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オジサンのための料理講座 ←イラスト (C) SweetRoom 2008.12.24 |
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身の丈に合ったX'mas料理…独語を第2外国語で学んでいなくとも、“Ich liebe dich.”の意味ならわかる。 しかし、“Huhn in Handschellen”(1)となると難しい。それこそ “フーン”。 das Huhnは鶏だが、「手錠をかけられた変人」とでも訳すべきだろうか。 これが「食」に関係するものとは思わなかった。 精進料理の思想話に凝りすぎたかも知れない。そろそろ、西洋料理に移ろうか。 ということで、今回は、“Huhn in Handschellen”という書名のRezeptbuch(Kochbuch)を取上げてみたい。(GOURMAND WORLD COOKBOOK AWARD 2007-“Best german cookbook Illustrations”) 別に読んだことがあるのではなく、NHKテレビのドイツ紹介番組で登場したと耳にしたにすぎないが。 この本、書名が相当変わっているが、それは、刑務所内の「食」を解説したものだから。と言うと、日本なら、下記のような観光「監獄食」(\500)を思い浮かべる方も多いかも。(2) ・ご飯(米7:麦3) ・味噌汁(ワカメ等に葱) ・オホーツク海産の焼き魚(糠サンマとか、ホッケの開きに、大根おろし) ・切干大根煮物 ・野菜ソテー 栄養だけはしっかり考えた、定食屋メニューに近いが、このようなお仕着せモノのバラエティ集と考えてしまうのが普通。 ところが、これが間違い。 “Huhn”はブロイラーではないのだ。 囚人自らが、知恵を絞って刑務所内で作った料理を紹介したものなのである。 限られた設備で、もちろんお金も限られている。食材も自由とは言いがたい。にもかかわらず、調理と食事を愉しむことができることを示したのだ。そこに、この料理本の価値がある。 もちろん、奇をてらったヒットを狙った面白本ではなく、刑務所の更生活動の一環としての出版だ。 一般に、更生活動のアウトプットと言えば刑務作業製品(CAPIC)で、有機野菜は知られていたが、これに限ってはモノではなくノウハウ。囚人に一般人が教わるのだからそれこそコペルニクス的転回。 (ナチズムの時代の刑務所の実態はよく知られているので、更生プログラムにはことのほか熱心という背景もある。(3)) ちなみに、日本のCAPICは工芸製品もあり、その素晴らしい出来栄えに驚嘆する人も多いそうだ。 → 「刑務所作業製品 e-shop」(オーダーメイドも可能) (財)矯正協会 [日本の場合は、“受刑者に規則正しい勤労生活を行わせることにより,その心身の健康を維持し、勤労意欲を養成し、規律ある生活態度及び共同生活における自己の役割・責任を自覚させるとともに、職業的知識及び技能を付与することにより、その社会復帰を促進することを目的”(4)としている。これに対して、ドイツの新しい取り組みは、そもそも定職に就いたことがない人には、それに合ったやり方をする必要があるという考え方があるようだ。] 「食」の話をするつもりで、大いに脱線したが、このドイツの活動は秀逸。移民が持ち込んだトルコ料理と、ドイツ料理の文化的対立をかかえている国だから、柔軟な食文化を持ち込むことは、偏狭なナショナリズムを抑えることにも繋がるからである。 そんな状況で、こだわりを捨て、身の丈にあった範囲で、工夫をこらした料理を作ることの喜びを表現したのが、この本だろう。素晴らしい企画だと思う。 料理を学ぶということは、こうした喜びを知り、それが自分でできるスキルを身につけることだと思う。 特に、ドイツの場合は、統制経済下で食材を調達できなかった東独食文化もまだまだ残っている筈だ。それこそ、バナナなど皆無で、毎日、ソーセージと豆料理の世界だった。 刑務所の「食」も、一歩間違うと、その手の味もそっけもないものになりかねない。