↑ トップ頁へ

2003.5.5
 
 


産業再生機構への一縷の望み…

 2003年のゴールデンウイークあけから、産業再生機構の業務が始まる。この段階になっても、機構の評価は、180度わかれている。
 「素晴らしい人選だ」として、後押しする人がいるかと思えば、政府による損失「飛ばし」でしかない、と酷評する人もいる。

 素直に見るなら、筋の悪い展開であるのは間違いない。欧米の専門家はネガティブにしか見ないだろう。そもそも、自由主義経済信奉者なら、政府機関が企業の生死を決定する仕組みを肯定する訳がない。
 典型的な意見は、David DeRosa(Bloomberg)のコメントだ。日本政府はゾンビを助けるつもりだ、と呆れ返っている。この先、損失補填にいくら税金を注ぎ込むつもりなのか、と唖然としたようだ。(http://quote.bloomberg.com/apps/news?pid=10000039&sid=antGFgujQWFw&refer=columnist_derosa)

 要するに、グローバル競争についていけず敗退した日本企業を、政府が救うつもりと見なしたのだ。
 といっても、自国産業の防衛を放棄する政府がある訳がない。救うことが問題なのではない。
 この過程で、不良資産を処理する方法に問題があるのだ。社会主義国でなければ、できる限り市場原理を導入して処理を進める。これは鉄則といえる。そもそも妥当な資産価格などある訳がないから、取引価格は市場に決定させるしかないのである。
 ところが、日本の場合は、価格を政治がコントロールする。鉄則と正反対の施策と言えよう。

 海外論評に待つまでもなく、このような政府の姿勢に対して、真っ当な批判も多い。このままなら、産業再生機構は政府主導の巨大な「救済機関」になる、との危惧感を示す意見が多かった。
 誰が考えても、怪しげな点ばかり目だっていたのである。(例えば、鶴光太郎「国家的モラルハザードとは何か」、週刊エコノミスト、2003年1月14日号)
  第1は、企業の再建の可否の基準問題だ。
   判定にバイアスが入る仕組みである以上、不採算企業に資金を流し続ける社会主義的政策がまかり通る懸念は消えない。
  第2は、非メインの金融機関から買い取る制度だ。
   再生に協力できないのだから、再建の可能性が低いものを買い取るのではないかとの懸念は消えない。
  第3は、曖昧な買い取り価格問題だ。
   再生計画を踏まえた適正な時価とされているだけだから、金融機関に損をさせない価格で購入し、損失の「飛ばし」先の役割を担う懸念は消えない。

 要するに、市場メカニズムをとり入れた評価が期待できそうにないのである。
 胡散臭い評価では投資家は去るだけだ。リスクに見合ったリターンが期待できることを示し、投資家の関心を集められないなら、再生などありえないのである。少しでも有望と感じれば、事業取得競争が始まる。そして市場価格が形成される。・・・これが、再生の仕組みなのである。
 どう見ても、産業再生機構がそうした方向に走っているようには見えなかったのだ。

 一方、ロバート・フェルドマン氏は、産業再生機構の成否は、意思決定者の人選で決まると、早くから指摘していた。政治力で評価が歪むことを避けられるかは、人で決まるという訳だ。(http://www.msdw.co.jp/securities/jef/jaew/docs/jaew_021216.pdf)
 そして、機構が発足してからは、素晴らしい人選だから期待が持てる、との発言を繰り返している。
 どう見ても、いい加減な仕組みなのに、期待できるというのだから驚きである。不備な制度をものともせず、リーダーシップが発揮できれば問題は解決すると主張していることになる。

 そのようなことが可能なのだろうか。

 確かに、斉藤惇社長は債権部門出身(元野村証券副社長)で国際部門の経験もあるから、欧米の投資銀行/運用会社とのパイプが太いと思われる。履歴から判断する限り、米国流企業再建手法の知識も豊富と考えられる。しかし、この程度では、素晴らしい人選とは判断できかねる。後は、インサイダーにしか分からない。
 但し、この人選で、国家統制型救済策だけは逃れたといえるかもしれない。

 その上で希望が湧くとしたら、1つしか考えられない。
 果敢に投資を図る海外投資家への事業譲渡である。疲弊し切っている国内で動いたところで、抵抗と調整の労力ばかり嵩む割りに成果は小さい。欠点だらけの仕組でも、外資導入ができるなら、早期に問題は解決する。場合によっては、興味を持つ外資に値踏みさせてもよいのである。
 こうした施策は、M&A収入が減っている欧米の金融機関から大歓迎を受けるのは間違いない。しかし、国内からは、ハゲタカファンドを利する方策と大反撥を受けることになろう。

 フェルドマン氏は、こうした反撥があっても、機構トップは一気に進める決意を固めた、と見なしたのかもしれない。


 「政治経済学」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2004 RandDManagement.com