表紙 目次 | ■■■ 2015年6月2日 ■■■ 磯玉類…尻高の 山盛り笊に 手が伸びる 歌で見かける 夢物語 磯の貝採りは古くから盛んだった。能登の机島でのそんなシーンの歌が万葉集に収載されている話をした。 [→2009年10月30日] さらに、古事記の歌も付け加えておこう。・・・ 歌よみしたまひしく、 神風の 伊勢海の 大石に 這ひもとほろふ 細螺[しただみ]の い這ひもとほり 撃ちてしやまむ。 [中巻 歌謡#14] このシタダミとは、腰高岩殻[コシタカガンガラ]や石畳[イシダタミ]のこととされるが、感覚的には尻高[シッタカ]以下、磯のほとんどの巻貝すべてを包含する概念でもあったと思われる。 と言うのは、色々な貝を一緒に獲ってきたら、すぐに軽く煮て、楊枝で身を引き出して食べたに違いないからだ。もっとも、万葉集の歌だと生食かも知れぬが。ともあれ、そんな行為を表現するのに、特定の貝の種類名を歌に詠み込む必要はなかろう。 しかし、それぞれの貝に名前がついていた筈である。シタダミも、全部を包含する用語として使うと同時に、特定の貝の名前でもあった可能性が高かろう。 一方、現代では、磯の小さな巻貝全般を指す言葉が失われている。シタダミをそのような用語としてはつかわないし、一番人気のシッタカ [→2008年9月5日]を代表として扱うこともない。(タニシ[田螺]は全般を指すが、特定の貝の名前ではないことを知ったので、こんなことが気になった。)同じ種類で、同じような大きさに仕訳けしないと、商品として出荷できないせいかも知れぬ。 ただ、唯一、<磯玉>という用語だけは残っている。漁師町ではよく耳にする言葉。これが、古語のシタダミに対応しているのではなかろうか。 ところが、それが、何を指すのかはよくわからない。「玉」だから、「半球ヘルメットタイプ」の貝殻を持つ貝を指していそうな気がするが、そんな使い方はしないようだ。 ウエブで見ると、「半球ヘルメットタイプ」も含めたりするようだが、主体は、「低円錐タイプ」と「歪み低円錐小モノタイプ」を指す用語とされているようだ。 ただ、現実には、漁師町の食堂で、サザエを磯玉と呼んでいる例もあり、それぞれ勝手な定義付がなされていそう。この場合は、おそらく、棘が無い養殖サザエを指すのだろう。 小生の感覚からすると、イソダマ[磯玉]も、もともとは特定の種を指していたように想う。 つまり、以下のような分類感だったのではないかと推定する訳である。要するに、磯で獲る食用巻貝分類ということ。学校教育の分類とは無縁の地平。それと、貝殻コレクション的発想からも逃れていることが特徴。 磯モノ │ ├─アワビ、トコブシ(片貝タイプ) │ ├─サザエ(棘タイプ) │ ├─フネ(半球ヘルメットタイプ) │[広義]イソダマ<磯玉> │┌──バテイラ<馬蹄螺> ││ ├┤シッタカ[尻高](低円錐タイプ) ││ │└──[狭義]イソダマ<磯玉> │ ├─イシダタミ、等(歪み低円錐小モノタイプ) │ │底棲 └─キシャゴ(カタツムリタイプ) ちなみに、分類学的には、上記の[広義]「磯玉」は「錦渦貝類」に入る。ウエブで見かける貝を適当にピックアップすると以下のようになる。 〇戎[恵比寿 or 夷]貝 or 流螺身[ナガラミ]/Dall's Unicum Top/腰帯鍾螺 巻上戎貝/Korean Margarite,黒巻上戎貝,小巻戎貝,美戎貝/Glorious Top 銀戎貝/Silvery Margarite,草色戎貝/Changing Margarite,平瀬銀戎貝 毬[イガ]銀戎貝/Crump's Margarite,棘戎貝/Prickly Japanese Top 臍開棘戎貝/Soyo's Top,針戎貝 塔高戎貝/Shinagawan Top 錦戎貝,喜平次戎貝 オホーツク戎貝/Russian Margarite,台湾戎貝/Formosa Top 西洋戎貝/European Painted Top,飾戎貝/Western Gem Top パルマー戎貝/Palmer's Top 〇古屋貝/Swollen-mouth Shell 〇千種貝Japan Jewel Top@北海道 蝦夷千種貝,西洋千種貝/Striate Jujubine 〇芦屋貝 ●尻高 or 馬蹄螺/Pfeiffer's top/馬蹄螺 or 鐘螺 達磨更紗馬蹄/Commercial trochus ●久保貝 or 窪貝/Silver-mouthed monodont 臍久保貝/Green-based tegula,鉢巻久保貝/California Black Tegula 〇錦渦貝/Mottled top ●腰高岩殻 ●熊の子貝 ●石畳/Lipped periwrinkle 沖縄石畳/Toothed Monodont,角[カド]腰高石畳/Subangular Margarite 華[ハナ]畳/Canal Monodont,釈迦頭畳 ●小蠃(螺)子[シタダミ] 石垣小蠃子/Speckled monodont 〇喜[幾]佐古,細螺 or 扁螺/Button top 団平喜佐古Giant button top,更紗喜佐古"Common" button top つまり、[狭義]「磯玉」は、「久保貝」になる。「馬蹄螺」とよく似た貝だが、円錐の底辺が丸まっている点が違う。 「軟体類」の目次へ>>> 「魚」の目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2015 RandDManagement.com |