↑ トップ頁へ

2007.3.1
 
 


変質するファンド…

 ロンドン証券市場に上場している、英国第3位のスーパーマーケット(1) J Sainsburyの株価が急騰した。昨年末は415程度だったものが、現在は515ポイント辺り。
 Private equity fund(2) が買収を図ったからだ。(3)

 一昔前に、Private equity fund とは、未公開企業の上場益で稼ぐ高収益ファンドと教わったが、今や、ヘッジファンドや投資銀行との境界も曖昧。資金源には世界の銀行も含まれていそうで、どうなっているのか、さっぱりわからない。ただ、膨大な投資資金が集まっていることだけは確かである。
 低金利の「円」も大量に流れ込んでいることだろう。

 それでは、このファンドの一番の特徴は何かと言えば、投資者の実体を明らかにせずに、株式市場で大胆な行動ができるという点だ。ともかく、大型の買収や合併を進めるのだが、どのように収益を上げるつもりかは明瞭とは言い難い。
 尋常な儲けのタネは尽きてきたのかも知れない。

 こんな動きを見ていると、ファンドは市場の霍乱要因に映るが、ファンドは経済を軌道に乗せるために大きな役割も果たしている。
 特に、日本では、ファンドに活躍してもらわなければ、健全な経済運営は望み薄だ。頑張って欲しいと思う。

 と言うのは、経営者の怠慢で屋台骨が傾いてしまったり、とんでもない方向に進んでいる企業を、方針転換させる力を持つのは株主しかないが、日本では、そんな機能を放棄している株主が多いからである。
 従って、ファンドにその役目を担ってもらうしかないのが実情。

 なにせ、信用できない金融機関だらけなのだ。
 そもそも、産業金融のトップ、しかも国際派バンカーが、繁華街の料亭に“融資させてもらう”ために、わざわざ女将と一席設け、あげくのはてに騙されたりする風土である。
 しかも、これはバブル期の笑い話では終わらない。反省どころか、ひどくなる一方のようだ。

 驚くことに、金融市場に直接係わる証券会社が、堂々と不正会計操作を行う。そんなことをしても、軽いお咎めで終わるらしい。
 それに加え、日本を代表する銀行が、トップ了承のもとで、暴力団がらみの業務をずっと続けていたとの話まで伝わってきた。

 日本企業は、こんな金融機関とつきあうしかない訳だ。“ビジネス慣習を大切に”する企業は多いから、日本全体に腐敗が広がってもおかしくない。

 しかし、そんな日本の状況を見て、羨ましく思う人達もいそうだ。
 Private equity fund の動きを見ていると、そんな気がしてくる。

 市場とは、Public なものである。従って、上場企業は決められたルールを遵守し、社会的な責任を負う。それが上場企業としての誇りでもある。
 頑張って上場益や株価上昇を狙うのが、普通の考え方だが、経営内容を公表するのは厄介だから、Private 化してしまおうと考える人達もでてきたようだ。

 資本主義は、健全な資本市場なくしては、何の取り得もない。できる限り、市場に情報を公開することで、意思決定を市場にまかせ、産業の移り変わりを促進させると共に、資本効率も高める。革新を呼び込む仕組みである。
 ところが、これと逆行する動きがでてきたようだ。
 市場のルールに従わないことで、大きく儲けようと画策する勢力が力を持ち始めたのである。

 この動きは資本主義社会の仕組みを、根底から揺るがすかも知れない。(4)
 と言って、規制すれば、資本効率が悪い企業を立て直そうとする、一般のファンドも機能しなくなりかねない。
 難しい時代だ。

 --- 参照 ---
(1) Sainsbury以外の大スーパー・マーケット: Tesco、ASDA、SAFEWAY、Marks&Spencer
(2) CVC/Blackstone Group/KKR(Kohlberg Kravis Roberts)
(3) Lina Saigol: “Buy-out move for Sainsbury spurs FTSE” Financial Times [2007.2.2]
  http://www.ft.com/cms/s/3802d522-b29d-11db-99ca-0000779e2340.html
(4) Jill Treanor & Terry Macalister: “Barbarians or benefactors? The rise and rise of private equity” The Guardian [2007.2.6]
  http://business.guardian.co.uk/story/0,,2006509,00.html
  “The uneasy crown” The Economist [2007.2.8]
  http://www.economist.com/finance/displaystory.cfm?story_id=8663441


 「政治経済学」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2007 RandDManagement.com