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2006.3.29
 
 


イタリアは破綻前夜かも知れぬ…

 2000年のITバブル崩壊以来、イタリアの経済成長率は低迷。ユーロ圏の成長率を下回る状況が続いている。そして、2005年はほぼゼロ成長。(1)

 借金まみれの政府という点で、状況が似ている国だから気になるが、イタリア経済は余りニュースにならないようである。

 似ているのは財政状況だけではない。社会構造でも類似点は多い。
 不透明な国営企業を抱える上、得体の知れぬ政治スキャンダルが頻発する。強固な闇社会があり、表と微妙に繋がっている。
 低迷する農村主体の地帯と、それなりに経済が活性化している地帯に二分化している。一部の大企業が力を持つが、経済全体から見ると、数多くの中小企業が支えている。

 とはいえ、1990年代、改革を避け続けた日本政府とは違い、イタリアは、ユーロ通貨統合を期に、それなりの改革を行った。地方と中央の関係是正も行ったせいもあるのか、「財政再建の優等生」と持ちあげる人は多かった。
 しかし、基本的には学ぶべき対象国ではないと思う。イタリアでさえ改革に踏み切ったと考えるべきだろう。

 “学ぶべきでない”と言う理由は、どう見ても、この国の民は、危機意識を欠いている点にある。そんな状況で、既得権益維持の勢力だらけなのだ。これでは、なにをやっても一過性に終わろう。

 しかし、そんな国を羨む人が多いのが現実だ。

 GDP成長など考えず、イタリアのように皆がのんびりとした生活を楽しめる国になりたいものだ、と語る人は多い。昔は、多忙なビジネスマンの冗談半分の茶飲み話だったが、これが今や本音になりつつある。

 子供を見れば、よくわかる。すでに、中・高校生の過半は「自分の趣味をエンジョイする」「その日を楽しく暮らす」ことを人生の目標としている。
 もちろん、「その日を楽しく暮らす」こと自体はどの国でも重要な目標である。しかし、「社会のために貢献する」に関心が薄いのが日本の特徴なのだ。中国59.9%、米国47.7%に対し、日本は、なんと15.7%である。
 米国人を拝金主義と批判する人が多いようだが、社会貢献することとお金儲けが繋がる社会という点を忘れるべきでない。逆の立場で見れば、日本人は自分本位ということになろう。ちなみに、米国の人生の目標の特徴は、「勉強がよくできる」「素敵な異性を見つける」だ。
 どちらが健全な社会を築く方向にあるか自省すべきだろう。(2)

 それより、問題なのは、イタリアの動きを学ぼうと主張する人がいる点である。

 既成勢力の権益を守りながら、胡散臭い社会にメスを入れずに、上手い方法はないかということで、勉強するのだろうか。
 驚くべき発想と言わざるを得まい。なにせ、The Economistに、“The real sick man of Europe”(3)と呼ばれる国である。治癒の見込みもなさそうな病人になった国の手法を真似しようというのだから驚く。

 イタリアの問題など、素人でもわかる筈だ。
 深刻なのは、機械・繊維産業が国際競争力を失ってしまった点である。お蔭で、欧州経済統合化が進んでいるというのに、輸出はさっぱり伸びない。貿易収支は赤字に転落した。北部の工業生産は低落一途である。要するに、一言で言うなら、この国は高コスト体質を変えようとしないのである。

 日本も高コスト体質だが、幸いなことに一部の産業に国際競争力がある点が違う。その産業に皆がぶる下がっているだけのことである。
 ただイタリアの場合、今までは内需が堅調だった。ところが、ついに内需も低迷し始めたのである。
 こうなると、生産性の下降はさらにズルズル進むだけだろう。先進国としての態をなさない状況に陥る可能性も否定できなくなってきた。

 にもかかわらず、政治は、スキャンダルと内紛ばかり。この国には危機感はない。

 とはいえ、2005年7月28日、EU はイタリアに対して財政赤字是正策を迫った。このため、2006年にはそれなりの政策展開が必要となる。(4)
 しかし、危機感がないのだから、目標をクリアできるとは思えない。

 もともと、この国は、様々な層の利害が対立している。このため、連立政権は短期的な政策しか実行できない。この状態では、長期的視野に立った財政規律を守りようがない。既得権益を維持しながらの改革などあり得るはずがなかろう。
 このままなら、どうなるか。
 少なくとも、ユーロ通貨体制のなかで活動するのは無理だろう。そして、それが見えてきたら、次はキャピタルフライトの道だろう。

 日本では俗に言う破綻本(5)が結構売れているそうだが、そんなシナリオを読む位なら、イタリアの現実を見る方が勉強になるのではないか。
 なにせ、日本と良く似た体質の国なのである。

 --- 参照 ---
(1) イタリア中央銀行「Economic Bulletin 」(本文は伊語だがデータ集はなんとかわかる.)
  http://www.bancaditalia.it/pubblicazioni/bollec
(2) 財団法人日本青少年研究所「新千年生活と意識に関する調査」2001年
  http://www1.odn.ne.jp/youth-study/reserch/21century/houkokusho2.htm
(3) http://www.economist.com/opinion/displaystory.cfm?story_id=3987219&CFID=75320304&CFTOKEN=5ad1810-b138f0fa-239c-4392-89c7-649776498770
(4) http://ue.eu.int/ueDocs/cms_Data/docs/pressData/en/ecofin/88797.pdf
(5) 俗に言う国家破綻本の例 [一冊も読んだことが無いので非該当本もあるかも知れない.]
  浅井隆『次にくる波』PHP研究所 2005/03
  森本亮『2008年IMF占領―新しき人目覚めよ』光文社 2005/02
  船井幸雄・副島隆彦『日本壊死』ビジネス社 2005/02
  藤井厳喜『「国家破産」以後の世界』光文社 2004/12
  青柳孝直『日本国倒産への13階段―もう止められない!日本はこうして壊れていく』総合法令出版 2004/10

 --- イタリアの状況 --- http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/italy/kankei.html
 1992年 金融・通貨危機
 1996年 中道左派連合政権が誕生し、マースストリヒト基準達成に向け奮闘
  経済・財政状況改善, 一連の憲法改正(州の自治・分権化、より公正な裁判、在外選挙), 行政改革等
 2001年 与党中道左派「オリーブの木」連合が、野党中道右派「自由の家」連合に政権に大差をつけられ敗退
 2005年 選挙法改正[完全比例代表制復活]
 2006年4月9日/10日 総選挙


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