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2004.1.30
 
 


脱皮不足のエレクトロニクス家電業界…

 エレクトロニクス家電品米国市場での年末商戦は乱売状態だった。

 圧巻はDVDの安売りである。Wal-Martが目玉商品を29ドルで発売したのである。当然ながら、手に入れようと、大騒動が巻き起こった。
  (http://www.cnn.com/2003/US/South/11/29/sprj.hs03.trampled.shopper.ap/)

 これは、米国だから発生した特殊例とは言えまい。

 聞いたことのないメーカー製品であっても、ブランド品の機能や品質とほとんど変わらないことはよく知られている。しかも、万一不良品にぶつかっても、交換するか、現金を返還してもらえる。もともと、故障したら捨てる製品だから、巨大メーカーのアフターサービス網にも意味はない。
 こうなると、信用できる小売り業者が「OK」とみなしたなら、安価な製品の方がよかろう、とのムードが強まるのは当然である。
 そこに、中国の安価生産能力が加わったから、とてつもない価格が登場した訳だ。

 巨大小売り業者のディスカウント力への期待が高まっていることは間違いない。これは、日米欧どこでも当てはまる。

 もっとも、流石に、29ドルは例外的価格と見る人が多いかも知れない。現在のWal-Martウエブ販売価格を見ると、Philipsブランドのプレーヤーが78.84ドル、廉価品(Emerson)が59.63ドルだからだ。
   (http://www.walmart.com/catalog/product_listing.gsp?cat=95987&path=0%3A3944%3A3987%3A62055%3A124618)

 しかし、BestBuyで見ると、多機能プログレッシブタイプが39.99ドルになっている。ToshibaやSamsungのプレーヤーでも69.99ドルだ。
 これが、世界の基準価格になってきたと考えて間違いない。
  (http://www.bestbuy.com/site/olspage.jsp?id=cat03013&type=category&_DARGS=/site/en_US/catalog/fragments/product/olslinelistingsortfilter.jsp)

 大量販売力を持つ小売企業が、エレクトロニクス家電製品なら、こうした安値で販売可能なことを世界に見せつけているのである。
 当然ながら、こうした力がある小売企業の市場シェアは上昇一途である。とてつもないパワーが生まれつつある。

 このため、日本の家電量販店も姿勢を少し変えたようだ。中国メーカー激安品を店頭正面に山積みするようになったのである。
 日本での販売価格を、米国より常に高く設定するのが、この業界の慣習だが、そのまま続けていれば、自らの首を締めかねないと気付いたのかもしれない。

 とはいえ、ほとんどの日本の量販店に、強力なディスカウント力は無い。ムードに合わせて、輸入安価品を並べているに過ぎない。
 例えば、10%の追加購入権のペイバック分を含めた価格だが、東芝のプログレッシブタイプのプレーヤーが12,800円、中国メーカーの最安値品でも8,980円である。
   (http://www.biccamera.com/bicbic/app/w?SCREEN_ID=bw011100&fnc=f&ActionType=bw011100_01&PRODUCT_ID=0010026356&BUY_PRODUCT=0010026356,8980)

 日本の小売りが、この程度の安売りしかできない理由は、安価品をビジネスの核にするつもりが無いからである。差がよくわからぬ商品を数多く並べ、顧客数を増やすことで、売上を稼ぐことで収益を上げる商法を続けているからだ。
 誤解を恐れず語れば、量販としては、歪んだ方針と言える。高額な維持費がかかる一等地の店で、時間がかかる商品説明を前提として、安価販売をするからだ。安価大量販売業者が登場しないため、このような業態がまかり通っているだけである。

 日本では、ほとんどの量販店はディスカウント機能といっても、パパママストアより安く売れるといったレベルでしかない。なかには、高い場合もあるという。どの店も、価格では、たいした差は出せないのである。
 にもかかわらず、優れた戦略や卓越したオペレーションで成功していると誉めたたえられている場合が多い。差が出せないのに、成功しているのだから、日本社会のなかで上手く立ち回る能力が優れている、と言った方が正確だと思う。

 量販店なら、本来は、コストリーダーシップが図れそうなサプライヤー選定して、製品単位で販売企画を立て、大量販売により、市場を席巻することを狙うものだ。
 ところが、日本では、未だに、その流れは発生していない。と言うより、逆の方向が目立つ。コスト競争力を欠くメーカーの製品を安価に販売することの方が多い。
 イメージ商売を続けていると言えよう。

 小売り業界にイノベーターが登場しないのだ。

 お蔭で、メーカーの体質も変わらない。
 インターネット販売サイトを見ても、DVDプレーヤーだけでも、20以上のブランドがある。ところが、見回しても、ほとんどが大同小異の製品を提供している。誰が見てもわかるニッチ品や、特徴がわかる製品は相変わらず少数である。
 (例: AIWA、axion、BOSE、DENON、HITACHI、IODATA、KENWOOD、LG電子、MARANTZ、MITSUBISHI、MOMITSU、ONKYO、PANASONIC、PIONEER、SAMSUNG、SANYO、SHARP、SONY、TOSHIBA、VICTOR、YAMAHA)

 このような経済合理性を欠く業界が何時まで生き残れるだろうか。

 DVDプレーヤーは単純な製品である。
 基本部品は、電源、ドライブ、チップが搭載されている基板の3つである。後は、筐体に、接続コードと幾つかのスイッチ類だけでよい。部品を購入して組み立てれば、即、完成だ。製品の差はたいしたものではない。
 従って、誰でも、すぐに参入できる。

 このような製品市場は、最初は多数乱戦になる。そして、急速に一部のコストリーダーが力を持つようになる。
 このため、参入者は、早くからコストリーダーを目指す。量販と組んで激安販売で勝負をかけるのは当然のことである。

 このような流れを知っているにもかかわらず、日本市場では、相変わらず多数乱立が続いている。
 このままで、抜本的な業界再編を避け続ければ、業界全体が沈没しかねないと思うが、さっぱり動きが無い。

 時間は余り残っていない。

 29ドルDVDプレーヤーが登場したのは、現在、世界からの投資が中国に集中し、生産能力が溢れ返っているからである。
 中国企業は自転車操業化しているとも言える。工場から製品を吐くように出荷するしかなくなっている。
 このお蔭で、市場が急速に拡大した。このため、多数乱戦を続けることができるだけの話しだ。膨大な生産量が何時までも持つ筈がないだろう。
 メーカーも小売りも、多数乱戦から早く脱して新しい方向に進まないと、再び低迷時代を迎えることになる可能性が高い。
 その時が来てから対処するのでは遅すぎる。

  --- 注 ---
 Financial Timesが「China's $29 test」
(2004年1月21日 有料記事)でWal-Martの展開が孕む、深刻な経済問題を取り上げている。


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