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2007.10.24
 
 


ドル暴落にならなければよいが…

 為替が動き始めたようなので、大いに心配である。世界経済大混乱の引き金にならなければよいが。

 何故そんなことを考えるかといえば、2007年10月に入り原油価格に高値がついており、この先も高騰が続くという見方が増えているからである。
 直接関係ないような話だが、どうも繋がっている感じがする。

 もともと、インフレ率とドル減価を考えれば、需要が堅調なのだから、WTI価格が1バレル50ドル程度になるのは致し方ない。
 ただ、信頼できる情報が枯渇している世界であるとはいえ、100ドル辺りまで急上昇し、それが常態になるというのは尋常とは思えない。IEAによれば(1)、しばらくは需給がタイトであるとは言え、バランスが大きく崩れている訳ではないからだ。

〜原油価格高騰の理由例〜
需給バランス論 厳冬需要
中国需要急増
サウジ余剰能力僅少
OPEC減産
ハリケーン被害
ロシア生産ピーク
政治動乱論 過激派の施設破壊活動
イラク治安悪化
ナイジェリア暴動
ベネズエラの反米活動
ロシアのカルテル化策動
イラン開戦の兆
在庫積増論
(米国内)
州環境規制対応
製油所生産能力不足
鞘取引増加
仕掛け論 投機筋
政治的密約
 巷で語られる原油価格高騰理由は、もっぱら需給霍乱要因で、相場師にとっては囃し立てる格好の材料かも知れぬが、論理的説得性は薄い。いずれも今わかったような話ではないからだ。

 と言うことは、「投機資金流入」で市場の性格が変わってしまったことを意味する。

 もともとは、原油相場の専門家達が先物・現物の価格差を利用し、手堅く裁定取引利益(保管費用以上に先物価格が高いといった状況を見極めた鞘取引)を手にしていた市場だった。株や債権市場の規模からすれば、極めて小さな世界での動きにすぎなかったと言ってよいだろう。
 ここに、分散投資ということで、膨大な資金が原油市場に流入したのだから、今までの価格形成メカニズムが崩壊して当然である。

 おそらく、最大の問題は、取引の自由度が高いヘッジファンドが大挙して入ってきたこと。別に原油に限らないが、2003年以降、先物(株・金利・商品・通貨)に急速な資金流入が発生しているそうだ。(2)

 もっとも、原油価格がここまで揺さぶられるのは、米国政府が確固たるエネルギー政策を打ち出してこなかったせいもあろう。20ドル程度が続いていたのも、原油価格の高止まりは世界経済にマイナスだから、この辺りが妥当との政治的決着価格と言えないこともない。この価格レンジから、急速な上昇が始まったということは、状況が変わったということである。
 原油を、普通の商品と同じように、市場原理による取引価格決定メカニズムに委ねる方針へと転換したと言えるだろう。

 当然ながら、大規模な資金の動きに晒されるから、変動リスクは極めて高い。
 ヘッジファンドv.s.英国金融当局の為替をめぐる攻防や、アジア通貨危機のような結果をもたらす可能性もある訳だ。政策に歪みがあると大事になりかねないのである。ヘッジファンドにとって、そこはビジネスチャンスそのものに映るから、投機資金が一気に動く。動き始まれば、止めようがない。
 最近の原油相場もその類の動きではないか。

 つまり、市場の歪みを目ざとく見つけたということを意味する。

 考えれば、当然のことかも知れない。
 米国金融当局はサブプライム・ローン対策で市場にお金を大量に放出するしかないからだ。もしこの問題がなかったら、米国ではインフレを防ぐため、利上げしていた筈であり、金融当局はインフレ対策が打てないということと同義である。それなら、ドルで計られる原油価格は高騰して当然という理屈になる。

 そんな状況下で、10月19日までG7(財務相・中央銀行総裁会議)が開催された。驚いたことに、何も決めなかったようである。(3)
 そのお陰で米国金融当局がどう考えているかだいたい想像がつく。

  ・金融市場混乱、米国住宅部門の弱さ、原油価格の高騰、への対策は特に打たない。
    これらは経済構造を揺るがす問題ではない。
     (経済は相当減速すると予想している。)
    市場の管理監督機能強化策については先送りする。
     (米国中央銀行の危機管理体制を変える気はない。)
    サブプライムローンの全体像はよくわからない。
     (収束宣言は出しようがない。)
    OPECには増産要請しない。
     (原油高は人為的な需給関係変更では解決しない。)
  ・為替等の協調行動はとらない。
    ドルの対ユーロ安値は問題として取り上げない。
     (ドル安は放置する。)
    中国(非メンバー国)は為替柔軟化を心がけて欲しい。
     (G7の経済的地位がかなり低下してしまった。)
    政府系投資ファンドは巨額なので協調して欲しい。
     (G7協調では制御できなくなっている。)
  ・金融以外の問題も考慮する。
    資金洗浄・テロ資金対策は忘れてはならない。
     (イラン問題は当座の金融問題より優先度が高い課題である。)
    環境/WTOも考慮する。
     (政治的ショーも重要である。)

 これでは、どう考えても、ドル安への流れは加速する。(4)

 --- 参照 ---
(1) IEA: 「World Energy Outlook 2007, 2006」 http://www.worldenergyoutlook.org/
  http://www.iea.org/Textbase/press/pressdetail.asp?PRESS_REL_ID=187
(2) 岩田一政(日銀副総裁): 「ヘッジファンドと国際金融市場」 第15回日本ファイナンス学会 [2007.6.16]
  http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0706a.pdf
(3) “G7/IMF/WORLD BANK MEETINGS At-a-glance guide to the main points” CNNMoney/Thomson Financial News[2007.10.21]
  http://money.cnn.com/news/newsfeeds/articles/newstex/AFX-0013-20385040.htm
(4) AP発(東京): “Dollar falls versus yen, euro as G7 statement weighs” International Herald Tribune [2007.10.22]
  http://www.iht.com/articles/ap/2007/10/22/business/AS-FIN-MKT-Asia-Dollar.php


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