表紙 目次 | ■■■ 2015年6月29日 ■■■ ついに完全雇用状態突入か…5月の労働力調査が公表された。前月に引き続き極めて低い失業率。これで、60ヶ月連続での減少となる。【完全失業率】 2月 3.5% 3月 3.4% 4月 3.3% 5月 3.3% (季節調整済数値 以下すべて同じ) ちなみに、5月の公共職業安定所の職業紹介の数値でみても、雇用状況はよさそうである。2013年11月に有効求人倍率が1を越えてから一貫して上昇してきたのである。 【有効求人倍率】(含パート 除新規学卒) 2月 1.15 [1年前:1.05 2年前:0.85] 3月 1.15 [1年前:1.07 2年前:0.87] 4月 1.17 [1年前:1.08 2年前:0.88] 5月 1.19 [1年前:1.09 2年前:0.90] ここだけ見れば喜ばしい限り。 しかし、失業者実数の月毎変化を眺めると、それとは異なる感覚が生まれる。単純に数列を眺めると、失業率低下もそろそろ打ち止めかナと。 【完全失業者数増減】 2月 ▼5万人 3月 ▼9万人 4月 ▼2万人 5月 ▼1万人 218万人 この素人感覚、まとも。 就業者数は対前月で19万人増加したのだが、3〜4月に減少した分を埋めるほどは伸びていないのだ。 【就業者増減】 2月 △2万人 3月 ▼10万人 4月 ▼28万人 5月 △19万人 6357万人 つまり、「雇用が伸びている」と呼べる状況とは程遠いということ。 【雇用者増減】 2月 ▼10万人 3月 △ 3万人 4月 ▼23万人 5月 △18万人 5619万人 雇用拡大しているようには見えないのに、失業率が下がり、有効求人倍率は上がっている訳だ。 いつかこうなることは、昔から予想されていたこと。・・・多少の揺らぎはあるものの、多くの人達が徐々に労働市場から退出していくだけの話。 【非労働力人口増減】 2月 △ 4万人 3月 △17万人 4月 △35万人 5月 ▼22万人 4497万人 早い話、需要と供給バランスがとれてしまい、完全雇用が実現したということ。 つまり、前回の有効求人倍率が1を越えた時期[2005年12月〜2006年10月]とはかなり違うし、ましてや、それ以前[1988年6月〜1992年9月]などと比較するようなものではないということ。 長期のグラフを眺めても、オレンジとアップルの比較をしているようなものだから、止めた方がよかろう。誤解を恐れず言えば、有効求人倍率の数値はついにたいした意味をもたなくなったのである。 労働市場の構造が一変した訳で、従来型労働政策を続けていると、産業の活力を大幅に削ぐ可能性があろう。 なにせ、スキル豊富な層が薄くなり、労働人口全体も減少していくのだ。全体最適化が短期間で可能な流動性が高い労働市場が生まれないとジリ貧はまぬがれまい。 と言うのは、現在の完全雇用を支えているのは、どう見ても労働生産性向上に勤しむ「既存産業」セクターではないからだ。このセクターには、この先も雇用を期待する訳にはいくまい。ここでの課題は、研究開発力の飛躍的向上だと思うが、低スキル業務のアウトソーシング化は避けて通れない。当然、外部化された仕事は合理化が進む。もちろん、スキルが必要な業務も変身を迫られる。コンピュータに任せた方が仕事の質が高くなりつつあるからだ。この流れが見えているのに、手をこまねいている訳にはいくまい。 つまり、この先完全雇用を支えるのは、生産性が低いままのセクターになりかねないのだ。そして、日本では、それは、もっぱら、バラマキで成り立つ産業。 と言うより、すでにその傾向は、地方の人達にとっては実感そのものかも。・・・活況を呈する公共「工事」分野では人手不足で工事が進まない状況。一方、民間住宅市場も規制で守られた終身雇用の人達のおカネが支えているのはご存知の通り。資金の出所を考えれば、財政破綻国がこんなことをいつまでも続けるのは無理筋なのだが。 こんな状態で、民間活力への期待を叫んでも、空回りするだけ。実際、ピカピカの出来立て「民間」事業所の多くは、調剤薬局や介護関連サービス。 雇用を生み出しているとされる小売業界にしたところで、マクロに見れば、徐々に労働生産性が高い業態に変わりつつあるというだけでは。過去の遺産を喰い潰すだけの赤字事業体だらけだったのが、ようやくにして、まともな事業体に集約されているに過ぎまい。 かつて、"社会"を護るためには原油転換阻止・炭鉱業続行しかないと叫んでいた人々がいたが、その発想となんら変わらない風土ができあがっているのだから手の打ちようがあるまい。 日本経済再興は、イノベーティブな新規事業を生み出す流れが始まらない限りどうにもならないと思うが、そう考える人は僅かということ。ゼロサム経済化阻止など眼中になく、バラマキ獲得の戦いが楽しい人だらけということ。 そんな社会で、完全雇用が実現されたとなると、新規事業創出環境としては喜ぶべき点はなにもない。その上、さらに労働市場を硬直化させるような動きを始めればアウト。 特に、老人介護サービスセクターを若年労働力の受け入れ先にして平然としている地方の人達のセンスには恐れ入る。高齢化したらどうするつもりなのだろうか。 それが介護対象人口激減と同時におきるからである。 まあ、そんな先のこと気にするなということか。バラマキ政権を誉めそやす社会だから、その前に国債デフォルトは確実だし。 (source) 労働力調査(基本集計) 平成27年(2015年)5月分 (2015年6月26日公表) 総務省統計局 一般職業紹介状況(平成27年5月分) (2015年6月26日公表) 厚生労働省職業安定局雇用政策課 「政治経済学」の目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2015 RandDManagement.com |