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2008.4.30
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鮨からの学び…

 ビュッフェスタイルの会合で人が集まるのが寿司コーナー。
 特に、高齢層が多いと、他の料理はほとんど残っていたりして、その差に愕然となる。
 軽いから人気が出るのだろう。
 夜遅くから食べ始める欧州のビジネスマンも、この軽さを知って跳びついたのではないか。
 もっとも、訊ねれば、魚食が健康に良いからと言うに違いない。
 フリーミーなソースたっぷり料理は胃がもたれるとは言いづらいから当然である。


 気分をかえて、SUSHIでも作るか、という気になる方も少なくないと思う。

 コレ、失礼ながら、便利さで選択してはいないか。拙宅がそうだからである。
 刺身盛り合わせと焼海苔を買い、合わせ酢で寿司飯をつくれば、ほとんど準備完了なのだから、恐ろしく楽。もちろん、手巻きの話だが。
(店で選ばれるネタにあわせると、マグロ、甘エビ、穴子、イカ、ブリ類、イクラ、ウニ、鮭、の順で選ぶことになる。光モノ、白身魚、貝、玉子焼きは相対的に人気薄。ただ、値段が高くて下位になっているものもありそうだから、ご注意のほど。)(1)
 これほどお手軽な料理はないが、結構好評なので、選びがちになるのである。
 このため、拙宅には、杉の飯台つきの専用セットがある位だ。と言っても、お金を出して買った訳ではないが。

 これはこれで結構だが、料理をしたいとの意気込みがあるのなら、日本食の伝統を踏まえた鮨を食べようではないか。
 と言う事で、まずは、鮨の歴史の確認。どのウエブにも書いてあるが、知識としてではなく、自分の頭で意味をとらえ返す必要があろう。これなくしては、どんな鮨にするか、考えることができないからだ。

■近畿に残る飯で醗酵させるタイプ■
琵琶湖 >>>
紀州南部 さえら[秋刀魚] >>>
奈良 吉野川 釣瓶[鮎] >>>
兵庫 >>>
 鮨の発祥だが、相当古い。飯を使って乳酸醗酵させた「馴れ」とされる。ウエブを見ると、短時間漬ける“モドキ”品もあるようだ。本来は、飯は完全に溶解し、魚も腐って、臭気紛々の筈である。
 又、長期熟成させるのだから、相当高額な食品にならないとおかしい。
 そう思うのは、ミモレットの、ソフトから、ハード化した12/18ヶ月、かなり硬い24ヶ月、そして、ガチガチの36ヶ月品まですべて食べたことがあるから。それぞれ味も値段も別モノ。家内は24ヶ月モノでないと買う気にならないそうだが、売っていないことも多いのが現実。
 典型は鮒鮨だ。余りに有名になって高騰状態のようだ。
 糠漬ではあるが、若狭のヘシコも同じ類の食品だろう。

 ともあれ、長期熟成「馴れ」に、都会の家庭が挑戦するなど論外。臭いからだ。
 小生の家内はたまたま山羊さんの臭いチーズを好むが、臭い醗酵食品は一部の愛好家止まりである。下手に臭い食品を持ち込むと家庭争議勃発の可能性もあるので注意したほうがよかろう。
 それに、殺菌過程が入らないから、他の菌が入らないとの保証もない。おそらく、そんなこともあって、廃れたのだと思う。残っているのは例外。

■寒冷地の醗酵飯主体タイプ■
北海道 飯(い) >>>
秋田 はたはた >>>
石川 かぶら >>>
 「馴れ」の次に登場するのが「生成」。こちらは、軽い醗酵ですまし、ご飯の形を残そうという考え。典型は「飯(い)」寿司。当然ながら、魚の蛋白は変成しきっていない。要するに、「浅漬け」鮨なのだ。時々見かけるのは、「馴れ」寿司風の「浅漬け」タイプ。“モドキ”品だと思う。

■漁師町の酢添加[姿]タイプ■
熊野灘 秋刀魚
阿南 ボウゼ(疣鯛)
土佐
久留米 カマス
■都会の酢添加[型押]タイプ■
小田原 小鯵
岐阜 朴葉
富山
京都
大阪 バッテラ
和歌山 小鯛雀
奈良 柿の葉
兵庫 穴子
 そして登場したのが、酢で処理する非醗酵の寿司である。即席料理だ。

 それでも、魚を酢で処理するなら、鮨の流れを生かしていると言えないことはなさそうだ。
 しかし、魚はまるっきりの生のままで、御飯だけに酢をかける料理が登場してしまう。江戸前寿司だ。  これは、鮨の考え方を逸脱してはいないか。どう考えても、これは海鮮食だからだ。
 しかも、非海産物メニューまで加えたのである。一つは、海苔巻きの導入。海らしさを維持してはいるが、蛋白質のネタではない。それに加えて、玉子焼まで。これに、どういう意味があるか教えて欲しいものだ。
 おそらく、海苔巻は安価品として、玉子焼きは高価品として、品揃えを増やして商売を強化したということだろう。
 その本質は、甘い酢飯料理ということ。これは鮨ではない。だから寿司と呼ぶのかも知れぬが。

