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2006.2.22
 
 


2005年の有効求人倍率を眺めて…

 エコノミストは様々な数字を見て総合的に景気変動を予測するようだが、実感を知りたい素人は、先ずは雇用状況を見る。

 2005年12月の有効求人倍率(1)は0.97だった。ついに求人と求職のバランスがとれたようだ。
 この数字だけで判断するのは飛躍しすぎだが、ようやく長期低迷状況から脱したような気分になる。

 振り返ってみれば、2002年は0.54、2003年は0.65、2004年は0.83だった。
 そして、2005年の第1四半期が0.91、第2四半期が0.95、第3四半期が0.97。
 さらに、2005年10月が0.90、11月が0.94である。

 もっとも、それは全国総体で見た話。
 地域格差は相当のものである。[以下数字は2005年12月の有効求人倍率]

 平均値を持ち上げている県を見てみよう。

 素晴らしいのは、名古屋・東海圏である。・・・愛知(1.76)、三重(1.48)、岐阜(1.24)、静岡(1.20)
 関東圏も良好だ。・・・群馬(1.58)、栃木(1.14)、東京(1.45)、神奈川(1.06)
   但し、良くない県もある。・・・埼玉(0.84)、茨城(0.80)、千葉(0.72)
 甲信越・北陸はまあまあと言ったところ。
   ・・・山梨(1.00)、長野(1.11)、新潟(1.12)、富山(1.12)、石川(1.14)、福井(1.26)
 山陽も良い。・・・岡山(1.20)、広島(1.32)、山口(1.06)

 17都・県が頑張っている訳だ。残りのうち、水面上に出ているのは2県。従って、現在良いのは19都・県だけなのだ。

 調子が悪い方を見てみよう。

 北海道・東北はどうにもならない状況のようだ。
   山形県だけは、全国平均に肉薄しつつあるが、他はかなりのギャップがある。
   北海道、青森、秋田は0.5近辺。2002年に比べれば改善したが、深刻である。
 関西・山陰は沈滞から脱しきれていない。
   但し、滋賀は好調である。・・・(2002年の0.53→2006年12月は1.15)
   大阪と京都がどうやらバランスをとりつつある。・・・大阪(0.98)、京都(0.92)
   奈良、和歌山は0.6レベル、鳥取、島根は0.7レベルである。
 四国・九州・沖縄はおしなべて悪いが、ばらつきがある。
   香川県は例外で、1.0を超えている。・・・(2004年にすでに1.12)

 全体を見て、問題をどうとらえるべきか。

 う〜む。
 どうしても気にかかる点がある。

 寒冷な北海道と青森県、本土から離れている沖縄県が、簡単に雇用状況を改善できないのはよくわかる。大変だと思う。
 その一方、日本全体が回復基調なのだから、本来ならもっと良い数字がでさそうな地域が今一歩なのである。こまったものである。
 そんな地域は3箇所。

 1. 国内総生産の1割程度を占める大阪府/兵庫県がいつまでも伸びない。
 2. 首都圏全体で考えれば、伸びてしかるべきなのに、埼玉県/千葉県が低迷している。
   この2県で国内総生産の7%程度に達しているのである。
 3. 国内総生産の3.5%の福岡県がどうも悪い。

 ここだけで、国内総生産の全体の2割をカバーする。現在良い19都・県で5割を超えるから、ここがなんとかなれば、日本経済は大きく変わり始めるのだが。

 この3つは、状況が相当違うから、集中して梃入れするなら、大阪府/兵庫県ということになろう。

 分析したことがないから、勝手な想像の域を出ないが、エレクトロニクス製品の輸出は好調な筈であるにもかかわらず、いつまでも低迷しているのは、それなりの理由があると見てよいだろう。

 ビジネスマンは学者ではないから、ものごとを単純に捉える。
 おそらく、様々な分析をやり尽くしているだろう。しかし、原因がよくわからないのではないのか。原因がわからずに、他と同じような施策を打てば、上手くいく筈があるまい、と決め付ける訳である。

 それではどう考えるのか。
 悪循環が発生しているにもかかわらず、それに気付いていないのではないか、と考えるのである。様々なファクターが互いに関係しており、狭い視点で見れば奏功する筈の施策でも、全体を合算すると悪い方へ進んでいるとみなす。悪循環を探し、その循環のどこかを切るべきと主張する訳である。

 それでは、悪循環はどこで発生していそうか。

 多分、他の地域と体質的に大きく違いそうな、次の2箇所だろう。
 1つ目は、財政赤字自治体の運営方法。
 2つ目は、商工の中小企業群のビジネスプラクティス。

 少なくとも、後者については、構造が他の地域とは大きく違うようだから、頭をひねって、よく考えればわかる筈である。
 古い産業で、集積が進んでいることに注意すればよいのである。

 どう見ても廃業するしかなさそうな企業は、早めに離脱してもらい、一方、起業が次々と発生すると、産業は活性化する。大阪府/兵庫県もこんな施策を打ってきたのだと思う。もちろん、簡単ではない。このダイナミズムを作るために、どの地域も苦労してきたのが、この10年ともいえる。しかし、首都圏はそれなりに機能しているのだ。ペースは遅いが、新陳代謝は進んでいる。一部では、多産多死型の動きもでてきた。
 しかし、大阪府/兵庫県では、この多産多死型はマイナスに働く可能性がある。

 歴史的な産業集積をベースにしたビジネスを基盤にしているからである。
 外部からはよく見えないが、企業間に、錯綜している紐帯があり、これでビジネスを進めているように映る。
 この状態だと、ダイナミズムを促進させようと活発に動けば動くほど、既存産業は停滞したり、衰退しかねない。勝手に廃業されてしまうと、代替相手がすぐに見つからない構造だから、マイナスの影響が出てくるのである。生き残り組も、発展のための投資どころではないかも知れない。
 本来は、紐帯は強みになるのだが、逆に働いているのではないか。

 大胆な仮説ではあるが、肌に感じるところがあるので、書いてみた。

 なぜこんなことを思い切りよく語るかといえば、東京に対抗心を燃やすような妙な話を聞かされることが多いからである。
 例えば、“東京は冷たい”との話をする人が多い。これは、産業集積における紐帯をさしているのではないのか。
 又、東京ベースの企業運営を“浪費型”と指摘することもある。これは、お付き合い相手を変えるのに必要な費用を無駄金とみなす体質のような気がする。

 もしも、この仮説のようなことがあるなら、既存産業が、伸びる産業に変身するのは至難の業ではないかと思う。そうなると、生産性の高い産業構造の地域や、コスト勝負の地域に雇用を奪われていく可能性は高い。質の高い人材を抱えながら、ジリ貧化するかもしれない。

 乱暴な議論をしてしまったが、大阪府/兵庫県の商工の中小企業の方々には頑張って欲しいものである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.eicenter.or.jp/200512yuukoukyuujin.html


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