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2013.4.7
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料理本批評の愉しみ…

ヒョンなことから、英語の本を借りて読んでいる。2012年に英国発刊のハードカバー。初版は2003年だが、増刷ではなく再刊。他の人のIntroductionが追加されているし、装丁が違うので増補版か。
価格を知りたいので、アマゾンで米、日、英を眺めたら以下の通り。
  Hardcover ($12.05) \1,871 £8.96
  Hardcover-2003 ($26.18) (\10,496) −
  Paperback ($49.97) − £7.19
  Kindle Edition $9.99 \941 £5.93
(括弧表示はアマゾン外の価格。"−"は取り扱い無し。)

小生は、初版より、2012年版の装丁の方が好みだが、どうしても初版をという声もあるのか。それにしてもペーパーバックの価格設定は不可思議。

おっと、失礼。書名を書き忘れた。
Julian Barnes:
"The Pedant in the Kitchen" Atlantic Books(2003/2012)
 (Guardian Newspaper/Atlantic Books; 2003)

尚、再刊にもかかわらず、書評は新たに出ている模様。
 "The recipe for clarified meaning"
  By Lisa Markwell Sunday 09 September 2012 Independent
 "Why cooking by the book is always a recipe for disaster"
  By Roger Lewis 17:28 GMT, 23 August 2012 DailyMail


こんなことをウダウダ書いていると、翻訳本が無いと誤解されそうだが、2010年に発売されている。新聞書評も出たから、広く認知されている筈。
 本よみうり堂-書評 2010年7月26日 読売新聞
  By 黒岩比佐子(ノンフィクション作家)


ただ、ジャンルがユーモア本。にもかかわらず価格が¥2520(税込) と、少々高め。出版社名を見れば、普通の価格帯という印象だが、はたしてどの程度売れたのだろうか。もっとも、著者は高名な小説家だそうだから、ファンは必ず読むと思われる。もちろん小生は該当しない。
 ジュリアン・バーンズ[堤けいこ 訳]:
文士厨房に入るみすず書房 2010年
小生は言うまでもなく翻訳書を買わなかったクチだが、それは題名に惹かれなかったせい。題名から勝手に内容を想像してしまったのだ。
海外ものであるにもかかわらず、偏見を交え、日本の「文士」イメージを当てはめた訳である。「文士」料理とは、たいていは、料理書をあてにせず自己流でいくぜスタイル。見方を変えれば、馴染みのシェフあるいは板前さんから教わって、自分で一工夫した料理の自慢話。ただ、その気分はよくわかる。文士が、奥さんあるいは恋人の作る料理に期待しているとは思えないからだ。その状態で、外食で口が驕ってくるのだから、家で彼女に作ってもらっても、不満は高まるだろう。時間はかかるは、たいして美味しくないわで。そこで、つい一言発してしまうとアウト。自分で作る破目に陥る可能性は極めて高そう。おそらく、英国の文士文化とは違うだろうが、この題名だと、どうしてもこうしたイメージに映ってしまう訳である。
ただ、実際に読んでもみても、以下の文章のイメージと「文士」という用語のイメージが合わない感じがする。といって、「ペダンティック」のようなカタカナ用語は使いづらいし、衒学者とするのもどうかと思う。実に、悩ましいところ。
"In the kitchen I am an anxious pedant.---
  I trust insturuments rathere than myself." [pp4]
"in pre-culinary days,
  I am exhibiting sympathetic kitchen anxiety." [pp33]


余計なことを書いてしまったが、実は、大いに共感を覚えた書。もっとも、それは、料理書を読むとフラストレーションが溜まる人に限られるかも。それを批判としてぶつけるのではなく、ユーモアのセンスで書き下ろした本であり、流石英国文士の作品といえよう。

ただ、英国と日本の違いは結構あるかも。
そう思ったのは、タマネギの大、中、小の表記の指摘。これじゃ不十分というのだが、日本では、それさえも省かれていたりする料理書だらけでは。その一方で、食品メーカーの商品に記載されているレシピでは約何グラムとなっていたりする。そりゃそうだろう。大がどの位の大きさかわからないし。
日本の場合はタマネギよりジャガイモが問題児。料理書の不親切ぶりは凄い。メークイーンと男爵の違いとか、新ジャガの美味しさがコラム的に必ずと言ってよいほど記述してあるが、各レシピに各品種にどう対応すべきかが全く触れられていないのが普通。コロッケと肉ジャガの話から推定しろということのようだ。それこそ、ジャガイモにタラゴンでいくなら、どうするネ。まあ、タラゴンの量など、好き好きではあるが、ポテトはどれを選ぶかな。キタアカネかネ。
まことに教育効果を考えたご親切な本だらけ。
結局のところ、ほとんどの本は写真集でしかない訳だ。そんな本はよせ、というのがイの一番の教訓だそうだが、納得。・・・もっとも、英国ではクリスマスや誕生日のプレゼントとしてもらう本だから、美麗写真集なのは当然だろう。日本では、実用書なのだから違ってもよさそうだが、ほとんどかわらない。

