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オジサンのための料理講座  ↓イラスト (C) SweetRoom

2014.3.4

 

料理本のピカイチ…


  もしも
  僕らのことばが
  ウイスキーであったなら
   
村上春樹 1999年

表紙を見ると面白そうな料理本はあるのだが、手にとって頁をめくった瞬間に興味が失せることが少なくない。
装丁や写真に凝っていても、なんとなくだが、軽薄感が漂ってきて、つまらないのである。

しっかりしている本だと思うのは、たいていは、柴田書店発刊の大判サイズ。明らかに、料理家の意図と、その技術を伝えることだけに注力していることが見てとれるからだ。
プロ用の書籍だと、料理だけでなく、器と一体化したプレゼンテーションがどんな具合かが一目でわかる写真が掲載されている。流石である。
ただ、オジサンには余りに敷居が高すぎる。

もっとも、そうでない、オジサン向きのお気軽な本もあることにはある。間口一就さんという銀座のバーテンダー氏の著作である。面白いから、ご覧になった方も少なくなかろう。
   「バーの主人がこっそり教える味なつまみ
   「バーの主人がこっそり教える甘いつまみ
      柴田書店 2009 2010
角瓶ハイボール復活の風潮にのせた企画という感じは否めない本だが、バーのつまみと言うか、キッチンなしでささっと作れそうな作品は出色もの。
実はネ、プロだから「手軽にできるもの」に価値がつくのであって、オジサンは「手がかかるもの」の方に価値を見出すもの。

もっとも、古典的な単独派山行人種だと、たいていはウイスキー水割り派だった。消毒薬として必需品と称して。当然ながら、つまみは乾物を工夫することになる。干し鱈に干し大根でも結構いけるもの。熱したオイルサーディン缶詰など抜群の美味しさ。
甘納豆の汁粉擬も、疲労感があるためか、ウイスキーに合ったりもするもの。
一寸手をかければ、山ではご馳走そのもの。水を汲みに行くだけでも重労働になるのだから。
従って、簡単なつまみを工夫することなど、お茶の子サイサイになるのは必定。もっとも、それを里で食べるとちっとも旨くないことが判明する訳だが。

本屋さんには、流行していそうなテーマの本は溢れかえっている。まあ、ほとんど健康食か。ちょっと見にはどれも似たりよったり。
表紙のイメージが自分好みのものを選ぶしかない。当りもあれば、大ハズレも。従って、料理本はできれば買いたくはないのである。

しかし、それもたまらないので、図書館へ、全体がどんな状況か見に行ったりした。ところが、ココも使いづらいこと夥し。
著者のアイウエオ順の配列なので、はなはだ使い勝手が悪い。興味を覚える分野の本など探せたものではない。

そこで、先日、意を決し、2時間費やし、アからワまで、どんな人達のどんな本があるか眺めまくった。

その結果、小生がピカイチと思った本は中華料理本。・・・
  「ウー・ウェンの北京小麦粉料理
      高橋書店 2001

料理本を見直した。これは正しく「思想書」である。

出版社の口上によれは、「はじめから終わりまで、プロセス写真で徹底的に解説しているので、手順とポイントが一目瞭然。」 この言葉、確かに嘘偽り無し。
とんでもない情熱を傾けたカメラマン氏の作品と言えなくもないが、それを引き出しているのは料理人の思想だと思う。
コレを教えねば。そして、コレがわかれば、中華料理の素晴らしさを味わえるのだゾという気持ちがフツフツと伝わってくるから凄い。
出版社名のイメージから、まさかこれほどまでとは想像だにしなかった。

そして気付かされたのである。

ほとんどの料理本はイメージ写真集でしかないことを。
新しいレシピであっても、それは自由な発想から生まれたものではなく、人気ありそうなパターンに合わせた情緒的なもの。
残念ながら、料理人の言葉が、本から、さっぱり伝わってこないのである。
しかし、だからこそ、お気楽に眺めていられる訳で、出版ビジネスとしては正解ということか。

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