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2008.10.22
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結解料理から学ぶ…


 東大寺の修二会は752年に始まった法会。
 神道型お祓い、餅を供するなど、日本流。
 行者僧の食事は日に一度、厳格な作法て挙行。
 もちろん御飯。
 ただ、就寝前にはゴボと呼ぶ粥をすするようだが。


 ここのところ、海外の料理ばかり検討してきた気もするので、そろそろ精進料理を学んでみようかと思い立った。といっても、巷のチマチマした精進料理や、工夫を凝らした料亭の料理は参考にしたくはない。もっとも、真似たくてもそんな技量はないが。
 つまり、ここで狙うのは調理の技法ではなく、伝統を踏まえたメニュー設計のスキルである。

 ということで、先ずは、お寺の食事とはどんなものか考えてみよう。

 実は、昔、庭を大切にしている2箇所の宿坊に続けて泊まったことがある。冬の吉野山と高野山である。もちろん泊まり客はほとんどいない。旅館なら、間違いなく大幅値引きだが。
 この2軒、御料理が全く違ったのである。前者は吉野葛料理はあったが会席。後者は純粋な精進。経営方針の違いと言ってしまえば実も蓋もないが、食事とは「思想」を体現するものだと、思わず感じいった次第。
 その前に、たまたま、正暦寺(1)の冬至祭に立ち寄ったので、特にその感を深めた。ここは信者で混雑していたが、甘酒を頂いてから、できたての、南瓜の精進弁当を味わったのである。

 何を言いたいかおわかりだろうか。精進料理を学ぶのなら、どのお寺の考え方を取り入れるかが結構重要なのである。どこでもよいという訳ではない。
 と言うことで、仏教の歴史を追いながら精進料理を検討していこう。素人がどこまで迫れるかはわからぬが。

 仏教と言えば、538年に伝来したとされている。だが、飛鳥や斑鳩の寺は残っているとはいえ、主流の地位を保てなかった。従って、学ぶなら、平城京の寺の食事である。よく知られるように、宗派は南都6宗と呼ばれる三論/倶舎宗、法相/成実宗、華厳宗、律宗。それぞれ元興寺、興福寺、東大寺、唐招提寺が中心だったようである。こうなると、やはり大仏のある東大寺(2)を対象にするしかあるまい。
 このお寺で、一番重要な法会は、神仏混淆の「お水取り」だそうである。(3)
 献立は決まっているそうだが、これはあくまでも参籠する僧侶が厳格な作法で頂くもので、参考にはなるまい。

〜 結解料理のメニュー 〜(4)
儀式 ・般若湯[お神酒]
  -「棒の物」
  -白木の三宝
  -錫徳利一対
  -巻き奉書の白い筒
  -朱塗りの引盃
・大根奈良漬
  -椿皿「弐石五斗」
・青菜酢味噌あえ
・お砂糖
  -お猪口
・小豆餡餅
  -大振りな椀に3つ
・豆腐の澄まし汁胡椒かけ
・素麺出汁かけ
・菜の御浸し
  -「堂の峰」
  -ホウレン草
・梅干/辛子/胡椒包み
・陳皮/浅草海苔
・寒天胡桃出汁かけ
  -「水仙」
・お吸い物
・ 酢蓮根
・紅白朧饅頭
  -米粉製
  -白木の菓子折り
・結び昆布
・お抹茶
 ところが、この寺には、別に、「結解料理」と呼ばれる古くから伝わる食事がある。(4)どのような経緯で今に伝わったのかは判然とはしないが、東大寺が荘園を保有したいた時代のものであることは間違いなさそうである。
 現代では、締め切った部屋でお昼に頂くものになっているが、百目蝋燭に紅漆器で袈裟装束の僧による接待が行われる点をかんがみれば、華やかな頃は、夕刻から数時間かける大饗宴だったに違いない。(茶で〆るし砂糖が登場するから、おそらく室町時代に完成したものだと思う。)
 これは、黙々と食べる、「行」としての食事とは程遠いものだ。歓待あるいは慰労のための歓談を兼ねた宴席料理と言ってよいだろう。
 現代の我々は、精進料理と言えば、簡素を旨とすると考えがちだが、右のメニューを見ればわかるように、これは正反対。「食の豊富さ」を誇示した料理としか思えまい。よほどダラダラ続けない限り、食べきれまい。要するに、寺の権勢を示したというこだろう。