「一晩水に漬け」というのも、なんだかね。
もっとも、この表現に違和感を覚えると漏らすと、アノ人変人ヨと呼ばれて村八分にされかねないからご用心である。まあ、英国も日本も、料理本を購入する人は、反科学信仰者が多いということかも。それは大袈裟か。
それにしても普通に疑問が湧くと思うが。・・・半日暗い所に置くべきなの?、低温にすべきだとすると、夏は冷蔵庫に入れた方がよいの? 忘れて長く漬けておくと不具合がおきるの?
実は、そんな話をプロとしたことがある。黒豆の煮物が美しくかつ美味しかったから、雑談がレシピの話題に移っただけ。流石ノウハウの塊かと思いきや、古くてよく乾燥した豆を使って水を染み込ませればよいだけのことだというのである。新豆を避け、豆に水が含まれたことを確認できれば失敗など無いそうである。まあ、言われてみればそりゃそうかもとなるが、そんなことさえ料理本には書かれていない。

短時間クッキング本についての評価話もイイネ。
日本の本は、ここら辺りはピンキリ。小生も有名人の傑作集とやらを見て作ってみたことがある。確かに、間違いなく短時間で「料理」はできる。しかし、それは、小生にしてみれば、水も無い場所での「登山料理」となんら変わらない代物。そんな本が必要なのか大いなる疑問。まあ、確かに、PEASレシピは優れているのは間違いないから、引用させて頂こう。
  Buy cooked peas in a tin.
  A half-pound tin is sufficient for two or three people.
  Open the tin.
  Pour the contents into a bowl.
  Drain off the liquid.
  There is almost too much. [pp34]

缶詰の中身をそのまま出すのは台所料理ではないと言う人もいるが、台所が無い外だって同じだ。ハイキングに缶詰はとうていお勧めできない。重いし、空き缶を持って帰るのが面倒だからだ。しかし、もし、プラボトルの白ワインとガスをザックに詰めるつもりなら、オイルサーディンの1缶追加は悪い選択ではない。素晴らしい料理を作れること請け合い。もちろん、3分間料理である。この場合、缶蓋を外しきらず、溢れないように白ワインを加え、再度蓋を閉めて加熱することが肝要。このことは、レシピにしっかりと書かねばなるまい。
そうそう、1人前¥1,000以上の予算で時間をかけてタイカレーを作って、缶詰と競争してみるのも悪くない。料理本のレシピに従うだけで、誰でも確実にできあがる。難しいことはない。まあ、そこいらの自称タイレストラン並といったレベルのことが多いが。これは、評価能力が低いせいと思っていたが、そういう話ではないことを最近知った。¥100の缶詰を試したからである。これをサーブするだけで、プロ級の料理が提供できるのにはまいった。ちなみに、その約4倍の価格品より、タイらしき深い旨みを感じることができるのだ。
¥1,000の豆腐より、大量生産の廉価な豆腐の方が美味しいと感じる人が多いのが現実。単なる手作りという点しかウリがない料理本も少なくないのだが、そんな本のレシピにどういう意味があるのだろうか。それは、単なる反工業信仰以外のなにものでもなかろう。

その手の本に限って、理由なしに、親切に「常識」を解説してくれる。カキはR月に限るという説など典型。もし、これが輸送上の鮮度保持だけのことなら、日本では、ほとんど意味なかろう。かえって、冬の方が油断していて危ないかも知れぬ。そんなことを思うのは、夏の肥えたカキの美味しさを語る人も少なくないからだ。もっとも、都会の夏のカキはほとんどの場合は冷凍ものだが。
パイナップルの食べ頃の見分け方も、どうかと思う。滅多に当たらない。
こんな点をあげていけば、きりが無いかも。そうだとすれば、料理本とは、浅知恵の押し込み書と言えそう。料理における無知を広げるための本との批判を受けても致し方あるまい。

つらつら書いてきたが、この辺りでおしまいにしよう。


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