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2007.11.17
 
 


日本にグローバル企業は多いのだろうか…

 先日夜、小人数で会食していて、雑談になったのだが、意外と常識的なことが知られていないので、驚いた。
 日本の自動車会社はグローバル化が進んでいるのに、キャノンやソニーは例外に近く、日本の電機会社はいつまでもたっても海外売上げ比率が4割程度でしかないのはどうしてかとの話になった時のことである。

 なにを思ったか、一人が、不調の企業は別でしょうが、松下電器を見れば分かるように、海外で頑張っている企業も結構ありますよ、海外が好調らしいから、と語りだしたのだ。この方、企業経験もあり、ビジネス歴が長いコンサルタント。
 面倒なので、話題を変えたのだが。

 現実を見据えようとしない人ではなさそうだから、おそらく見方が違うのである。

 松下電器産業は、日本経済を牽引してきてくれた会社であるし、経営のあり方についても指導的立場にあった。それは感謝すべきだが、現時点で、グローバル化という観点で学ぶべき対象かと言えば疑問である。
 2007年3月期の売上高を見てみると、国内が過半。(1)しかも、欧米での利益率が低水準。利益の8割は国内販売からである。これでは、グローバル化で成功しているとは言えまい。

 GDPの地域別比率(2)のような売上げがグローバル企業の姿だと仮定すれば、松下電器とは、4割を占めるグローバル企業と、6割のドメスティック型企業の連合体に見える。しかも、前者を後者が支えている構図だ。
 早くに不調を脱して、収益性の復活を遂げた優等生 松下電器でさえ、グローバル化のレベルが高いとは言い難いのが日本の現実なのである。

 1980年代初頭なら、こんな状態は、グローバルに飛躍する前兆現象と見なすこともできたろう。先ずは国内市場で収益をあげ、赤字覚悟で大胆に海外展開を進める方策である。先行市場投資で、累積生産量を増やし、ラーニングカーブ効果によるコスト削減を図り競争力を高める訳だ。そうなれば、自然に巨大なリターンが手に入るというシナリオ。
 今は、これが成り立つ状況にはなかろう。

 成熟している国内市場で利益を出しているとすれば、高付加価値製品への注力と、海外製造によるコスト削減の成果が上がっているということだろう。これはこれで、素晴らしい成果だが、長期的に見た最重要課題ではなかろう。
 グローバル市場のボリュームゾーンでの競争力向上に繋がる施策になるとは限らないからである。部品中心の企業ではないから、結構、危うい道を歩んでいる可能性も否定できないのではなかろうか。

 続いて、日本最大の電機会社 日立製作所を見てみよう。
 やはり、国内売上が過半。(3)利益の大半は国内から。アジアに至っては赤字である。

 グローバル経済の時代、技術で勝負できる力があるなら、海外売上げ比率は自動車メーカーなみの6〜7割になってしかるべきと思うが、5割に届かないのが現実。
 ホーム市場が巨大な米国企業でも、IBMやHPの海外売上比率は高いのだ。小さな母国市場が基盤なのに、4割程度では余りにさみしい数字だ。
 それも、技術では戦えないとか、武器になるものが無いというのならわかるが、優秀なエンジニア・研究者を大勢かかえていてこの状態。どこかで歯車が噛みあっていないのではないかと思うのだが。

 と言っても、日立製作所には、高い競争力を誇る事業も数多くあり、個々に見れば海外売上げ比率6〜7割など当たり前だと思う。それ以上の事業も沢山ある筈だ。
 IT分野のハードウエアの海外販売比率にしても、間違いなく6〜7割レベルに達しているだろう。だが、2007年4〜9月期の結果を見ると、この事業の赤字が全社に重くのしかかっていることがわかる。(4)いかにもつらい。

 逆に、利益源であるソフトウエア/サービス事業の海外販売比率は、おそらくかなり低い。そう推測するのはモノ作りを目指していたし、政府が国内のIT産業てこ入れを図ってきたからだが。
 特に、サービスなど、数値を調べていないから間違っている可能性もあるが、印象から言えば、9割が国内事業でもおかしくなかろう。

 だが、ソフトウエア/サービス事業に競争力があるなら、極く自然な戦略は、成長している海外市場への展開ではないのか。早くから注力していれば、現段階で海外売上げ比率が6〜7割に達していてしかるべきである。

 そうしなかった理由とは?

 電機・IT産業の日本の大企業はグローバル企業に見えるが、それは企業内に目立つ事業が沢山あるからだ。そのなかには、グローバルに見て圧倒的な競争力を持つものも少なくない。
 ところが、その一方で、グローバルで見ると不振な巨大事業も存在する。しかし、撤退もできない。お陰で、こうした事業がヒト・モノ・カネを引き込んでしまうのではないのか。
 そのため、本来ならグローバル化できた事業も、手付かずだったりする。お陰で、今から本格的なグローバル化という事業も少なくなさそうだ。

 しかし、もっと厄介なのは、グローバル化できそうにない事業も結構抱えているという点だろう。
 本気でグローバル企業になるつもりなら、そのような事業は利益がどうあれ、MBO等で本体から切り離すべきではないのだろうか。
 これがグローバル企業になる不退転の決意を示すことになると思うのだが。

 --- 参照 ---
(1) 松下電器産業 ファクトブック  http://ir-site.panasonic.com/jp/factbook/j08-09.html
(2) 外務省経済局調査室編 主要計税指標(GDPはWorld Bankのデータ) [2007.11.1版]
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ecodata/pdfs/k_shihyo.pdf
(3) HITACHI Financial Highlights [2007年3月31日]  http://www.hitachi.com/IR-e/library/fh/2007/fh2007e.pdf
(4) 日立製作所 2007年9月中間期決算説明会 [2007.10.31]  http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2007/10/1031/p_presen.pdf


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