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2004.10.20
 
 


ドル下落は近い?…

 リチャード・ダンカン著 徳川家広訳「ドル暴落から世界不況が始まる」(1)(日本経済新聞社 2004年8月)が人気らしい。

 原題は「THE DOLLAR CRISIS:CAUSES CONSEQUENCES CURES」で、2003年春頃に書き下ろしたようだ。
 帯には「最悪のシナリオを徹底分析」と記載されているが、「最悪シナリオ」に力点があるのではなく、素直に冷徹な分析を行った書、という印象が強い。

 構造改革型経済政策(サプライサイド経済学)は失敗であり、自由貿易(グローバル経済化)を進めれば必ず破綻が待っている、といった姿勢でデータを整理したものとも言えそうだ。

 おそらく、これは正論だろう。抜本的な変革を進めれば、そこらじゅうで矛盾が発生するのは当然のことだ。

 しかし、それ以外の道を採用したからといって、経済が上手く回るとも思えない。
 ましてや、世界最低賃金制にそれほどの意義があるとも思えない。

 リアリズムに徹すれば、問題は複雑な訳ではない。

 どのような政策を打ち出したところで、各国経済の相互依存が進んでいるから、現在の国民経済システムでは、対処できないのである。

 又、資本主義を採用する限り、必ず、バブルは発生する。
 バブルを防ぐ方策とは、現行システムからの逸脱を抑えるだけのことである。現状維持のための対処療法を乱発しているにすぎない。つまり、失敗が判明するまでの時間稼ぎだ。この道を進めば、先送りだけで、社会の発展は止まりかねまい。

 ・・・との思いを強くした。

 正しい経済学がある筈がない。国民経済の範囲での経験と、頭で考えた国際モデルで作りあげた理論で、正当性を議論したところで無駄だと思う。
 社会変革の流れに合うような経済政策を進める以外に解などないのではなかろうか。先は薔薇色ではないが、道を切り拓く人の登場を促すから、新しい社会を作れる可能性がある。その可能性に賭けるべきだろう。
 一方、現状維持型の政策は最悪である。ツケを残すことになるからだ。

 例えば、素人が考えても、経済収支で膨大な赤字を出し続けるドルが115円前後の水準を保てるとは思えない。どう見ても、10%程度の切り下げは必至だろう。しかし、すぐにそのような状態になることがないのが、経験則である。時間がかかる。
 そして、いったん下落が始まると、10%では収まらない。必ず行き過ぎるのである。

 こうした状況では、エコノミストより、素人の方がドル暴落の予兆を発見しやすい。

 例えば、ご都合主義的な経済学の登場は、こうした予兆のひとつだ。

 実際、そうした動きが始まっている。ドルは特別であり、そ の価値を保つことでメリットを受ける国が多いから、ドルは暴落しないという意見を耳にするようになった。

 そろそろ下落の時が迫って来たと言えよう。

 その引き金は、アジア諸国に積み上がった米国債の価格低下だと思われる。

 この点では、米中首脳の悩みは深い。
 ソフトランディングの方法論をいくら議論したところで、上手くいく保証などないからだ。

 中国のバブル経済がパンクして失業者が溢れれば、政権が崩壊しかねない。おそらく、為替水準維持など重要課題ではなくなる。
 といって、日本が支えることもできない。と言うより、大規模なドル回避の動きがでる可能性さえある。
 言うまでもないことだが、米国政権は、国内世論を敵に回しかねない、ドル高維持策は展開できない。

 ということは、「降ればどしゃぶり」かもしれない。
 豪雨の可能性は高いとは言えないが、低いとも言えない。

 アジア諸国が、人為的にドル安を阻止したツケが回ってくる訳だ。

 --- 参照 ---
(1) http://www.nikkei-bookdirect.com/bookdirect/item.php?did=35094


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