表紙 目次 | ■■■ 2017年12月28日 ■■■ シーサファイア …昆虫の記載種はザックリ100万とされており、動物全体の約6割を占める。何処にでも進出したことを示す数字とされているが、海棲種は存在しないと言われており、地球表面の7割には存在していないことになる。(もっとも、海水黽[アメンボ]のうちHalobates系には大洋海水面で生活している数種が存在しているし、潮間帯では甲虫だけでなく、それなりに多くの種が見つかっている。しかし、海底棲はゼロ。)マ、常識的には、浸透圧の下では呼吸系を適合させるのが難しいということであろう。 そうなると、海における昆虫並の広域適応者がいておかしくない訳だが、それにあたるのが橈脚[カイアシ]と見なせるのでは。 昆虫は翅で移動能力をつけて棲息領域を広げたのに対し、こちらは小舟の舵取り兼推進力のもととなる橈状の脚を持つことでどこにでも進出できたのであろう。"橈"を持たぬ微塵子は捕食者の眼から逃れようとする草食体質で生き抜いてきたのに対して、橈脚は果敢な肉食体質で歴史を育んできたと言えよう。同じように透明で発見しにくい体でも、その意義は違うかも。 触角で、獲物らしき者を見付けたら、すぐに近づいて喰らいつくことで支配権を握っているのだと思われる。要するに、本質的には雑食。 しかし、寄生虫として一生を過ごす種も少なくないのでそう見えないだけだ。マ、他の種同様に、絶好の餌にされる地位なので面白くないから、捕食者を宿主にすることでリベンジを果たした訳である。実に見上げた根性だが、橈脚の場合はそれがより積極的だった可能性が高い。寄生とは、いわば間接的な共食いを意味していそうだから。栄養的に考えれば、なんといっても一番の御馳走は同類。 ともあれ寄生も素晴らしい新天地となると、宿主になりそうならナンデモとなるのか、先は魚に限らない訳でたいしたもの。 [(参考)伊東宏:「プランクトンとして出現する寄生・共生性カイアシ類」日本プランクトン学会報 53(1) 2006年] ただ、こう書くと、ただただ大食いに映るが、間違いなくグルメである。種の分化が凄まじいのは、好んで食べる特定の食い"者"を決めることで棲み分けているからだろう。餌が口に合わなかったりすれば、即、ポッと吐き出すような食事をしている筈。 従って、橈脚の一番の特徴は脚というより、大小の2対の触角と好みの獲物用に設計されている口器ではなかろうか。 (なかには、深海性のヘテロラブドゥス類のように、注射針仕様の歯を装備していたりする。神経毒ではないようだが、麻酔性ある分泌物が注入されるという。体躯に比して大きい動物を仕留めることができる訳だ。) そうそう、「海の昆虫」と呼ぶと誤解を与えるので、注意が必要だろう。 蝦蟹類は大概が柄のついた複眼を持っており、これと連動した脚力こそが自慢。つまり、甲殻類は昆虫のすばしっこさを支える視覚能力と同等な力を持っているのが普通ということ。ところが、同じ甲殻類に属していても、橈脚君はその道を棄て、最低必要な視力で満足している。方向性は逆と見れないこともない。 マ、だからこそ生息範囲を広げることができたとも言えるのだが。 ・・・と、決めつけると失礼か。 ポンテラPontellaの仲間は2個のレンズ眼ありと。海面で跳ねる能力ありとの話もあるそうだ。おそらく、アメンボ的に海面辺りで生きて抜いているため、捕食者接近を察しての行動だろう。 ということで、どんな種族か見ておこう。 先ず、深海だが、様々な種が生活していることが明らかにされつつある。 大西洋深海部の調査では、橈脚類が680種採取されたという。もちろん大部分が新種。コーヒーカップ1杯分の堆積物に数多くの生物が生息しているのだという。 → [PHOTO」"古代遺跡で発掘された金細工のように見える"種 (C)Census of Marine Life@[深海の新種:カイアシ」Nikkei National Geographic 2009.11.26 → [PHOTO Ceratonotus steiningeri by Jan Michels]" Census of Marine Life: pictures of new ocean species discovered"The Telegraph 2017 南極の湖沼にも棲息している。[「東南極の塩水湖においてカイアシ類を発見」国立極地研究所リリース 2008年] 一方、ヒマヤラ高山地帯の氷河土壌域には底微塵子が生息。[菊地義昭「ネパールのヤラ氷河上に生息するヒョウガソコ微塵子について」@日本陸水学会第63回大会(口頭発表)] もちろんのことだが、皇居でも棲息。 [菊地義昭「皇居の陸生ソコ微塵子類」国立科博専報 35, 2000年] 要するに、環境耐性があるため、湖沼に棲んでいて水が干上がってしまっても生き延びる術を身に着けていたということか。