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2007.5.15
 
 


自由貿易論の衰微…

 ノーベル経済学賞を受賞したPaul Samuelsonに、数学者Stanislaw Ulamが、“Name me one proposition in all of the social sciences which is both true and non-trivial.”と質問したそうだ。
 さて、その答は?

 言うまでもないが、「比較優位(Comparative advantage)」。

 これは、WTOのホームページに掲載されているお話。(1)
 時々引用されるところを見ると、結構、見ている人が多いのかも知れない。

 比較優位は、David Ricardoが1817年に提起したセオリーだが、それ以来、自由貿易こそが経済を発展させるという考え方で世の中が動いてきた。
 しかし、その一方、この思想に異議を唱える人は少なくない。
 ミクロで見れば、win-winが成り立っているとは思えない例だらけだから、無理もない。

 イギリスの毛織物とポルトガルのワインの交易時代とは違い、低コストだから輸出できる訳ではないからだ。
 それに、両国間の貿易に第3国が介在せざるを得ない仕組みを作れば、win-winどころではなかろう。すべての富は第3国に集まるかも知れないのだ。

 しかし、そんな例を持ち出したところで、比較優位の考え方が間違っているとの証拠にならないのは当たり前。

 それはともかく、以下の問題が注目されているようだ。

 「戦略的」な方策を追求されると、比較優位などほとんど意味をなさない。
 しかも、為替水準が操作されており、市場が歪んでいる。
 その上、先進国の比較優位商品、知的財産権が輸出できない。発展途上国側がそれを商品として認めなければ、比較優位どころの話ではない。

 現実は自由貿易と程遠い。
 ・・・と言うのが、米国流の見方。(2)
 米国は“protectionist”ではないが、その方向に進んで当然と考える人が増えているようだ。

 しかし、もともと、市場原理を大きくゆがめたのは自分達である。農業補助金の大盤振る舞い。そして、これが止められない。
 見かけの生産性は高まったが、当然ながら生産過剰に陥ってしまう。だが、合理化すれば、農村で失業者続出。それでは社会が持たないから、生産物のはけ口としての人道援助に注力。
 その結果、援助対象国の農業は壊滅。本来なら、発展途上国の比較優位産業の筈なのだが。
 それに、先進国の独壇場の軍事産業など、自由貿易の範疇に入るようなものでもなかろう。

 米国が保護貿易に動けば、市場は一気に縮小する。一番大きな被害を被るのはほかならぬ米国である。
 そんなことがわかっていても、こんな理屈を語るのだから、雇用の海外流出が余りに大きくなりすぎ、どうにもならなくなってきたということだろう。

 --- 参照 ---
(1) http://www.wto.org/english/thewto_e/whatis_e/tif_e/fact3_e.htm
(2) Steven Pearlstein: “From Old World To Real World” Washington Post [2007.4.25]
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/04/24/AR2007042402187.html


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