それを、逆に、知的な喜びを発信する側にしたのだ。 意志を無視した統制された食事ほど惨めなものはない。その最たる刑務所の食を変えたのである。ひょっとすると軍隊の“給食”より楽しいのかもと思ってしまう。ただ、現代の先進国の軍隊食は立派なもののようである。(自衛隊は違うような気がするが。) ・イタリア軍はリゾット、牛肉料理、サラダにワイン、そして林檎。 ・フランス軍になれば、もちろんテリーヌあり。 ・米軍は豊富なチョイスを誇る。 コレ、1993年頃ソマリアに派遣されたPKOの昼食メニュー。(5)言うまでもないが、現地の社会には、栄養失調で結核に苦しんでいる少女がいたりするから、その落差に憤慨する人も少なくない。しかし、見かけはパーティ食だろうが、そこは戦場である。楽しい食卓である筈がない。 そもそも、我々はそんな状況を批判できる立場ではなかろう。PKOは人まかせ、貧困解消のための経済構造を考えることもない。その上で、世界から食糧を集め、様々な食を試して愉しんでいるのだから。 と言う事で、話が長くなったが、ご自分で、身の丈に合ったX'mas料理を考えてみたらどうだろうか。 ケーキ、ワイン、特別なディナーとなるが、懐具合に応じたご馳走とはどうなるか、考えてみるのも一興ではないか。 それこそ、囚人の方々との知力競争である。 先ず、ケーキ。 自分の力で、すぐにできるものでの挑戦をお勧めしたい。そうなると、“お菓子の家[Graham Cracker Candy House]”がよかろう。ただ、クラッカーは切りにくいから、市販の胚芽入りビスケット[1箱]にするとよい。クリームと粉砂糖を購入し、これを接着剤がわりにして、カラフルなお菓子で飾るだけのこと。まあ、積み木細工とデコレーションだけ。[装飾にはケーキ用材料ではなく、マーブルチョコレートなどのポケット菓子類を使えばよい。] これならケーキ作りなどしたことのない人でもすぐにできる。 尚、家が崩れたりするのは、工夫する力がないだけのこと。柔らかいクリームで壁が張り付くものか、考えればわかる筈。 まあ、失敗しても食べられない訳ではないから、ご愛嬌。そこが“お菓子の家”のよさ。どうせ壊さなければ食べられないのだから。 さて。ご馳走だが、それほど高額な予算にならないように設定するなら、使用する食材を工夫するとよい。例えば、調達品を以下のレベルに抑えれば、たいしたことはあるまい。 ・スモークサーモン(ピンキリ。ラベル表示確認と、目視での肉質判断が重要。) ・紅ずわい蟹ほぐし身缶詰(一番小さな容量[55g]でもよい。これなら、たいした値段ではない。) ・皮付き鶏肉あるいは、牛もも肉(安価な部位)のブロック ・汎用野菜(タマネギと大根)とマイタケ ・乾燥ポルチーニ(必須ではないが、この味はなかなかのもの。) 一皿づつテーブルに出すような食事はサーブする側も、される側も落ち着かない。従って、大皿や鍋で出して、取り分けるスタイルがよいのではないか。 そして、重要なのは、失敗が少なさそうな料理にすること。 ただ、留意することと言えば、心地よいテーブルセッティング。この努力を怠らないこと。 ■スモークサーモンとオニオンスライスのマリネ■ ・タマネギは薄切りをそのまま使う。 (水で晒すとか、砂糖で揉むことはお勧めできない。) ・ワインビネガー/オリーブ油/胡椒/(マスタード)を混ぜる。 (味を見てから使うので、不味い料理にはならない。) ・マリネにして味が馴染むまで冷蔵庫に入れておく。 ・サラダ菜を皿に敷くとか、ケーパーを加える等はお好みで。 ■蟹肉のゼラチン固め■ ・蟹ほぐし身缶詰から身を取り出し、臭さの元となる水分をよく絞り出す。 ・水でふやかしたゼラチンシート(粉)を、コンソメの素を溶かした水に入れ、暖めてよく溶かす。 (分量を間違わず、沸騰させたりしなければ、失敗することは稀。) ・お好みで野菜(セロリ/人参)の極く小さなサイの目切りを入れても。 ・蟹肉を入れた容器に液体を入れ、冷めたら、冷蔵庫でよく冷やす。 ■蒸し鶏肉(あるいは茹で牛肉)と大根のレモン風味サラダ■ ・ハーブソルトをすりこんだ肉ブロックを蒸すまたは茹でる。 (茹でるなら焼酎、セロリ、人参を入れても。) ・適当に切った茹で牛肉と千切り大根を混ぜる。 (肉質が硬い場合は、細く切ること。) ・生レモンの絞り汁をかける。 (油が入ったドレッシングをかけないこと。) ・香辛料はお好みで。 (蒸し/茹で肉を食べるだけだから、調理スキルがなくても問題はない。) ■オニオンスープ■ ・薄切りタマネギをバターで炒める。 ・茶色になりしっとりしたら料理用白ワインを加える。 (絶対に焦がさぬこと。) ・蒸して出た汁(茹でた残り汁)を足し、煮立ったら弱火で数分煮る。 ・塩・胡椒で味付けて、鍋で出す。 (味を見ながら香辛料を加えれば、不味いものになることはない。) ・それぞれ器にとったら、パルメザンチーズをチーズおろしでふりかける。 ・お好みで粉パプリカを表面に散らす。 ■フライパンごと出すパエリア風鶏(牛)肉ご飯■ ・前日から乾燥ポルチーニを冷蔵庫で水に漬けておく。 ・乾燥ポルチーニ(漬け汁も)に肉茹で汁を加えて鍋で軽く暖めておく。(全体で米の倍量) ・タマネギ、ニンニクを微塵切りにして、オリーブオイルで焦げないように中火で炒める。 ・お好みでサフランを少量入れる。(色や味ではなく、気分。) ・一口大に切った肉を加えてさらに炒め、表面に熱が通ったら、料理用ワインをふりかける。 (トマト類は入れない。) ・さらに米を加え、米粒が熱くなるまで炒める。 (新米は絶対に使わない。お米は洗わない。) ・鍋の液体を一気に加え、強火で加熱する。 ・沸騰したら火を弱め、塩をふり味を調え、マイタケを手でちぎりお米の表面を覆い蓋をする。 (飯盒炊飯できる能力があれば失敗することはない。) ・弱火でじっくり煮て、水分がとんだら、火を止め、そのまま蒸らす。 ・レモンは使わない。 ■ワイン■ ・こればかりは、懐具合による。 (この時期は、不良在庫一掃を狙う業者が活躍しがちなので注意を要する。) --- 参照 --- (1) Santa Fu “Huhn in Handschellen−Das Knast-Kochbuch mit Rezepten, die auch in Freiheit schmecken” [2007.11] http://www.santa-fu.de/Popups/prod_kochbuch.html (2) “監獄食...それは「塀に隠された秘密のレシピ」” 博物館網走監獄 http://www.kangoku.jp/lunch.html (3) Rudolf Egg: “Evaluations of Correctional Treatment Programs in Germany: A Review and Meta-Analysis” International Journal of the Addictions [2000] http://www.informaworld.com/smpp/1225303398-18814921/content~content=a792578046~db=all (4) 「日本の刑事施設」 法務省矯正局 [2008年2月] http://www.moj.go.jp/ENGLISH/CB/cb-02.pdf (5) 辺見庸: 「もの食う人びと」 角川文庫 [1997年(初出:1994年/共同通信社)] “モガディシオ炎熱日誌” [参考] インタビュー: 作家 辺見庸 Waseda Weekly [1997年] http://www.waseda.jp/student/weekly/people/obg-813.html (手錠のイラスト) (C) フリー素材クリップアート http://free-clipart.biz/ (Cracker Candy Houseのイラスト) (C) SweetRoom >>> 「料理講座」の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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