 なんと言っても、この精進料理が面白いのはお酒から始まる点。これは、手向山八幡宮のお神酒なのである。
 メニューから勝手に推定すると、この料理に貫かれている思想は次のようなものではないか。たいした根拠もなく、大胆に決めつけてみただけだから、間違っている可能性は高いが。
  ・酒(おそらく濁り酒)を頂きながらのんびり歓談する。
  ・美味しい水を使った火を通した料理にする。
    -野菜は茹でて食べる。
    -油はできれば使わない。
         (油分を含む胡麻、胡桃、エゴマをすったものを使う。)
  ・旨みは昆布出汁である。
    -出汁で野菜を煮込まない。
    -調味料は藻塩と酒/味醂/酢とする。
         (鼓/醤は使われていたから、味噌/醤油を加えてもよいが。)
    -料理には砂糖を入れない。小豆餡だけは例外。
         (味醂や酒が引き出す薄甘味のみ。)
  ・香辛料や薬味類は山椒、胡麻、柑橘類、程度に抑える。

 と言うことで、この方針にのっとって現代のメニューを作ったみた。
 半日かけ、ダラダラ飲みながら、のんびりとすべての皿を適宜だして、すべてを空にするという食事スタイルである。本来は、自分で作って、自分が食べるのは、この料理の趣旨に外れるが、この程度ならそう負担ではなかろう。
 予め作れるものは用意しておき、昆布出汁を作っておけば、数分で調理が済むからである。

■■ 御酒 ■■
 【日本酒】
     純米酒の非辛口を室温で。
■■ 主 ■■
 【小豆餡餅】
     切り餅を茹で、小豆餡をかける。
 【素麺出汁かけ】
     素麺を茹で、熱い昆布出汁をかける。
     薬味は山椒。
■■ 漬け物 ■■
 【奈良漬】
     瓜の薄切り。
■■ 茹で野菜の和え物 ■■
 【春菊の胡麻和え】
     茹ですぎ、菊の香りが消えたりしないように。
 【芹の荏子(エゴマ)和え】
     茹ですぎ、芹が柔らかくならなり過ぎぬように。
 【蓮根の梅和え】
     蓮根の皮を剥き、薄切りにして四等分する。
     酢水に数時間漬けたのち、十分茹でる。
     梅肉に味醂を加えて捏ねたものを、蓮根と和える。
■■ 柚子風味 ■■ 自製する。
 【青海苔寒天】
     糸寒天を水浸した後、軽く煮る。
     戻したアオサ乾物[青乃利]を加える。
     冷やしてから、適当に切る。
     柚子の絞り汁をかけ、練り芥子を付ける。
 【氷豆腐の煮物】
     冷凍した絹漉豆腐を室温に戻し薄切り。
     昆布出汁で煮込み、塩と酒で味付けする。
     必要なら醤油数滴を垂らす。
     柚子の皮を載せる。
■■ 澄まし汁 ■■ 実は出汁で煮込まない。
 【椎茸の澄まし汁】
     干し椎茸を一日日干して、一晩水で戻す。
     味醂に薄塩で十分煮て、細切りする。
     椀に椎茸を入れ、昆布の出汁を注ぐ。
     胡麻をふる。
 【蕪の澄まし汁】
     蕪の皮を剥き塩茹でする。
     八等分して椀に入れる。
     塩と酒で味付けした昆布出汁を注ぐ。
     蕪の葉微塵切りを乗せる
■■ 〆 ■■
 【黒糖塊のかちわり】
 【煎茶】

 --- 参照 ---
(1) 菩提山正暦寺ホームページ  http://www.asahi-net.or.jp/~id9s-mti/shouryakuji/
(2) 東大寺ホームページ  http://www.todaiji.or.jp/
(3) 筒井寛秀: 「誰も知らない東大寺」 小学館 2006年 179頁“東大寺の神仏混淆”, 33頁“食事の作法”
(4) 寺尾勇: 「我輩はモリアオガエルである−知られざる素顔の大和」 文芸社 2002年 52頁
  團伊玖磨: 「なおかつパイプのけむり13巻」 “結解料理”1980年
  東大寺の修二会と「結解料理」 ルーテル電子図書館
  http://lib.ruralnet.or.jp/cgi-bin/ruraldetail2.php?DSP=SYOKU!29!29_424.htm
(修二会の写真) [Wikipedia] (C) Ignis http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Todaiji_Syunie_Nara_JPN_001.JPG


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