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魚/貝の話  2013年6月5日
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はい貝の話…

  坂上郎女、浜の貝を見て作る歌 [万葉集#964}
 我が背子に 恋ふれば苦し 暇あらば
 拾ひて行かむ 恋忘れ貝

  片方だけの灰貝の殻は、どんな濱でもよく見かけるもの。
  ラムベースの"Beachcomber"で潤しながら、じっくり眺めるのはどうか。
  縄文時代の内湾風景が浮かんできて、癒し効果抜群。


 赤貝[→2006年4月14日]とくれば、どうしても寿司ネタ「本玉」の話になる。しかしそれは昔のこと。今や、佃煮や缶詰の赤貝で知られる「小赤」こと猿頬貝が幅をきかせているし、「白玉」こと、外洋性の丸猿頬貝["Satow"貝]も人気らしい。河岸では、「場違玉」と呼ぶ訳だが、今や「価値王」に変更すべきかも。
 もっと昔の、3300〜3000年に遡れば、これに太った小振りの赤貝とでも言うべき、灰貝が加わっていたようだ。それが、今や、最後の集団棲息地たる有明海でも絶滅寸前。見かけるのは、もっぱら「化石」か「古い貝殻」。

 その「灰貝」という名称だが、身あるいは貝殻が灰色の貝という意味ではない。貝殻を焼いてできるカルシウムが、古代から化粧品や医薬品として使われてきたからである。それは南洋の呪術的意味合いもあったに違いない。これらのグループは「血」貝だからだ。身は煮て干され、のこった殻はよく洗ってから焼かれ粉になる。両者ともに、儀式用供物として大陸でも流通していたかも。

 それにしても、これらの貝は実に良く似ている。身の方もさることながら、貝殻がウリ。蝶番が比較的長く、貝殻の表面は畝が放射状に何本もできており、その間の溝に毛が生えている。この放射状に走る畝の数が種によって違うので、慣れた人だとパッと見た線密度の印象と、貝殻全体の微妙な盛り上がり方で見分けることができるらしい。素人だと、畝を数えるしかないが、貝屋さんは別だろうが、すぐに嫌気がさしてくる。と言うのは、実は結構色々な種類があるらしいから。

 図鑑を見ると、畝(radial rib)の本数で並べると以下のようになっているようだ。
  ・ 赤 : 42本内外
  ・畝猿頬: 40-43本
  ・丸猿頬: 38/40本内外
  ・熊猿頬: 34本
  ・猿 頬: 30-34本
  ・喰違猿頬: 29本
  ・ (*) : 28-30本
  ・姫 赤: 24本内外
  ・細畝灰: 20/22本内外
  ・膨 灰: 18本内外
  ・ 灰 : 17-18本
  (註) *: 竜の口猿頬[化石] 新生代新第三紀鮮新世前期(約500万年前)竜の口層
       化石ではアナダラが一番ポピュラーだが畝の本数は少ないようだ。

 もっとも、図鑑によって数字は微妙に異なるので、上記は余り当てにならない。例えば、赤貝を「ミロク」と呼ぶ地方があり、それは放射溝が36本という意味だろうし、灰貝は「シシ」なので、四×四=16本ということ。上記の範囲を若干外れているようだが、それは古代種ということだろうか。あるいは、その程度のバラつきがあるというだけの話かも。
 ついでに、南洋の方も含めると以下の如し。
  ・黒毛白猿頬: 32本 ・・・北豪州
  ・本 熊 猿頬: 34本 ・・・フィリピン
  ・磯 筋 猿頬: 42本 ・・・台湾以南
  ・台 湾 猿頬: 26本 ・・・台湾以南
  ・琉 球 猿頬: 34/38本 ・・・沖縄以南
  ・  甍 猿頬: 23-26本 ・・・奄美以南
 おわかりになるように、20本以下を灰貝と呼ぶようだ。化石のアナダラの系譜ということだろうか。

 それにしても、貝殻のデザインにこれほどの多様性がどうして必要なのか、素人にははなはだわかりにくい。ただ、放射状に走る畝の間の溝で、さらなる畝を作れば本数は簡単に増やすことは可能な感じはする。そうとでも考えなければ、同じ種で本数にバラつきが出る理由が説明できまい。昆虫や甲殻類と違って、脱皮はできないから、貝殻を大きくするには樹木のように年輪型に成長するしかないが、同時に放射構造の強化も図れる仕組みになっているのだろう。
 して見ると、この類縁で、成長重視路線の貝は赤貝で、伝統重視の保守路線は灰貝ということになるのかも。

【レポート】 諫早湾干拓事業に伴う「有明海異変」に関する保全生態学的研究 諫早湾保全生態学研究グループ[佐藤慎一,佐藤正典松尾匡敏,市川敏弘]---図3 乾燥した諫早湾の泥干潟で見られたハイガイの死殻(撮影:佐藤慎一)

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