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魚の話  2006年11月2日
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いそぎんちゃくの話…

   口閉じて 潮時待つは 磯巾着   口を閉じて固まりじっと耐え抜くタイプは嫌われている

 「磯巾着」を見たいと思っても、昔のように磯ではなかなか見つからない。そんな時は、巷のアクアショップの水槽を覗けばよい。

 美しい触手をひらひらさせているイソギンチャクが、客寄せの目玉なのである。店員さんに聞くと、“私は愛の水中花・・・”(1)のイメージが受けているそうだが、本当なのかね。
 訪れる人の年代に合わせ話題を用意している気もするのだが。

 確かに美しいが、口から餌を取り入れ、消化できないものは、口から吐き出すだけという、極めて単純な機能しか持っていない生物である。その上動かないから、熱帯魚より人気がでるとは考えにくい。 (好みの場所を探して水槽内を動き回るそうだが, 見ている限り, そんな様子も感じられない.)

 クラゲが泳ぐことを止め、触手を上にして、逆向きで岩に付着した感じがする。ただ、それでは餌が十分ではないから、サンゴ(ヒドロ虫)のように光を利用する仕組みも持っている。両者の中間にあたる生物なのだろう。
  → 「お勧めしたい脳トレーニング手法(珊瑚) 」 (2006年7月3日)

 こんなことが気になるのは、分類学上、イソギンチャクが腔腸動物で、サンゴと同じような刺胞動物という点に興味を覚えているからではない。珊瑚礁の保護運動は盛んなのに、イソギンチャクはほとんど無視状態だからである。そもそも、絶滅危惧種を調べる以前で、どんな種がどこにいるのかが、はっきりしていない可能性もある。
 そんな状態で、水槽飼育のための捕獲が進んでいるのだ。

 生態が珊瑚に似ているのだから、成長スピードも同じようなものだろう。相当な数の種が絶滅しかかっているのかもしれない。

 その動きを加速しているのが、クマノミ君人気。クマノミを飼うなら、一緒にイソギンチャクもということのようだ。
 白いイソギンチャクの触手のなかをひらひらしているクマノミの画像は、いたるところで目につくから致し方あるまい。
 昔から、両者は共生しているとされ、有名である。(1)

 よく見かける説明は以下の3点だが、どうもしっくりこない。

  クマノミがイソギンチャクの敵を追い払ってくれる。
  クマノミが触手をお掃除してくれる。
  クマノミの餌のお余りをもらえる。

 クマノミは泳ぎが下手で、弱い魚だ。イソギンチャクのなかに入って攻撃を避けているのに、敵を追い払うとの話は疑問である。縄張り意識が強くて、触手を齧る魚を排除するとの解説もあるようだが、それは同類の魚との戦い。もしそうなら、クマノミによる触手のお掃除とは、触手を齧っているだけかもしれない。それに、イソギンチャクは自由に動けるのだ。掃除屋を雇う必要があるとも思えない。
 そもそも、触手で餌を捕らえる生物である。クマノミが他の魚の侵入を邪魔すれば、餌は減るかもしれない。お余りに頼るつもりなら別だが、クマノミが居なくても食べていける筈である。

 こんな風に考えると、クマノミにはメリットが大きいが、イソギンチャクにはデメリットかもしれない。クマノミは寄生魚とも思えるのだが。

 ・・・と言っても、どれも素人考えだから、外れかもしれぬ。
 ただ、こんなことを思わず考えてしまったのには訳がある。

 クマノミ君の映像を見ていて、不思議なことに気付いたからである。
 と言っても、それは、くだんのアクアショップの店員さんが、イソギンチャク飼育には強い光が必要と教えてくれたから。

 そうなのである。イソギンチャクは珊瑚と同類で、光が重要なのである。
 ハタと思いあたるではないか。疑問を感じる見かけの共生関係ではなく、正真正銘の一心同体型の共生関係だ。
 珊瑚は藻類を抱えており、藻による光合成の生産物を頂戴する。その見返りに炭酸ガスを藻に供給する。さらに、藻に頑張って頂くために、珊瑚は藻の生活に最適な住居作りに励む。藻が死ねば、珊瑚も滅びるから必死である。
 イソギンチャクも同じように藻と共生している筈だ。

 そんな視点で、クマノミ君が遊ぶ画像を見ると、アッと驚く。イソギンチャクは真っ白。これは、藻が死んでしまったということだ。  余命いくばくもないか、藻との共生をあきらめて生きている状態としか思えない。

 イソギンチャク君に衰退の危機が迫っていなければよいのだが。

 --- 参照 ---
(1) 五木寛之脚本ドラマ「水中花」の主題曲[歌手:松坂慶子]
(2) http://www.env.go.jp/nature/nco/kinki/kushimoto/kumatoaz.htm


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