表紙
目次

■■■ 2015年12月3日 ■■■

中国依存10傑を見ての感想…

ちょっと時間は経ってしまったが、フォーブスの先月末記事を見ての感想。

中国経済はこれから辛苦を迎えるのは間違いなさそうなので。

膨大な過剰設備を抱えており、当然ながら国営企業や地方自治体向け融資の不良債権が積み上がっている。これをサッパリ綺麗に処理しないと、先に進むのは難しいが、どうも、口先の改革だけで、問題の先送り路線を選んだようだ。こうなると、経済は徐々に落ち込んでいくことになろう。ただ、独裁国なので、余程間違ったことをしない限り、中国発の一大経済ショックの発生は考えにくかろう。
しかし、中国経済依存の国々はその低迷の影響を丸々受けるということ。

米国の投資家お好みの雑誌として、中国高依存の国10傑は、そういう背景にピッタリな記事と言えよう。
知的理解を深めることに力点を置いていそうな、いかにもグローバル感芬々な雑誌、エコノミストとはかなり風合いが違うが、ザッと眺めてみたい。

と言うか、素人の考察を加えるのに、よさげなネタということで。

〇 先ずは南米。

中国圏化邁進中と見るべきだろう。原油、大豆、鉄/銅を安価に安定的に輸入する上で鍵を握る国々の地域なのだから。

3ヶ国(ブラジル、ペルー、チリ)が10傑に入ったのも当然。

しかし、その依存関係は変貌し始めている。中国共産党の政策が変更されたからだ。
その政策転換の象徴が習主席による「虎狩」でもある。(政策転換は粛清でしか実現し得ないのは中国共産党の組織上の宿命。)アフリカは大失敗に終わったし、ベネズエラへの投資は焦げ付くことになろうが、この手の資源確保のための果敢な「優遇投資」と、その見返り(=キックバック)は打ち止めということ。ここは大事。見方によっては、古典的な大国による資源の一方的略奪型交易からの転換を図っていると言えなくもないからだ。
つまり、中国経済の低成長化で、資源略奪型は意味が薄れたということ。これからは全面的連携による中国経済圏構築へと進もうという取り組みが始まったのである。南米を中華圏拡大の要としたことになる。この地域をなんとしても、中国依存化させようという方針。

従って、米国が事実上支配しているパナマ運河を経由せずに、南米東側(ブラジル)から西海岸(ペルー)への陸上流通ルートを構築するという"脱米国政治潮流"構想や、第二パナマ運河掘削案が持ち上がる。その実現性などどうでもよい話で、政治的囲い込みの動きである。

日本のマスコミはここらの背景解説を抑える方針を採用していそうなので、どうしても注目度が低くなるが、そのメルクマールは、2015年初頭に開催されたラテンアメリカ・カリブ諸国共同体会議(2011年米国・カナダ除外で設立)。全く無関係の地、"北京”で行われたのである。
まさに中国人民待望の朝貢の図。
さらに、5月、李克強首相は、上記3ヶ国とコロンビアを訪問。貿易型の相互依存からの脱皮を宣言。各国の経済発展に中国が直接関与していく仕組みを解説しまくったということ。これは、米国流のコモディティ価格決定の仕組みからの脱却を目指す取り組みでもある。

〇 次に東アジア。

言うまでもなく、韓国、台湾、日本。抱える問題も、中国依存への姿勢も違うが、中国経済低迷で激震が走る国々である。

日本は、中国経済低迷の余波を被るという点では、先進国では一番脆弱かも。米国のサプライチェーン構築のお先棒担ぎをしてきただけで、本格的な経済進出という点では、米国やドイツのようには進めていないから、問題が生じれば中国から足切の対象になるのは間違いないからである。
そして、国内はバラ撒き経済で終始しており、成長余力を欠くため、伸びしろは中国輸出しかないのが現実。

朝鮮半島はもともと、中国朝貢の長い歴史で成り立っており、ミニ中華国家風土。中国が「中華」風を吹かす力を失うと、宗主国を他に求める勢力が勃興し混乱発生という歴史。今、再び、宗主国転換期を迎えている訳だ。

台湾には、Hon Hai Precision Industriesのような企業もあり、経済的に大陸無しにはニッチもサッチも。米国の歴代政権にしたところで、早く大陸併合が進んでくれればというのが本音であろう。ただ、朝鮮戦争の傷があるので、米国国内的には台湾防衛を続けるというだけにすぎまい。
台湾人のほとんどは、できれば独立ということだと思うが、シンガポールでの馬習会談が行われたことではっきりしたように、それは無理である。1945年の毛沢東蒋介石会談に匹敵するもので、これは米国歴代政権の流れに沿ったものでもあるからだ。

