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■■■ 2015年10月11日 ■■■

経済成長ゼロ路線が続く…

コア機械受注(船舶.電力を除く民需)は季節調整済みで3か月連続の前月比マイナス。しかも、8月は、▼3.6%からさらに凹んだ▼5.7%。
QUICKの事前市場予想はなんとプラスの△3.0%。

冷静に考えれば、当たり前の結果。数字は嘘がつけないのだから。大きな流れで見て、製造業からの受注が増えていく状況などおよそ考え難い訳で。

外需が落ち込んで行くのは誰でもがわかっていること。わからないのは、そのスピードとショック症状が発生するかだけ。
内需にしても、流れが変わり上向くとは思えまい。この先徐々に家計の実質所得が増加に転じると期待するエコノミストが多いが、東京に住んで、頭のなかでの算数予測しかしないからだ。量的に大部分を占める地方経済状況を肌で感じとる努力を怠っている人だらけということ。どこもここも完璧な税金バラマキ依存状態であり、喧伝される活躍企業とは例外的存在であること位、すぐにわかる筈。そんな環境下で旺盛な消費が生まれるとは思えまい。
地方における、家計消費の上向きは望み薄。というか東京圏でも、それが成り立つ。公務員や大企業の従業員や一部の層を除いた、大多数の勤労者の家計がどうなっているのか見るべきだろう。賃金上昇以上に源泉徴収部分が増加しているし、固定費と化している部分の消費税増税も少なくない。残業やボーナスを入れても、可処分所得収減少に見舞われている人だらけでは。経済好調の数字による、心理作戦で消費マインドを変えようというのは無理筋。
それに賃金上昇自体が抑制的にならざるを得ない。労働生産性は上昇しており、企業の利益も溜まっているのは事実。しかし、これはマクロの数字であることを忘れているのでは。日本の労働市場は硬直的であり、(現政権が、ようやく、ほんの僅か変更できた程度。これでも画期的。)産業の新陳代謝抑制を旨とする社会であることを忘れるべきではなかろう。忘れてならないのは、表面化させないだけで、実質資本コスト割れの事業は至るところに存在している点。そんな事業を抱えていて、正社員の一括賃上げに踏み切りたい経営者がいる筈がなかろう。もう一つ付け加えておくなら、地方で伸びている業界とは、税金投入業種と規制だらけのビジネス分野である点も大きい。こちらは説明の要無しだろう。
そして、忘れてならないのは、労働人口動態。量的減少だけでなく、質的にも、高賃金である高齢勤労層の収入が大きく減りつつある上に、年金生活者への移行が進んでいる。マクロで労働の質は急速に低下しているということ。
勘違いも甚だしいのは、日本の労働者の質は高いという説。例えば、日本はパソコンを使えない人だらけ。従って、職人芸を囃すしかない訳だ。人口規模を考えれば、職人がいかに頑張ろうが、経済が上向くことはなかろう。しかも、少数のプロが、スキルを持たない大多数の人々を「使いこなす」ビジネスモデル主導の国ではない。時代の波に取り残された国となりつつあると見た方がよかろう。

全体を俯瞰すれば、日本の経済成長はどうやらプラスがいいとこ。潜在成長率が極めて低いのである。
その状態で、経済刺激と称して、需要の先食い政策が度々打ち出されるのだ。要するにカンフル剤注射を、経済政策と称しているだけの政治が続いている訳で、これで経済が良い方向に進む筈がなかろう。それに加えて、外需が落ちていく。成長率マイナスの可能性が高まるのは自明。
・・・コレ、素人でもわかる極めて単純な話だと思うが。

ところが、それと正反対の見方なのが日銀トップ。金融政策で方向転換可能だと言うのだからまさに金融宗教教祖そのもの。
しかも、直近の四半期の経済成長率はプラスを確信と喧伝中。マイナスになれば、それは中国のせいとするのであろう。
   「日銀総裁は本気でそう思っているのか?」[2015.9.12]

お蔭で、QUICKの事前市場予想も大外れなのでは。おそらく、企業の投資マインドと景気の先行き観の調査数字だけで判断しているのだろう。お付き合いしている狭い範囲での感触で、先行き明るいと考えてしまうのかも知れぬ。競争力ある日本企業はほんの一部でしかないし、東京圏とほんの一部の都市しか成長余力は無い。これらで、国全体を支えることは無理である。
(尚、地方分権とか、道州制など、どうでもよい話。それによって新陳代謝抑制風土が変わるとの根拠が薄弱すぎるからだ。すでにその時期を失しており、現時点では逆展開の可能性の方が高かろう。)

