↑ トップ頁へ

2004.5.31
 
 


規制撤廃なき中枢港構想…

 「港湾コストを釜山・高雄並みに約3割低減する一方、リードタイムは現状3〜4日をシンガポール並みの1日程度まで短縮」という目標の下、スーパー中枢港湾構想が動き始めた。経済界も期待しているようだ。(1)

 今まで、政府は、すべての取扱い量を合算してもシンガポール1港に満たないような、沢山の小型港湾を全国に整備し続ける方針を採用してきた。所謂「国土の均衡ある発展路線」である。流石に、これを続ける訳には行かなくなって登場したのが、スーパー中枢港構想のようだ。
 コンテナ中継機能を有し海外主要港に対して国際競争力を持つ港湾を育成しようというものである。(2)

 すでに、グローバルで見れば、主要航路を中心に大規模ハブ化が進んでおり、これに対応して船主もアライアンスや巨大化を急いでいる。
 このままでは、さらに地盤沈下しかねないから、スーパー中枢港構築で歯止めをかけようとの意気はよくわかる。

 東京・川崎・横浜の「京浜港」、名古屋・四日市の「伊勢湾」、神戸・大阪両港の「阪神港」といった広域拠点港に梃入れすることで、国際競争力を発揮しようというのだ。
 一見、拠点政策への大胆な転換にも映る施策である。
 しかし、本当にハブ港として競争力を発揮させたいなら、広域でなく、1箇所への集約の方が合理的だろう。
 近隣大型港の提携を実現したところで、コスト削減の余地は小さいと思う。ITを活用したシステム共用化や、オーバーヘッドの削減程度しか考えにくいからだ。
 広域化でスケールメリットを高めると語られているが、港間のコンテナ運搬手段は整備されていない。これでは、かえってコスト高になりかねない。

 そもそも、本気でコスト削減を実現するつもりなら、先ずは、抜本的な業界構造の転換を図るべきだ。これなくして、コストが下がるというなら、政府の補助金がおりるだけのことである。
 スーパー中枢港構想がそのようなものにならなければよいが。

 そもそも、全国に近代的な埠頭を構築してしまえば、海外ハブ港に荷が流れるのは自明である。
 海外ハブ港は、24時間稼動、安価で、迅速な処理ができる。わざわざ、不便で、高価で、時間がかかる国内港をハブに使う理由などない。
 しかも、海外のハブ港には、低収益覚悟で、安価なサービスを提供する海運業者が揃っている。日本の地方港にしてみれば、このような業者に港湾を活用してもらい、港湾投資回収を急ぐと共に、地方経済振興を図るのは、当然の成り行きである。
 例えば、釜山ベースでは、高麗海運(KMTC)、興亜海運(HEUNG-A)、南星海運(NAM-SUNG)、汎洋商船(PAN OCEAN) が日本の地方港へのサービスを提供している。(3)

 もしも、釜山と本気で戦う気なら、規制の全面撤廃しかあるまい。これなくしては、コスト競争力を持つ業者が登場しないからである。
 すでに、拠点港では、小出しの緩和策は行われているが、この程度では新規参入のメリットなどほとんどない。それでも、多少の価格引き下げ効果は期待できそうだが、産業構造は温存されることになろう。
 例えば、ターミナル管理はいまもってバラバラである。合理性は全くない。
 スーパー中枢港構想で、これをまとめても、名目で終わってしまうかもしれない。伝票を通すだけの元請を整理しても、さらにバラバラな実務業者が別に存在しているからだ。業務を細分化し棲み分けている業界なのである。こうした業界は、抜本的な変革なしでは、合理化は難しいと思う。
 海運業者でさえ、未だに、港内はしけ業者と港間運送業者が完全に分離されている。水先案内人でさえ、既得権益の仕組みが存在しているそうだ。

 おそらく、スーパー中枢港湾構想は、こうした構造を変える最後のチャンスだろう。
 これができそうにないなら、この構想は無理筋である。それぞれの港の特徴を活かして、大都市向け生活物資輸送港、工業製品輸送拠点港、特殊貨物輸送港、等、役割を分けて効率向上を図った方がよいと思う。

 --- 参照 ---
(1) http://www.keidanren.or.jp/japanese/journal/CLIP/2003/0211/08.html
(2) http://www.mlit.go.jp/kowan/nucleus_harbor/nucleus_harbor2.html
(3) http://www3.pa.hrr.mlit.go.jp/nihonkaikankyo/shakai/unyu/kouwanichi/kouro.html


 「政治経済学」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2004 RandDManagement.com