ、自分の包丁を持ちたくなる気持ちもわからぬでもない。自炊の決意の象徴だからだ。
 もし購入するなら、和包丁ではなく、万能包丁をお勧めしたい。
 素晴らしい和包丁からという意見もあろうが、それは経験を積んでからにした方がよい。和包丁には様々な種類があるが、洋の果物用プチナイフ、パン切り、チーズ切り、といった揃え方とは違い、基本思想は“包丁一本”だからだ。和食の調理用具にはピーラーやスライサーは無いし、鋏を料理に使うなどもっての他。洋のように切り易さを追求している道具ではなく、素材の良さを深耕するための道具だからだ。素人には和包丁は荷が重過ぎるのだ。
 なにせ、刃が片側だったりする。素材を潰さないための配慮に違いなかろう。そこまで神経をつかう気がなければ、宝の持ち腐れになってしまう。
 魅力的でも、素人がついていけるレベルではない。それに、そんな微妙な切り口の差から生まれる味や食感の違いがわかる評価力があるのかも、考えた方がよかろう。

 これで、主張がおわかりになっただろうか。

 包丁に関係する技術は2種類あるのだ。両者は似て非なるものものだから、混同してはいけない。
 「包丁さばきの勉強は後回しに」と言うのは、このうち一方の技術を指している。それは、魚を三枚に卸すとか、薄作り、あるいは飾り切りのようなもの。包丁技の粋につながるもの。
 これとは違うのが、輪切り。
 なんだ、どこが違うかと思われるかも知れないが、よく考えて欲しい。
 全く同じ形に切るだけで、素人とプロの違いは歴然。しかし、輪切りなら、その違いがもたらす味の違いは、おそらくたいしたものではない。
 だが、輪切りと言っても、どんな厚さにするかは自明ではない。厚みが違えば、味が違っておかしくなかろう。ここがポイント。
〜 切り方(1)
円柱 輪/小口,半月,銀杏
直方体 拍子木,短冊,色紙
非定型 粗,乱,櫛,斜目,(ブツ),(ザク)
小さく 賽の目,霰,微塵
細長く 千六本,線,針,白髭
薄く 笹掻,削ぎ,薄,(桂)

 例えば、味噌汁に葱を入れる時、どんな形状に切ったらよいかとか、ジャガイモと若布の味噌汁なら、それぞれどう切るべきか考えて欲しい。切り方で味は変わるのはわかっていても、どうすべきか簡単に答えを出すことはできまい。従って、このスキル、結構重要なのである。名前をつければ、“切り方を設計する技術”になるだろうか。
 日本料理の切り方のバラエティの豊富さの理由もここら辺りにありそうだ。見栄えというより、素材の美味しさを堪能するための工夫を徹底的に進めた結果だと思われる。
 こちらの技術は、料理を始めたらすぐに必要である。必修科目と言ってよいだろう。
 ただ、切ること自体は、ステンレスの良質な西洋万能包丁一本あれば、初心者でもさほど困難ではない。しかも、その程度の切り方の方が家庭料理での味わいに合っていることも多い。下手な切り方であることは必ずしもマイナスとばかりは言えないのだ。そんなことがわかるには多少時間はかかるのだが。
  → 「動画で学ぶ!料理の基本 」“切り方” (C)NEC BIGLOBE

 どうあれ、この切り方のデザイン技術を磨きく必要があるのだが、それには、具が大根だけの味噌汁を作ってみるとよい。
 3日続けて、同じ大根、同じ出汁、同じ味噌、煮かたもそっくりの味噌汁を味わうのだ。おそらく飽きるが、そこは我慢だ。
 【1日目と2日目: 4mm x 4mm x 4cmの棒状の具】
  1日目は4mmの薄い輪切りを何枚も重ねて4mm毎に切る。
  2日目は4cmの厚い輪切りを、そのまま縦に4mm厚で薄板に切り、これを重ねて4mm毎に切る。
 【3日目: 厚さ4mmの扇型薄板を4cm程度に切った具】
  4mmの薄い輪切りを重ね、円の直径方向に切り扇型を作る。それを適宜切る。

 大根の繊維に沿った場合と、繊維を切断した場合で、どれだけ違いが出るか是非味わって欲しい。よくわからなかったら、そんな感覚を麻痺させる食生活が長かったということ。
 そして、棒と薄板という形状の違いも、じっくりと感じ入って欲しい。日本の伝統とは何か想って頂ければ、それだけで大根味噌汁トレーニングの価値は十分。

 そうそう、大根は根元と先では全く味が違う。その違いと間違わないように、ご注意のほど。

 --- 参照 ---
(1) 大石寿子「料理のABC」調理の基本(包丁使い)素材の切り方 All About
  http://allabout.co.jp/gourmet/cookingabc/closeup/CU20020219a/index2.htm
(包丁・ピーラーのイラスト) (C) Hitoshi Nomura NOM's FOODS iLLUSTRATED http://homepage1.nifty.com/NOM/


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