IMFのOutlookがそんな全体状況を示してくれている。日本のパフォーマンスは最低。政府のバラマキで経済が見かけ上「成長」しているにすぎない。潜在成長率がどうやらプラスという状況では、バラマキは麻薬効果しか生まないのは当たり前。・・・にもかかわらず、さらなる大バラマキでなんとかせよとの経済学信奉者も少なくないから、この方針を止めることはないだろうが。
<家計[消費}-2015予測>
 【 米 国 】 3.2%
 【ユーロ圏】 1.8%
 【 日 本 】 ▼0.5%
<公共[消費}-2015予測>
 【 米 国 】 0.6%
 【ユーロ圏】 1.0%
 【 日 本 】 △1.6%
<投資全般-2015予測>
 【 米 国 】 4.0%
 【ユーロ圏】 2.1%
 【 日 本 】 ▼0.5%

先ずは、投資先魅力が零落してしまった国であることを正直に認める必要があろう。いくら日本企業だといっても、敢えてリターンが期待できない投資をする訳にはいかない。ここに手をつけない限り、どうにもなるまい。

当然ながら2016年も世界最低のパフォーマンスモードが続く。
        2014→2015→2016
【 米 国 】 2.4%→2.6%→2.8%
【ユーロ圏】 0.9%→1.5%→1.6%
【 日 本 】 ▼0.1%0.6%1.0%
【他先進国】 2.8%→2.2%→2.4%
【 新興国 】 4.6%→4.0%→4.5%

経済再興に進みたいなら、この認識が第一歩だろう。
そして、世界経済は米国の金融緩和と中国市場の成長の2本柱で支えられていることの確認。

言うまでもないが、今、どちらも転換期を迎えつつある。その余波は小さなもので済む道理が無い。
国際協調体制が機能しているようだから、流石に再度のリーマンショックは発生しないとは思うが、多少の動揺発生は避けられまい。
そのなかで一番脆弱なのは誰が見ても日本経済。

一億人が精神力を発揮していくら「頑張った」ところで、今のモードを続ける限りどうにもならない。投資の魅力が生まれる訳ではないからだ。

そういう観点では、TPP決着は一大成果である。関税撤廃によるモノの輸出増などどうでもよい話で、海外投資基盤が整った点にこそ絶大な意味がある。経常黒字を維持できるので、国家破綻を先延ばしできそうということ。その猶予期間で、産業の新陳代謝容認の国に変えないと。そして、知恵で食べることが可能な大経済圏が生まれたのだから、それ合わせた人づくりを急がねば。

ただ、その前に大きなハードルが控えている。
TPP反対勢力に対する大バラマキが控えていそうだから。すでにどうにも手の打ちようもなくなっている放漫財政がさらに悪化することになるのは間違いない。
ここらの舵取りが上手くいかないと、破綻の兆候が生まれかねないので要注意である。

と言うのは、日銀はさらなる金融緩和に踏み切るしかないと見ているから。
ドルやユーロのような基軸通貨の国ではないので、もともと出口などあり得無い。この手の無謀な施策は始めてしまえば、奈落の底までとなる。かつての陸軍と同じ。もともと投資魅力が無いのだから、人為的にインフレ化させることに成功しようが、それは民の生活レベルを落とすだけで、経済成長に結びつけることはできない。輸出が経済を支えることが可能な国ではなくなって久しいのだから。(言うまでもないが、自民党とは産業の新陳代謝阻止勢力が支持基盤だから、構造改革はできない。一方、野党は規制強化勢力なので構造改革阻止の姿勢しかとれない。政治的にはどうにもならないのである。)

そして、もう一つ。
政府は、参院選に向けて消費税増税再度延期へと進むしかなかろう。それが、国際的にどのようなインパクトを生むかはよくわからない。しかし、日本の財政破綻対応の議論が海外で表面化するのは間違いないだろう。

(日経記事)
「機械受注、8月5.7%減 外需落ち込む、基調判断2カ月連続下げ」 2015/10/8 9:38
(IMF)
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/02/pdf/tblparta.pdf IMF October 2015


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