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■■■ 分類の考え方 2014.6.14 ■■■


庭鶏の原種を考える

ニワトリがキジの仲間と言われても、外見が余りに違いすぎるナという印象しかないが、家畜化されていない野生種の写真を眺めると、ホホー、雉にかなり似ていますナとなる。
ただ、生物学的に類似なのは、もっと小振りな、鶉[ウズラ]や小綬鶏[コジュケイ]らしい。

ニワトリの原種とおぼしき野生の鶏は、南アジアから東南アジアにかけて生息している以下の4種だそうである。もっとも、4種といっても、1強、3弱というか、「弱」は存在感なしと見てもよいかも。一方、「強」は、広域分布というだけでなく、生き残る力がダントツ。まあ、経済発展が急激だから、その状態をいつまでも維持する訳にはいかないだろうが。
  ─・─・─ 野鶏の分布 ─・─・─
灰色野鶏
  インド亜大陸中部以南(ゴダビリ河以南)
  (ジャワ
セイロン野鶏
  スリランカ
緑襟野鶏
  【島嶼ジャワ、小スンダ(バリ、ロンボック)
赤色野鶏
 コーチシナ亜種
  タイ東北部-ラオス南部-カンボジア
  マレー半島(南部)
  スマトラ
  スラウェシ
  フィリピン
 ビルマ亜種
  ミャンマー-マレー半島クラ地峡以北
  タイ北部/雲南西南部
 インド亜種
  カシミール-インド北側-バングラデシュ
  インド亜大陸東側
 トンキン亜種
  インドシナ半島東沿岸-海南島
 ジャワ亜種
  ジャワ
野鶏未発見
  カリマンタン
野鶏絶滅想定域
  タイ中央湾岸

上記を眺めて、すぐに気付くのは、島嶼の分布の余りの不自然さである。隔離された島の生物が独自進化というドグマで見る訳にはいかないのである。
・・・「野鶏」(野生種)とされているものは、ヒトが持ち込んだ飼育鶏が野生化したものに過ぎまいとなろう。素人なら、このようにすぐに結論づけることができるが、学者はそうはいかぬから厄介である。

ただ、この地域には、すでにそんな実例もあるから、気軽に発言すればよいと思うのだが。・・・オーストラリア大陸には、イエイヌの原種であるタイリクオオカミの亜種「ディンゴ」が存在する。オーストラリアにもとからオオカミが棲息していたとは考えられぬから、アボリジニが東南アジアから移住してきた時に連れてきた犬が野犬化したものと見られている。

そう思って、この地域のヒトの語族分類を大雑把に描いて、上記と対応させると、だいたいのところ合致する。
<ドラヴィダ>
 ドラヴィダ(土着印度)系・・・灰色野鶏
 タミル(ヒンドゥー教習合仏教)系・・・セイロン野鶏
<オーストロネシア>
 東南アジア島嶼語・・・緑襟野鶏
<印欧>
 ヒンディー/ベンガル(インド)系・・・赤色野鶏インド亜種
<シナ・チベット>
 チベット-ビルマ(仏教)系・・・赤色野鶏ビルマ亜種
<タイ-カダイ>
 タイ-カダイ(越大移動)系・・・赤色野鶏コーチシナ亜種
<オーストロアジア>
 モン-クメール(土着東南アジア)系・・・赤色野鶏コーチシナ亜種
 アンナン(越南)系・・・赤色野鶏トンキン亜種
<オーストロネシア>
 タガログ系・・・赤色野鶏コーチシナ亜種

実に多様。
これを、少数民族の分布で見たりすると、ゴチャゴチャしてきてさっぱりわからぬものになる。
宗教にしても、インド発祥のヒンズー教と仏教だけでなく、さらに西から渡来したイスラム教も存在する。イスラムはもっぱら島嶼部に残るから、明らかに海伝であり、バリ島のヒンズー教やボロブドールの仏教遺跡から見て、これらも海伝。一方、大乗化したチベット仏教や、中国型仏教は陸伝。もちろん、陸伝と思われる上座部仏教や、北から来た回教徒も存在する。これに加えて、道教はあるし、イギリスとフランスの植民地化の嵐からの影響も残っている訳で、なにがなにやら状態。
そのなかでバランスをとりながら、人々は生きているのである。
ヒトと共に暮らすニワトリがその影響を受けない訳もなく、野鶏がそれとは孤立した存在とも思えないから、こちらもただならぬ影響を受けてきたに違いない。

考えてみれば、飼っているニワトリと野鶏と勝手に二分するが、その中間も少なくないのがこの鶏の特徴でもあろう。そうそう、それに、「亜種」とされているが、日本の研究者は分離しかねる中間種が目立つから、その見方に疑問をなげかけている。公言できぬとはいえ、それがまともな見方だろう。

なにせ、ニワトリを「飼っている」と言っても、ほったらかしだったりするのだから。
肉や卵を得るための経済動物として面倒を見てやろうとの気など全くなさげ。そのため、鶏達は、ヒトの生活域で勝手に餌をあさって歩き回る状態が普通。外見上は、子供のペット扱いである。ただ、特別な時には、供犠用に絞め殺すことにはなるのだが。(昨日までの遊び相手を殺して食べるという文化は、日本人にはとうてい理解できぬが。)

それはともかく、ヒトの人為的行為を想定した分類というのが、鶏の分類には一番似つかわしいと言えそう。
日本の鶏もそんな感覚で分類するとよいかも知れぬ。
  古代渡来系
   -高貴(鳴鶏)系
   -地鶏化系
  スマトラ系
  シャム系(シャモ)
  中国バフコーチン系(名古屋)
  烏骨鶏
  卵鶏(レイヤー)系
  肉鶏(ブロイラー)系

  ─・─・─ 野鶏と家鶏の類縁関係 ─・─・─
┌───────────鶉

│┌──────────緑襟野鶏
└┤┌────────灰色野鶏
│┌┤
└┤└────────セイロン野鶏
│┌────────赤色野鶏ジャワ亜種
└┤┌───────赤色野鶏コーチシナ亜種[スマトラ]
└┤┌──────赤色野鶏コーチシナ亜種
└┤┌────アヤム・チェマニ[ジャワ島]
│┌┤
││└────アヤム・プルーン[ジャワ島]
└┤名古屋[バフコーチン/中+日]
┌┤
┌┤└白色レグホーン
│└─タイの在来種(チャボ)
┌┤┌─白色レグホーン[伊]
│└┤
│┌┤└─黄斑プリマスロック[米]
││└───赤色野鶏ビルマ亜種[タイ]
└┤┌───アヤム・ココッ・バレンゲッ[スマトラ島]
└┤
└───赤色野鶏コーチシナ亜種[タイ]
(註) Ayamは一般的には以下のように分類されている。
Ayam Kedu Hitam/Cemani/Putih/Merah, Ayam Nunukan, Ayam Pelung, Ayam Sumatra, Ayam Belenggek, Ayam Gaok


(source) 秋篠宮文仁[編著]:「鶏と人 民族生物学の視点から」 小学館 2000

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