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2006.11.1
 
 


2006年ノーベル経済学賞を眺めて…

 コロンビア大学のEdmund S. Phelps 教授(1)が、ノーベル経済学賞を受賞した。(2)
 現代資本主義市場の「ダイナミズム」とは、どのようなものか、教えてくれた人と言ってよいだろう。

 言うまでもないが、失業が増えれば、消費が落ち、インフレ率が下がるという、誰が聞いても納得しそうな理屈を使った理論のおかしな点を暴いた学者だ。
 政府による財政出動、あるいは金融緩和によって、人為的にインフレ化して失業を減らそうという政策が機能しないことを指摘してくれた訳である。(3)

 もっとも、素人のミクロ的発想なら当たり前の話だ。
 産業が必要とする労働力と、現実の人材が合うとは限らない。政府がいくら需要を刺激したり、投資し易くしたところで、労働市場を変えることはできないのは当然のことだろう。
 労働市場を多様化し、柔軟にしなければ、長期的には経済は低迷する可能性があると読むこともできるかもしれない。
 残念ながら、日本では、この方向を嫌う人が多いようだが。

 受賞内容自体は古い仕事だが、人的資本が重要となっているご時世に、労働市場の重要性の話題を提供することになるから、結構タイムリーな感じがする。
 生産性が高い産業や、業務に労働人口が移れるかで、国の繁栄が決まる時代にはぴったりくる。

 それはともかく、インタビューでのPhelps 教授の発言は示唆に富む。

 経済発展のキーワードは「ダイナミズム」だが、これは、健全な企業家精神(entrepreneurship)+健全な投資家精神(financiership)だという。(4)

 確かに、高失業率の欧州と、景気低迷に陥らない米国を比較すると、そんな気にもなる。(5)
 “Dynamism”v.s. “Fertility”といった対比で考えれば、その通りと感じる人も多いのではなかろうか。
 なにせ、米国は、国家財政も貿易も赤字垂れ流しにもかかわらず、経済は調子がよい。ドルの価値は堅調だし、株価も上昇している。様々な問題を抱えているにもかかわらず、“cowboy capitalism”は今もって強いのだ。

 ともあれ、色々な理屈はあるが、どれも、本当に成り立つか、はっきりしていない。
 従って、ドグマの政策は危険である。理屈通り動かない感じがしたら、すぐに政策を方向転換して欲しいものだ。
 君子豹変す、は鉄則だと思う。

 --- 参照 ---
(1) http://www.columbia.edu/~esp2/
(2) http://nobelprize.org/nobel_prizes/economics/laureates/2006/press.html
(3) “A natural choice” The Economist [2006.10.12]
(4) Chet Currier: “Nobel Winner Phelps Speaks Key Word for Investors”Bloomberg [2006.10.13]
  http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601039&sid=avOR_kwEf0z4&refer=columnist_currier
(5) EDMUND S. PHELPS: “Dynamic Capitalism  Entrepreneurship is lucrative--and just.”WSJ [2006.10.10]
  http://www.opinionjournal.com/editorial/feature.html?id=110009068


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