 意外だが、こんな見方をしていない人が多いようだ。
 “海鮮処寿司店という新スタイルが登場!高収益型寿司店タイプ。”(2)とプロが語っている位だからだ。
 “集客に役立つメニューを扱う、それは?”“サイドメニュー”。
 どちらも、昔からの寿司屋スタイルではないかと思うが。

 ここまで説明すればおわかりだと思う。
 そう、日本の伝統食を楽しみたいのなら、酢でしめた魚料理を作るに限る。
 逆に、御飯は酢飯でなくても結構。
 何故かといえば、こちらの美味しさは酢というより、甘さだと思うからである。
 実際、どの位砂糖が入っているかといえば、初心者大歓迎の江戸前寿司基本講座の学校によれば、寿司飯1合には6g使われるそうだ。(3)稲荷寿司だと、さらに、1個毎に油揚に滲みこんでいる3gが加わる。(4)これだけでも、スティックシュガー並の量だ。

 話が長くなったが、それではどんな鮨にするか。・・・実は、お勧めするのは、寿司作りではなく、イワシの酢締め。
 狙うのは小振りモノ。鰯の種類は問わない。
 ただ、朝採りモノを午前中に購入すること。手に入らないなら、止めよう。
 尚、鰯の場合、新鮮さは、教えてもらわなくても、見ればすぐわかる。普段並んでいるものと、色も目つきも全く違うから。
 ともかく一山購入し、すぐに手開きで処理する。(包丁不要)難しい作業ではない。指を入れて、ハラワタを出し、骨を抜き、水分をよくふき取れば、一次処理完成。多少失敗してところで気にしないこと。ウエブには様々な説明があるから、検索してお好きなもので学ばれたらよかろう。(5)

 手開きすれば、普通は小骨が中骨についてとれるから、“骨ヌキ”(毛抜きと同じ道具)を使う必要は無い。注意すべきは、素材の温度を上げないように、氷で冷やしながら作業をすることだけ。手も冷やしながら処理すれば本格的。
 しいてあげれば、クッキングペーパーなどで、水分を徹底的に取ることも重要である。(一般には、塩を振り、少し放置し水分を減らしてから、塩を洗い流して、水を拭き取るのだが、小振りの鰯の場合は、身が薄いから、そのまま酢につけてもよかろう。)

 そして酢締め。
 砂糖や塩を入れたりするのが普通だが、刺身でも食べられるのだから、余計なことをしなくてもかまわない。
 軽く酢が効いてきれば十分。

 これで寿司飯を用意すれば完成だが、味をつけないご飯で食べることをお勧めしたい。
 甘さなしでも、ご飯に甘みがあることに気付く筈である。それがわかると、魚の身に、刺身とは一味違う美味しさを感じることができるかも知れない。酢で隠れてしまうから、簡単ではないが。
 当然ながら、酢は高品質なものを使って欲しい。

 --- 参照 ---
(1) 「水産物の消費動向について 平成19年度食料品消費モニター第1回定期調査結果」 農林水産省 [2008.3.4公開]
  http://www.maff.go.jp/soshiki/syokuhin/heya/m_report/h1901report.pdf・・・意味の薄い回答設定が多すぎ, 情報価値は低いと思う.
(2) 大阪府鮓商生活衛生同業組合青年委員研究部会: 「寿司業界レポート」
  http://www.osaka-sushi.net/page018.html
(3) 東京すしアカデミー スタッフブログ 舎利酢(巣鴨 蛇の目の親父の場合) [2006年4月18日]
  http://sushiacademy.cocolog-nifty.com/home/2006/04/post_2416.html
(4) 東京すしアカデミー 稲荷寿司でお花見♪ 2006.4.3
  http://www.sushi.ne.jp/sushinet2/s016merumaga/mz-vol-42.htm
(5) [一例] 大石 寿子: 「イワシの手開きの仕方」 料理のABC All About
  http://allabout.co.jp/gourmet/cookingabc/closeup/CU20070824A/index2.htm
(すしの情報源) http://www.mirai.ne.jp/~hbnt/dicmenu.html
  日比野光敏: 平成のすし談話室 T's “SUSHI”BAR http://www.mirai.ne.jp/~hbnt/index.html
  同上: 「すしの事典」 東京堂出版 2001年
(鮨のイラスト) (C) Hitoshi Nomura NOM's FOODS iLLUSTRATED http://homepage1.nifty.com/NOM/


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