〇 一番の相互依存国家は米国だろう。

10傑に登場しないが、小生は、隠れた第一位は米国と見る。南沙諸島問題も、基本的に米中対立の構図がある訳ではなく、出来レースそのもの。
もともと、米中蜜月は遠の昔に確立されており、ゆくゆくは、米国が大陸沿岸から撤退し、台湾を(平和的に)併合するという点で意思一致していたのは間違いないのでは。そう考えるのは、1972年の毛沢東ニクソン会談とは、米中秘密軍事協定調印でもあったと見るから。要するに、中国支配域(チベット、西域、内蒙古、台湾)の線引き容認と反ソのバーター。世界中で繰り広げる米ソ代理戦争で疲弊し始めた米国が、中ソ対立を活用したということ。

そして、その流れは今も続いている。どう考えても、米国にとって最重要パートナーとは中国以外に考えられないからだ。
中国共産党は、すでに、「共産主義」や「民族自決」なるイデオロギー戦争の当事者では無い。その点での脅威はゼロであるため、蜜月度は向上している。経済力から考え、宗教独裁国家サウジアラビアとの同盟関係より重要視されるのは当然だろう。日本との軍事同盟関係も、所詮は、この米中関係の土台の上での話にすぎず、両者のご都合で利用される位置にあると考えるのが自然。米中合作のストーリーに合わせ、日本に適当に対処する時代が始まった訳で、TPP批准が実現すれば、日米対話に関心を払う米国政治家もいなくなると考えるべきだろう。
日本は、米軍の庇護なくしては安全保障が保てないので、これから厄介な事態に直面する可能性が高まるということ。

そもそも海南島潜水艦基地防衛の要(太平洋への深海ルートはここしかない。)でもある南沙諸島の基地化をオバマ政権は黙認していたのである。それを、基地化が誰の目にもわかるようになって話が大きくなったにすぎない。しかも、突然海洋法云々を言い出したのである。どう考えても、国内政治のご都合主義以外のなにものでもなかろう。なにせ、米国は国連の海洋法に参加していないのだから。
独裁国家よりはずっとましだが、あくまでもご都合主義で動くから用心せねば。
すでに、米軍は中国沿岸部の制空権を放棄している。このことは、人民解放軍の十八番である量の勝負が成り立つということ。この地域への空母派遣はできない状況にあることを理解しておくべきだろう。
言うまでもないが、尖閣問題も同じこと。海洋法上、日本の領土と主張できるだけの論理的正当性があるが、米国が加盟していない以上、日本政府はその土俵で争う訳にはいかないのである。まあ、オバマ政権の、日米同盟での領土防衛も口約束である可能性が高そう。ポーズだけで、日本を利用できるのだから、これ幸い。台湾併合が視野に入ってきたら、突然、日本に地域平和のために中国への割譲を働きかけかねない体質だと思うが。

〇 ASEANは上記に比べれば、もともとが相互依存。

マレーシア、タイ、インドネシアが10傑の末尾に位置しているが、そんなものだろう。いずれも全輸出額における中国の割合は1割程度。いずれ、日本のように2割弱までは到達するだろうが、ハイスピードで進むことはあるまい。
しかし、中国重視路線であることは間違いない。適度な軍事バランスであれば言うこと無しというに過ぎず、米国のご都合主義を理解しながら動いているように見える。
小生なら、中国と深い依存関係があるのはこれら3国より、ラオスとミャンマーをあげる。両者とも、一次産品しか貿易品が無いからだ。交易してくれそうな国は中国しかなかろう。しかも、独裁政権であればあるほど交流し易い国なのだから。そういう点で、形だけの政権交代を図ったミャンマーは波乱含みである。

〇10傑第一位はなかなかのヤリ手国。

中国経済の低迷で大きく影響を受けた企業として必ず名前があがるのが、BHP Billiton。鉱物資源だけではなく、オーストラリアにとっての中国市場は最重要であるのは間違いない。輸出額の約三分の一を占めるのだから。
しかし、中国としては南米の中国圏化を優先するだろうから、豪としては面白い筈もない。従って、そうしたトーンを感じさせる主張は多発することになろう。だが、それだけのこと。
もともと、できるだけ英米軍ににまかせる安上がり安全保障方針の国。それが、米国が片務的な防衛拒否、地域防衛構想を押し付け始めたので、ここのところそれに乗っているが、それは末梢的な話。この国は、はなから打算的。
それを考えれば、最重要顧客を袖にするなどありえない。経済的影響を最小限にするためならいかようにも変身という国では。
従って、AIIBでも主要メンバーとして大いに活動する筈。世界の金融はドルベースだが、米国のGDPシェアと大きな乖離がある上に、米国債乱発を可能にしている歪んだ制度だから、米国の衰退が見えた以上そろそろ乗り換え時と考えていておかしくなかろう。
なにせ、イギリス辺りでは、相当前から、中国経済は低迷するものの、近い将来にGDPトップは間違いなしとの長期予測がチラホラと出初めていたのだから。おそらく、ロンドンシティでの元建て債流通が始まり、北米ではカナダで元決済が進む。打算的な国家である豪がそんな流れに乗らない訳がなかろう。

(Source) "Top 10 China Dependent Countries" by Kenneth Rapoza ForbesNov 26, 2015 @ 08:01 PM
 「政治経済学」の目次へ>>>  トップ頁へ>>>
 (C) 2015 RandDManagement.com