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2002.7.21
 
 


2周遅れの構造改革…

 2002年7月に入り、日本経済底入れ、との政府見通しについてのコメントが連日新聞紙上を賑わしている。論点は様々だが、好不況の波に洗われる旧来型経済構造を前提とした議論が多い。そして、おきまりのように、構造改革は別途進めないと長期的には成長なし、とのご宣託が付く。
 これではっきりしたのが、オピニオンリーダーや政策担当者の語る「構造改革」の意味だ。過剰債務・過剰生産能力・過剰雇用を清算することを「構造改革」と呼んでいる。

 余剰や無駄を思い切って切れば生産性は上がる。ここに踏み込まない限り、企業収益は回復しないから、必須条件である。しかし、その程度では、世界の成長競争にはとても勝てない。負ければ、没落必至だから、成長型経済構造の確立は緊要な課題である。しかし、その解決策はわかっている。成長余力を生み出すには、イノベーションが主導する経済に変えればよいのだ。これが構造改革だ。
 驚いたことに、この点を理解し、構造改革を主張する政治家、エコノミスト、財界人は未だに少数派だ。多数派は、2周遅れの構造改革、「過剰切り捨て」の実現を、守旧派相手に議論することに忙しい。

 イノベーション主導型経済とは、リスクに賭ける挑戦型企業経営を基調とする経済である。今のところ、この方式以外に、成熟社会の生産性向上の道は見つかっていない。自社の浮沈を賭けた研究開発か、リスクマネー活用による、イノベーション創出に進むしかないのである。
 しかし、一部のイノベーティブな企業を除けば、日本企業の大半は、リスクを負えないほど傷んでいる。そのような企業にイノベーションを期待するのはもう無理だ。リスクを負える挑戦的企業への支援策を急ぐべきである。

 もちろん、リスクに賭ける挑戦型経営は過酷な世界だ。ヒト・ゲノム解読に世界で初めて成功したベンチャー企業、セレーラの株価を見れば歴然としている。PEシステム(現在はApplera Corp.)とTIGR創設者のベンダーが1998年に設立した僅か2年後、株価は一気に上昇し300ドル近辺になる。ところが、2002年初頭には25ドル、7月にはついに10ドルレベルに下落した。(http://www.celera.com/company/celeraInvestor_frameset.cfm)
 ベンチャー市場とは、このような世界だ。リスクマネーを活用した経済に移行すれば、従来の景気の波よりアップ・ダウンは激しくなる。ITバブル崩壊は、たまたま起きたというより、仕組み上避けがたい現象だ。イノベーション創出で株価が高騰し好況を迎え、イノベーションが滞ると、一気に株価が暴落し不況化する。金融政策で変化の緩和は可能だが、調整などできかねる。株価が落ちれば、イノベーション創出を支える資金が滞り、景気腰折れが長期化する可能性さえある。

 イノベーション創出は言葉としては美しいが、既存産業に対しては破壊的な役割を果たす。構造改革とは、イノベーションが勃発する社会に移行することだ。成長の可能性はあるが、過酷である。
 日本の指導者は、このような社会を避け続けてきたが、2002年7月、ついに正念場が訪れた。ダウが8000ポイントに落ちたからだ。世界の経済を支えるエンジンが不調となれば、自動的に進路の選択を迫られる。暫時低迷後の没落社会か、ハイリスクで変動が激しい社会のどちらかである。


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