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■■■ 2015年7月2日 ■■■

ギリシアの出来レース…

イヤー、どこまで本当か知らぬが、失礼ながら、大笑いさせて頂いた。・・・
"Tsipras backs down on many Greece bailout demands"@FT:
Greek prime minister Alexis Tsipras will accept most of the bailout creditors' conditions offered last weekend, but is still insisting on a handful of changes---.

今のままだと政権を失なう可能性が高く、それよりはましと考えたのだろう。(ピーク期に観光客僅少になりかねない方針を支持する人が多いとは思えない。)ともあれ、ダラダラ論議を切り上げ、早く決着させるのが一番。どのように決めようと、勝者などいないのだから。

にもかかわらず、ギリシアのチプラス首相とトロイカが「チキンレース」で勝負していると見なす解説が多かったように思う。(ゲーム理論を習熟している担当者ということでの評価かも知れぬが。)
まあ、そう見れないこともないが、「出来レース」と考えた方がよいのでは。

どうしてそう考えるかは、単純そのもの。

素人でもわかる話だと思うが、どのような決着になろうが、この先、ギリシアが海外からの借金を返済できる可能性は限りなくゼロに近いからだ。
どのような政策を採用しようが、国庫に入ってくるカネが増えることなど考えられないということ。その原因は構造的なモノ。従って、テクノクラートが"推奨"する改革でなんとかなるものではない。他のEU加盟国での成功体験の移入は無理。

簡単に触れておこう。・・・

ギリシア国内の国際的な企業体や資産家はもともと租税回避手腕に長けており、海外運用を旨としている。ここからお金を捻出できる訳がない。増税でもすれば、その流れが強化されるだけで、ほとんど意味がなかろう。しかも、とてつもない高失業率とくる。(早期退職制度や大量公務員化を図った上での数字)これを放置する訳にはいかないから、そのコストは膨大。
それに加えて、大国トルコへの軍事的対抗力保持が国是とくる。

もちろん輸出可能商品はあるものの、競争力は弱く、為替レートが下がったからといって、貿易量急増は期待薄。観光といっても、リゾート地域の今以上の発展は難しかろうし、今の時代、廃墟の集客力でなんとかなるものではない。
カネを稼ぐタネが枯渇しており、雇用創出の潜在力も欠けているのが実情。

しかも、国全体が完璧な縁故社会とくる。産業構造はその風土に乗っかった形の寡占型。この状況で公的機関の公正さに期待する方がどうかしている。常識的には、巨大な裏経済が存在する国と見てよかろう。

歴史的にも、宗教革命の嵐に触れたことが無い上に、冷戦期にしても、国内勢力の思想的対立は深刻だった。この状態で、テクノクラートがいくら頑張ったところで、小手先の動きが精いっぱい。彼らの改革の動きを支援しても、成果は期待できないのが実情。

これが現実認識だとしたら、両者がどう動くかはほぼ自明。

まともな政治家なら、はなから交渉決裂で結構となろう。

なにせ、経済合理性を考えれば、ギリシア経済立て直しに力を貸しても無意味なのはわかりきっている。しかし、EUの精神を考えれば、そうもいかないというに過ぎない。それに、援助を打ち切れば、ギリシア人の生活は即自どん底に落ち混む。それを槍玉にあげられるのはたまったものではないから無碍にする訳にもいかないだけ。デフォルトしたいのならご随意にであろう。
もちろん、それは、反EU大国によるギリシア属国化のリスクを孕む。東地中海の軍事バランスが崩れ、バルカン半島大騒乱の口火にならないとも限らないから避けたいのは山々だろうが、どの道、ギリシアが社会的に不安定化するのは避けられないから、どう転ぼうとたいした差がある訳でもなさそう。
ともあれ、繰り返すが、貸したカネは、どの道決して返ってこない。返済とは、追い貸しの同義語。それをしなくて済むのがデフォルトであり、結構、魅力的。(民間金融機関や事業投資家達が瀕死状況にならないなら、債務不履行、再構築、なんだろうと実質的にたいした違いがある訳ではない。)
だからといって、デフォルトに簡単に踏み切れないのは、市場混乱が小さいとは限らないからだ。理論上は大きな影響がでる筈がないが、これを大変動につなげ、大儲けを目論む人達も少なくないのが、金融の世界だからだ。なにを仕掛けているかわかったものではない。だが、それだけのこと。

一方、「左翼」シリザのリーダーの姿勢だが、これは実にわかり易い。報道される言動を眺める限り、「チキンレース」を進めているというより、「混乱も結構」路線というに過ぎまい。政治スキル無しの古典的サヨクが登場しただけ。おそらく、スローガンを打ち出す以上の政策など皆無であり、交渉と呼べるようなものではなかったと思われる。
しかし、それは当然の姿勢とも言える。自国の腐敗しきった社会をよく知っている訳で、その風土でサヨクとして食べてきた人なのだから。小手先の経済改革に興味がある訳もなく、覇権国にカネを出せと迫ること以外に意義を見出す訳がなかろう。
やりたいことは「革命」なのだから。政権奪取に成功し、その千載一遇のチャンスが巡ってきたと考えている筈。できもしない経済再興プランより、支持者が増えるなら経済大混乱の方がお好みなのは明らか。但し、政権を維持できるとの前提で。
悪逆非道なEUイメージが出来上がり、それに協力する政治勢力は搾取者と烙印を押せるなら、それこそ欣喜雀躍もの。唐突に国民投票が出てきた訳ではなく、計画通りの展開と見てよかろう。そこで圧倒的支持獲得こそが、一番の狙い。
ただ、投票で敗者となりそうなら、急遽取り止めになるだけのこと。古典的サヨクの頭脳構造とはそういうもの。

混乱を革命に転化させヨとのボルシュビキ大好き政治屋だろうから、信条としてプロプーチン独裁政権だろう。
まあ、その手のサヨクでも人気を集める可能性が高い風土ということこと。政治家として、一番人気はなんといっても、縁故社会にピッタリ嵌るバラ撒き屋。そのような政治家が失せ、生活レベルの大幅低下に見舞われれば、「どうせドン詰まりなら、サヨクに勝手にやらせてみれば。」となりかねないのである。裏経済が巨大な、縁故社会での選挙は、民意といってもたいした意味はないのである。

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