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2006.6.7
 
 


ハードランディングは避けられないようだ…

 テレビ番組「サンデープロジェクト」[2006年4月16日]で、与謝野馨経済財政担当相は、2002年から景気拡大が続いており、いざなぎ景気の57ヶ月を軽く超え、戦後最長になると語った。(1)
 続いて、日本銀行が、「経済・物価情勢の展望」(2)で、“2006年度から2007年度にかけてのわが国経済を展望すると、内需と外需、企業部門と家計部門のバランスがとれた形で息の長い拡大を続けると予想される”との見通しを発表した。

 デフレ下で好況が実現した訳である。

 しかも、原油価格上昇がありながら、未だにインフレ率は低いまま。
 これこそ、日銀が一番望んでいる経済状況かもしれぬ。
 但し、これが、5年間に渡る、得体の知れない日銀の量的緩和政策が奏功した結果とは思えないが。
 (素人には, 金利ゼロ下で、当座預金に金をジャブつかせて、マネーサプライがコントロールできるとの理屈がさっぱりわからぬ.)

 まあ、無理にでも日銀の政策の効果を描く必要がある時は、心理的インフレ期待を生み出したということになるのだろう。
 要するに、日銀の金融政策より、企業「意志」の方が、経済に大きな影響を与える時代に入ったということだ。

 ところで、デフレ撲滅なくして経済復調なしと声高に主張していた人達は、この好況をどう見ているのだろう。
 初心者にも解るように説明して欲しいと思う。
 まさか、公共事業費の削減を止めさせるための、新しい理屈を考えるのに忙しい訳でもあるまい。
 もっとも、昨今の議論の焦点は、インフレ至上主義者が一番嫌うスタグフレーション問題に移ったようだ。といっても、米国経済の話だが。こうなると、静かにしているしかないのかも知れぬ。

 ともあれ、70年代に味わった、石油供給ショックから始まった景気低迷のスパイラル現象が、米国で再発生する可能性が高いようである。

 Fed watcher(3)によれば、労働生産性と労働コスト等、2006年6月1日に発表されたインフレ関連データの修正で、米国景気の減速が鮮明になった。
 5月の製造業景況指数(ISM)は過去9ヶ月で最低、消費者マインド指数は10年ぶりの低水準(特殊要因での低下時を除く)というから、落ち込みははっきりしてきたようだ。
 インフレ率も、Fedのcomfortableなレンジの上限に達したという。

 う〜む。

 米国の3つの赤字(家計, 連邦財政, 貿易)が、深刻な水準に達したのに、(4)手を打つことができないままで、スタグフレーション突入の兆候がはっきり現れてしまったのである。1年後には現実化するかもしれないのだ。
 しかし、問題なのは、どう動くべきか納得性ある処方箋がないことである。

 FRBや、財務長官に、ウオールストリートの人材を投入して梃入れすれば、なんとかなるようなものではないだろう。

 と言うのは、ドル安にすれば米国製造業は助かるが、その分インフレを加速するからだ。一体、どうするのか。
 又、日欧は過剰流動性を抑える動きを進める。このまま進めば、米国にお金が流れなくなるかもしれない。
 しかも、連邦政府は財政出動などできる状況にないのだ。

 こんな状況で、上手く舵取りできるものだろうか。
 失敗すれば、ハードランディング必至。そして、米国で新たな「失われた10年」が始まる。

 米国に頼らない好況の実現が重要になる訳だ。
 ハードランディング対応力強化が問われているのだと思う。

 --- 参照 ---
(1) http://www.sankei.co.jp/news/060416/sei058.htm
(2) http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/tenbo/gor0604.htm [2006.4.28]
(3) John M. Berry:“Door Is Open for Fed Pause at 5 Percent”
  http://quote.bloomberg.com/apps/news?pid=10000039&refer=columnist_berry&sid=aE124l0GH6yc
(4) ピーター・ピーターソン、フレッド・バーグステン: 「アメリカの経常赤字とドルを考える ―第二のプラザ合意が必要か」(訳)
  フォーリン・アフェアーズ 2005年2月
  http://www.foreignaffairsj.co.jp/archive/issue/0605_usdeficit.htm


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