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2003.5.12
 
 


ワールドコム問題とは…

 経済のグローバル化に反対する人達は、米国型経済の仕組みがお気に召さないようだ。
 確かに、米国の態度は傲慢であるし、他国への強引な資本進出も目立つ。他国の主権を無視した侵略行為と憤る人がいてもおかしくはない。

 しかし、こうした見方は冷戦時代のものである。反米運動を繰り広げたところで何の意味もない。
 反米運動を繰り広げる情熱があるなら、グローバル経済のなかで生き残るためには、どうしたらよいか知恵を絞るべきだろう。

 マネーは世界を回っており、それ自体に国籍などない。日々、リスクとリターンを判断して、瞬時に動いている。従って、米国政府だろうが、主要国政府が束になったところで、マネーの流れをコントロールすることはできない。この世界から外れているのは、今や、北朝鮮のような特殊な国だけだ。その北朝鮮国民でさえ、ドル紙幣を欲しがっているのが現実だ。

 米国政府がいくら強腰だといっても、世界のマネーの流れを見極めながら、自国の利益になるように舵を切るだけである。米国政府が勝手に世界を動かしている訳ではない。
 と言うより、マネーの流れが急変し、自国が溺れないように必死に立ち回っていると見た方がよい。

 どの国でもマネーがなければ経済は立ち行かない。資本に逃避されれば、国は滅びる。国家繁栄の前提は、マネーを呼び込むことである。
 米国でさえ、資本を海外から呼び込めなければたちどころに破綻する。

 実際、米国のマネー不足は深刻である。膨大な貿易赤字を計上し続けており、この状況を変えるつもりがないからだ。しかも、日本を始めとして、米国への輸出を経済成長の機関車にしている国が多いから、海外もこの状態を後押しし続けている。
 マネーが米国通貨のドルだから、このようなことが可能だが、他の国ならとうの昔に国家破綻である。
 このため、90年代初頭から、「遠からずドル大暴落到来」と叫び続けるオピニオンリーダーもいる。(もっとも、米国は消費を抑えるべきだ、との真っ当な主張も、最近は余り聞けなくなったが。)
 米国政府は、海外に流出したドルを、投資資金として還流させることで、破綻問題を回避し続けている。そして、国外での現物ドル流通(というより箪笥預金)を黙認してきた。

 ひとまず成功してはいるが、基盤は脆弱である。どう見ても、ドルを信用する世界中の人々の幻想の上に立つ、自転車操業状態といえる。

 自転車が転べば、ドルベースの世界経済は恐慌必至だ。他国もできる限り米国を支え続けるしかあるまい。米国が強硬であろうとなかろうと、それ以外に手はない。

 こうした背景を理解した上で、ワールドコム破綻を眺めると、この仕組みにほころびが発生したと見なさざるをえない。

 と言っても、「資本市場におけるアングロサクソン型ルールの失敗」を指しているのではない。コーポレートガバナンスの問題はミクロの議論である。マクロの視点で見ることが肝要だ。
 ところが、マクロな視点の意見は、ワールドコムがITの流れにのって資金を集めたことを強調しがちである。甘言で投資を集めた.com企業と同じ扱いで語る。これでは、大きな流れを見逃しかねない。
 ワールドコムは物理的なインターネット用の光ケーブル網を構築しているから、IT企業に分類されるが、あくまでもインフラビジネスの「古いアメリカ」企業である。生産を国外に委託する頭脳労働の「新しいアメリカ」企業とは全く違う。ここに注目すべきである。
 社会の基盤を担う企業が、現実のニーズとは無関係に、巨大なマネーを集め、粉飾によって将来のための社会インフラ構築を続け、ついに倒産したのだ。

 この動きを、マクロで眺めれば、世界からマネーを集めた米国が、将来に向けた壮大な国内インフラを構築させ、できあがったところで徳政令を出した、と言わざるを得まい。

 つまり、ワールドコム破綻は、米国への資本還流の仕組みの質的大変化を意味している。「古いアメリカ」がマネーを集めることができなくなった可能性が高い。
 この先、「新しいアメリカ」が十分なマネーを集めることができなければ、ドルベース取引からユーロへの移行や、米国内投資から中国等への移行が一気に始まりかねない。

 ワールドコム破綻は、激動の時代の予兆といえよう。


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