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■ 分類の考え方 2014.11.30 ■


納豆の見方
[3:大豆「豆食」の観点で]

中尾佐助論が素人にはよくわからないのは、熱帯と温帯の植生の違いをどのように見るべきかの解説が無い点にある。稲とは熱帯の植物なのか、それとも温帯なのか。あるいは、そのような見方はたいした意味がないのか、教えて欲しいところ。

そして、稲の栽培についても説明不足と言わざるを得まい。古事記の記載から見て、日本の稲作文化は「葦」の生える低湿地型だと思われるが、それが、どうして樹林地帯の文化と言えるのか、すぐには理解しかねるからだ。
それに稲作の以下の3つパターンは連続的に進展したと考えてよいのか気になるところ。「夏雨サバンナ」の雑穀が稲に集約されていったと言えるのかも、なんとも言い難しでは。
それはともかく、見ておきたいのは豆の位置付け。そして、それが大豆になった理由。大豆は稲とは違って熱帯系ではなさそうだからだ。両者の組み合わせが、自然に生まれることはありえまい。
 ・天水焼畑
   -灌漑不要
   -放置農業(休耕期間設定)
   -豆との混合栽培
    発展形として、豆との輪作
   -半定住(季節移動)
   -多種多様な食材調達活動
    (漁撈、狩猟、採取、・・・)
 ・半水田
   -非湿地帯への水の引き込み型灌漑
   -時々手入れ型農耕
   -各種穀類と豆作の併存
   -河川周辺の半丘陵地域定住
   -各種農耕と半栽培植物の採取活動
 ・水田
   -湿地帯の水抜き型灌漑
   -労働集約型農耕
   -稲の集中栽培に豆の畔作
    肥料技術導入後は豆は別途畑作
   -河川デルタ/扇状地間近の低台地定住
   -稲作専業型(生産性が高いので分業可能)

こうして眺めると、生産性が高い水田農業があって始めて、広範な大豆の利用が進んだのではないかと思う。豆粒は比較的大きいし、乾燥すれば3年位保存可能だから、実に便利な食材ということで。
この辺りの流れは想像するのが難しい。なにせ、大豆の現代の主用途は油糧種子。副生成物のオカラは飼料とくる。(主に牛だろう。もっとも、日本ではオカラは豆腐製造所からの生出荷の惣菜用素材イメージが強いが。)
従って、食用といえば、納豆の存在が目立つことになる。しかし、その昔は、そのような工業製品的なものがある訳もなく、大豆を食べていた筈である。しかし、その料理はよくわからないのが実情。
ともかく、生豆は硬いし、毒だから熱処理か発芽化は不可欠。(発芽化とは、モヤシ生産あるいは苗生育:現代の日本では豆のモヤシ[]は緑豆やブラックマッペの方が好まれている。豆苗は大豆ではなく、中国も含めてエンドウ豆がほとんどのようだ。)

だが、大豆もやしはすぐに腐る。そうなれば、基本は単純な加熱調理(煮,蒸,焼,炒)だろう。
[現代では、粉化(黄粉)、液化(豆乳)、加工食品化(湯葉,豆腐,油揚/生揚/雁擬,高野[凍]豆腐)とバラエティ豊かだが。]

但し、しかし、この場合も、いったん食べれるように処理してしまうと、日持ちが悪い。
このことは、処理後の大豆を日持ちさせる工夫がなされている筈。無塩有塩に関係なく、納豆、味噌、等々はそうした展開の一部と見るべきでは。「すぐに食べられる豆加工品」ということで、本質的には同類。
醗酵でなくとも、砂糖あるいは油漬けとか、乾燥でもよいのである。ただ、砂糖や油の登場は近代にならないと無理だろうというにすぎまい。

ところが、日本の「糸引納豆」だけは、この分類にのってこない。呼び名は「納豆」だが、寒い地域を除けば、決定的に日持ちが悪い食品だからだ。これは保存用に開発されたとは言い難かろう。それに、他の醗酵作業とは極めて相性が悪い。麹菌を扱っている場所に持ち込むなど厳禁。他の伝統的醗酵と対立的な存在と解釈したくなる存在なのだ。

と言うことは、日本の「糸引き」は例外的な大豆醗酵食品と見なすべきということになる。
簡単に言えば、非熟成納豆ということになろうか。漬物で言えば、浅漬けタイプである。本格的な漬物たる、大豆醗酵食品とは違い、完成品とは呼べない。
つまり、東南アジアの納豆とは、日本の「糸引き」こと、非熟成納豆をさらに処理した完熟タイプとなろう。
以下のように考えたらよかろう。もちろん、ここには、味噌や豆/塩納豆が含まれる。

■前工程
 大豆−[軽醗酵]→半熟納豆
 (日本の「糸引納豆」はこれに当たる。特殊である。)
 40度以下にならないような温度管理が不可欠で、簡単に作れるものではない。

■後工程(半熟納豆の完熟化)
<長期醗酵>・・・数か月〜1年程度の醗酵
  ・ママ貯蔵「糸引納豆」
  ・白黴発生(チーズ様)
  ・麹菌(酒類醗酵的)
<塩添加長期熟成>
<平板化し乾燥>
  ・潰して薄くして乾燥
  ・減菌処理(蒸)
  ・黴菌添加(蜘蛛巣黴、赤パン黴、毛黴)
<有塩化乾燥>

当然ながら食べ方についても、日本の「糸引き」は違ってくる筈。

長期熟成した軟らかい発酵製品は嵩も減っており、基本は調味料だろう。乾燥でもすれば、さらに嵩が減ることになり旨みが濃縮される訳だから、貴重なものとして扱われることになろう。生野菜食文化地域だと、基本はディプソース的に用いることになろう。場合によっては、野菜を混ぜるから、「糸引き」納豆食と似て見えるが、本質的に異なる食べ方だと思う。もちろん加熱食地域では調理の際に調味料として添加するだけ。この違いがあるから、味噌と納豆は全く違うジャンルとされるのだろう。

しかし、亜熱帯気候だと、生姜、唐辛子と、味噌のような熟成大豆醗酵食品とよく混ぜ、ご飯と一緒に頂くスタイルは珍しいものではなかろう。もちろん、塩加減をその場で調整して。これは、「糸引き」納豆+辛子とか、薬味としての葱入となんらかわらないのでは。醤油で味を調整する訳だし。つまり、これこそが、稲豆栽培主体地域の食の基本形ということでは。

一方、納豆と呼ばれていても、乾燥した平板(煎餅様)タイプになると、「糸引き」とは、全く異なる食シーンが思い浮かぶ。
野外で炙って食べることを念頭においたものとしか思えないからだ。ただ、それが、屋内用食材化し、揚げたり炒める調理が基本になってしまった訳だが。言うまでもなく、「糸引き」とはおよそかけ離れた大豆醗酵食品である。


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