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オジサンのための料理講座  ↓イラスト (C) SweetRoom

2015.12.20

本格的な土鍋水炊も一興…

なにげなしに楚辞を眺めていたら、豪奢な都での宴会のメニューが登場してきた。と言っても、満漢全席のようなものではなく、高級ではあるもの、奇をてらったものではなく、まともそうに見えるもの。ただ魚系の魅力が乏しいといった、欠点はあるものの。全体の印象としては、現代の中華コース料理と多少の違いはあるものの、十分通用しそうといったところか。

こんな感じ。

・・・室家遂宋,食多方些。
稻粢麥,黄梁些。
 米、キビ[黍]、麦(早生と晩生)、黄色の粟を混ぜご飯。
大苦鹹酸,辛甘行些。
< 大苦、塩加減、酸味、辛さ甘さの調味。
肥牛之腱,臑若芳些。
 肥牛の筋は軟らかくなるまで煮て芳香発散。
和酸若苦,陳呉羹些。
 酢の酸味と苦味味噌で和えて、呉国風の羹(お吸い物)。
炮羔,有柘漿些。
 スッポン[鼈]煮込みと子羊丸焼きに砂糖黍シロップ。
鵠酸鳧,煎鴻些。
 白鳥酢味煮物、蒸鴨肉、雁と鶴の揚げ物。
,試ァ不爽些。

 鶏の水炊き、海亀のスープ、軽薄ではなく重厚タイプ。
蜜餌,有些。
 糖蜜かけオコシ、型飴。
瑤漿蜜勺,實羽觴些。
 シロップ入り飲物を柄杓で注いで満たした盃。
挫糟凍飲,酎清涼些。

 粕のオリを濾し取って冷やした、清涼感溢れる酒。
華酌既陳,有瓊漿些。
 見事なお酌用酒器が並び、玉のような飲物が勢揃。
歸來反故室,敬而無防些。・・・ [招/魂@「楚辭」]

・・・大招: 魂乎歸來!樂不可言只。
五穀六仞,設菰梁只。
 五穀六尋も積み上げ、菰の実の粟ご飯設けし。
鼎臑盈望,和致芳只。
 鼎に満つる煮物を前に望みて、芳香漂い和す。
鴿鵠,味豺羹只。
 十分に身がついた鶴、鳩、白鳥、味深き豺の羹(お吸い物)。
大招: 魂乎歸來!恣所嘗只。
,和楚酷只。
 活海亀、甘鶏の楚国風乳酪和え物。
醢豚苦狗,膾苴只。
 醢ソース豚肉、苦味噌狗肉。刻み茗荷でのナマス(膾)仕立て。
呉酸蒿,不沾薄只。
 呉国産酢の蓬。強くもなく、薄くも無し。
大招: 魂兮歸來!恣所擇只。
烝鳧,鶉陳只。
 鶴の炙り焼物、鴨の蒸物。鶉の水炊きも並べ。
鰿雀,遽爽存只。
 鮒の煎物、雀のお汁。すぐに、次々とお出しする。
大招: 魂乎歸來!麗以先只。
四酎並孰,不澀只。
 熟成した四種の酒を並べ、皆、喉にひっかかりなど無し。
清馨凍飲,不役只。
 清らかにして冷涼なる飲物は、ご用役に呑ませては駄目。
呉醴白,和楚瀝只。
 呉国産の醸造酒に白麹を加え、和らげて楚国風にした澄酒。
大招: 魂乎歸來!不遽タ只。・・・  [大招@「楚辭」] 

子羊丸焼きに砂糖黍シロップなど、現代で言えば、ラムチョプのリンゴソースかけと五十歩百歩。中華風の感じは全くしないだけ。
それにしても、牛筋の煮込みには驚いた。調達して余った部材を使う料理かと思いきや、立派な正式料理として通用していたからだ。小生は好みだが、それは、一昔前はえらく安価だったせいもある。今は、そういう訳にはいかない。なにせ、〇〇産黒毛和牛のスジなる表記。ステーキ用と同じような扱いで、次第に高級品化しているようだ。コリャ、温故知新か。
もっとも、鮒は泥臭さがあるし、雀は骨ばっているので、ジビエ愛好者は別だが、食材としてはどうかと思うが、選定されている。楚の鮒とか雀は、日本の種とは違って大きくて肉質も違う可能性もあるから、なんとも言えぬが。

お吸い物は、日本の古代も同じだが、鶴が最上級品だったようだ。縁起担ぎというより、あっさりしていて雑味無しなのに、脂がのっていると点が好まれたのだと思われる。いかにも脂肪リッチそうな白鳥もそうだが、これらの鳥を指さし、一度食べてみたいなどと口に出そうものなら、村八分間違い無しだろう。

亀甲占トの社会だったから、海亀肉は上流階級の料理には必ずのぼったと思いきや、泥中に棲んでいそうなスッポンが喜ばれているのも面白い。コラーゲン成分のトロミは他では味わえないからか。

こうして考えていると、古代の宴会の流れをそのままにして、「旨い」と言えるのは、鶏の水炊きではないか。(鶉は冷凍品があるが、骨っぽくてイカン。)その場合、本格的な古代型水炊き料理で頂きたいもの。

重要なのは、もちろん素材だが、調達部位を間違わないようにせねば。メインはもちろん骨付きのブツ切。しかし、出汁というか、湯(スープ)は別に作ること。ここが肝心。もちろんガラから。そして、料理屋の真似ではないから、余計なものは一切入れないこと。(トロミ的な白濁を糯米で出すようなことはしない。臭み消しの生姜等も入れない。)
こちらは冷凍でもかまわないが、良い素材のものを選ぶ必要がある。時間がかかるので、その余裕が無いなら中止すべきである。中途半端な調理は大損。
あとは、笊で濾したスープを冷ましてから肉を入れて煮るだけ。「水」炊きではなく、「スープ」炊きである。(料理屋は、入れる肉にあらかじめ熱を通しているので、とろける食感がでるが、そのようなことはしない。)
ここで重要なの鍋。スープ作りの鍋はなんでもかまわぬが、肉を入れる鍋は土鍋に限る。熱のかかり方が全く違うからである。そして、蓋を開けぬこと。下手をすると吹きこぼれるので、蓋の孔から蒸気が出始めそうになったら火を弱める訳だが、これは馴れないと加減がわkらず難しい。出来上がったら、弱火の卓上コンロに移動する。
野菜等はお好みで何でもかまわぬが、卓上に供された出来上がった鍋に入れること。言うまでもないが、スープが減ってきたらつぎ足せばよいだけ。

最初に、塩胡椒を入れた湯呑にスープを少量注ぎ、その味を確かめるとよい。
もちろん、薬味や、ポン酢などは、お口に合うものを適当に。それに凝る人も多いか、この手がかかった方法での水炊きの場合、ママをお勧めしたい。言うまでもないが、鍋以外の料理は漬物も含めて不要である。
気分的には濁り酒といきたいが、本格鍋は、温燗でダラダラといきたい。マ、ビールの旨みも最高なのだが、速度的にダラダラ型に向かず、どうしても飲みすぎる。

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