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2003.12.1
 
 


グローバル化の「実体」…

 2003年秋、グローバル企業の実態を著わした本、「Global Inc.: An Atlas of the Multinational Corporation」 が出版された。
  (Medard Gabel & Henry Bruner, The New Press, 2003 http://www.thenewpress.com/books/globlinc.htm)

 Nayan Chanda氏が、書評(「The New Leviathans」YaleGlobal-2003/11/12)で、この本の“surprising data”を紹介している。
  (http://yaleglobal.yale.edu/display.article?id=2797)
 年企業数
1914 3,000
1969 7,258
198818,500
199230,400
199753,100
199959,902
200063,000

 特に驚きは、企業数の急増である。
  (右表 http://yaleglobal.yale.edu/display.image?id=2795)

 多国籍企業は63,000社にのぼり、世界に散らばる子会社を含めると、9,000万人を雇用しており、そのうち2,000万人ほどが発展途上国だという。世界の生産の25%に当り、上位1000社だけで工業生産の80%を占めるそうだ。
 米国は巨大企業はあるが、数では3,387社と意外に少ない。日本も4,334社だ。これに対して、韓国は7,460社と日本より多い。欧州はEUでカウントしていないから、数が増えるのは当然だろうが、デンマークには9,356社もある。

 確かに驚くような数字である。多国籍企業はここまで世界に浸透しているのだ。
 このような状態でグローバル化反対を叫ぶ人は、一体なにを考えているのだろうか。

 グローバル化の「実体」は明かに多国籍企業である。そして、こうした企業が各国経済にもたらす価値は極めて高い。
 進出先で雇用を生み、資本を投下すると共に、税金を納める。そして、現地で技術を普及させ、マネジメントスキルも教えることになる。

 もちろん、負の面もある。
 メディアを通じて、外国からの新文化が急速に入り込む。商品の浸透により、古い価値観との軋轢も生まれる。消え去る慣習もあるだろうし、壊滅する伝統産業もでるかもしれない。社会秩序が不安定化しかねない。

 しかし、それを避ければ、経済低迷は間違いない。
 多国籍企業を誘致しない限り、その国の生産量が増えない時代に入ったのだ。

 従って、税制/会計規則、労働/社会福祉政策について、国家が「勝手に」政策立案できる時代は終わった、と考えるべきである。
 多国籍企業が不満に感じる施策を打ち出せば、その国から企業が離れていくだけだ。
 国富を増やしたいなら、政府は、多国籍企業に魅力的な条件を提示するしかない。そして、多国籍企業が利益をもたらす活動をしてくれるように誘導するのだ。
 これを怠れば、その国は衰退する。

 そして、忘れてならない効用がある。多国籍企業活動の自由化について「大国」間で暗黙の合意ができ、戦争の危機が遠ざかった点である。

 米・EU・日の自由主義経済圏に、ロシアが加わった。あれほど頑強だった軍事独裁国がグローバル経済に組み込まれる道を選んだのである。石油産業の雄YUKOS-Sibneftが米EXXON MOBILと組んでもよいわけだし、Chevron Texacoと結ぶかもしれない。
  (http://edition.cnn.com/2003/BUSINESS/10/03/russia.yukos/)
 実際、TNK(チュメニ石油)は、すでに英BPと共同で開発を進めている。
  (http://www.bp.com/investor_centre/strategy/tnk-bp/overview.asp)
 そして、インドも開放に動いた。
 中国も大胆にこの流れに乗って高成長を持続している。

 このお蔭で、先進国は「平和」が享受できるようになったと言えよう。
 明かに、多国籍企業の活動を活発化させることが、安全保障に繋がっているのである。

 もっとも、YUKOSとクレムリンの間の角逐を見ると、ロシアがKGB独裁国へ回帰しているようにも見えるし、EUも自国企業の買収防止を認めたりしており、必ずしも「順調に進んでいる」とはいえないが。・・・


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