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2008.10.18
 
 


金融危機をめぐって…

 日本の政治家とは驚くべき人達のようだ。
 タケナカとかいう学者に実業がわかるか、と言い放っていた御仁が、日本が行った銀行への公的資金注入経験を米国に教えてやると意気軒昂だとか。
 しかも、公的資金投入に反対するような米国の議員はレベルが低いといわんばかりの発言もしているそうだ。本当なのだろうか。
 法案に反対した米国議員の多くは選挙民の声に応えた訳だが、それ以外にも主張があり、バラマキ型はブラックホールに金を投げ込むようなもので、逆効果だから、選別的に行えというもののようだ。真っ当な主張。
 しかし、どの程度の不良資産が溜まっているのか検討する余裕もないから、そんな正論にたいした意味はないというだけ。

 だいたい、もともとの不良資産にしても、米国はまともな「物件」が多い。価格が下がったから「不良」になったのであって、物件自体は「優良」だったりする。しかし、購入者がいないから、値段がつかない。
 これが引き金になって、連鎖反応を発生させているから大事なのである。
 日本の「不良」は、使い物にならないようなものがわんさか。酷かった。それを処理せずに、先送りしてきたのである。
 さらに驚かされたのは、国の御旗が立たないと、一般企業は自力再生さえできないことが白日に晒されたこと。議論するだけで、何もしない人達が集まっている組織だらけだったのである。
 リスクをとろうという投資家がほとんどいないし、よさげなものを購入し、直して高く売るビジネスを目の仇にするのだから、どうにもならない。

 こんな話を米国にするつもりなのだろうか。

 それはともかく、米国の一番の問題は、「市場」が機能しなくなってきた点。「市場」が機能しなければ、適正「価格」もわからず、経済活動は止まらざるをえない。こうなると、どうにもならない。そして、米国経済が回らなくなると、世界中が、どうにもならなくなるのは時間の問題。
 どうも、悪循環の道に入り込んでしまったようだ。
 それに、格付企業や金融アドバイザーの役割を否定するような流れが生まれてしまったから、まとに動かすのには時間がかかりすぎる。
 実に危うい。

 しかも、こんな時に、多極化を模索する動きを推奨する人まで出てきたりする。こまったものだ。それはこの事態が収まった後の、結果論でしかないと思うが。
 代替通貨が無いのだから、金本位復活でもしない限り、ドル本位制を続けるしかなかろう。ドル経済復活に力を貸す以外に選択肢がないのが実情。
 実際、欧州など、各国別に資本注入をするようだから、気が遠くなる。グローバル化しているなかで、そんな悠長な動きで乗り切れるか疑問が湧く。欧州は、自立できる状況にはない。
 比較的平穏そうに見える、中国・日本にしても、米国への輸出で経済成長を引っぱっているのだ。
 米国こければ皆こけるのである。

 ただ、米国の強さは残っていると思う。こんな時でも、収益をあげる人がいて、その意義を議論ができるからだ。
 “Returns for the year through Oct. 10 ranged as high as 110 percent.”(1)だそうで、“I was expecting the crisis, I was worried about it. I put my neck and money on the line seeking protection from it.”だと。
 まあ、素人的にいえば、プロのトレーダーのように、価格上昇確率70%で価格上昇率0.1%のチャンスを狙い続けるようなことはせず、1%の確率しかない、株価30%の大暴落に賭ける、簡単な算数でわかる、合理的な作戦とでも言ったらよいだろうか。
 当然ながら、CDS(credit default swaps)に投資する訳がない。それは、“buying insurance on the Titanic from someone on the Titanic.”だからだ。

 ビジネス書に関心をお持ちなら、これだけでピンとくると思う。そう、ベストセラー“Black Swan”の著者、Nassim Taleb氏である。簡単に言えば、不規則性、不均衡性、非線型性を捨象するなということになろうか。つまり、見方を変えれば、大銀行は中小銀行よりリスクが高いとなるということ。

 そう言えば、2007年3月、氏はMorgan Stanleyのリスク・マネージャー達に言い放ったという。・・・“Your models don't work. ”(2)
 そして、2007年12月、同社は、サブプライムローン関連で94億ドルの評価損をだしたのである。

 要するに、金融業界の皆さんは“Black Swan”をよくご存知だったのである。それどころか、一般の投資家も読んでいた筈。(3)しかし、20年選手のトレーダーの一言よりは、Greenspan教祖の大丈夫だよ、の一言の方を、後生大事に胸にしまったのだ。
 その雰囲気は、Financial TimesとGoldman Sachsが選定した2007年ビジネス書の一覧(4)を見ればわかる。大賞はもちろんIバンク実話もの。
 Financial Times and Goldman Sachs Business Book of the Year Award 2007(4) 
William D Cohan☆ The Last Tycoons
Alan Greenspan The Age of Turbulence
Nassim Nicholas Taleb The Black Swan
Philippe Legrain Immigrants
Don Tapscott & Anthony D Williams Wikinomics
Iain Carson & Vijay V Vaitheeswaran Zoom

 --- 参照 ---
(1) Stephanie Baker: “Taleb's `Black Swan' Investors Post Gains as Markets Take Dive” Bloomberg [2008.10.14]
   http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601103&sid=aDVgqxiT9RSg&refer=us#
(2) Stephanie Baker: “Taleb Outsells Greenspan as Black Swan Gives Worst Turbulence” Bloomberg [2008.3.27]
   http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=aHfkhe8.C._8
(3) Benoit Mandelbrot & Nassim Nicholas Taleb: “How the Finance Gurus Get Risk All Wrong” Fortune [2005.7.11]
   http://www.fooledbyrandomness.com/fortune.pdf
(4) http://www.ft.com/cms/s/2/2e743b5a-6aa7-11dc-9410-0000779fd2ac,dwp_uuid=0efdf834-e6a8-11db-9034-000b5df10621.html
(Black Swanの写真) [Wikipedia] by Fir0002 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%BB%E5%83%8F:Black_swan.jpg


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