落ち葉や泥塊の間隙水のなかで生きていれば、それが飛ばされて行き着いた地で新たな棲み方を設計するという手の生物なのだろう。 体節型であるから、大きさの方も自由自在のようである。 寄生種だが、鯨鹿尾菜虫は最大32cmに達するという。 ところが、その類縁であるSphaeronellaグループになると、なんと0.1mmレベルも。小さな醤蝦[アミ]や海蛍等に寄生するのだから、対象相手によっては極小体にならざるを得ないのである。 → "Generalized body plan and different body shapes of female Monstrilloida." @E.Suarez-Morales:"Diversity of the Monstrilloida (Crustacea: Copepoda)" PLOS ONE 2011 [(参考)S.Ohtsuka et al.:"A new genus and species of nicothoid copepod (Crustacea: Copepoda:Siphonostomatoida) parasitic on the mysid Siriella okadai Ii from off Japan" Systematic Parasitology 62, 2005] なかには、透明に近い体躯なのに、光を反射して青くキラキラ光るタイプも。鰹の一本釣り漁師は、漁場の信号としてご存知らしい。これが上記の図絵である。 → 「【動画】青くきらめく生物「海のサファイア」」 (C)Nikkei National Geographic 2017.04.03 ご想像がつくように、深海種にはルシフェリン蛍光を発するタイプも多数存在する。 [(参考)P.J.Herring:"Copepod luminescence"Hydrobiologia 167, 1988] 様々な形で発展しているので、基本構造を決めつける訳にもいかないが、体節数の自由度は高いが、こんなところが標準ということか。・・・ 【頭】大触角+小触角、大顎+小顎No.1+No.2。顎脚 【胸】胸脚No.1+No.2+No.3+No.4+No.5+(No.6:消滅も) 【前後屈曲部】 【尾=腹】尾肢 (寄生種の場合、No.5からさらに欠落していく。触角や小顎も不要なら消滅。 幼生期に多毛類の体内等に寄生するモンストリラMonstrillaの一族になると、口器さえ欠く。単眼が1つだったりすれば、まさにモンスター。) ■橈脚[カイアシ]コペポーダCopepoda 《原始前脚Progymnoplea》 ◆プラティコピアPlatycopioida -Platycopiidae ○Antrisocopia ○Nanocopia ○Platycopia ○Sarsicopia 《新橈脚Neocopepoda》 {前脚Gymnoplea} ◆カラヌスCalanoida…寄生種有り(一部) 海水域優位群 -- -Epacteriscidae -Ridgewayiidae -- -Boholinidae -Pseudocyclopidaeシュードキクロプス --蛍光タイプ多数 -Arietellidaeアリエテルス -Augaptilidaeアウガプティルス -Aetideidaeアエティデウス -Discoidae -Heterorhabdidae ○Heterorhabdusヘテロラブドゥス -Hyperbionychidae -Lucicutiidae ○Lucicutiaルシクチア (flavicornis) -Metridinidae ○Metridiaメトリディア (pacifica) -Nullosetigeridae -- -Acartiidae ○Acartiaアカルチア -Candaciidaeカンダシア -Centropagidae ○Centropagesセントロパジェス -Diaptomidae ○Acanthodiaptomusアカントディアプトムス 大和鬚長剣微塵子 (pacificus) ○Diaptomusディアプトムス 鬚長剣微塵子…Ⓙ日本の淡水種の中心 ○Eodiaptomusエオディアプトムス (japonicus) ○Spinocalanidaeシノカラヌス ○Sinodiaptomusシノディアプトムス (valkanovi) -Fosshageniidae -Parapontellidae -Pontellidae ○Pontellaポンテラ -Pseudodiaptomidae ○Pseudodiaptomusシュードディアプトムス 偽鬚長剣微塵 -Sulcanidae -Temoridae ○Temoraテモラ -Tortanidae -- -Calanidae ○Calanusカラヌス (finmarchicus)@北海(膨大な量) (sinicus)@東支那海(膨大な量) ○Neocalanusネオカラヌス -Megacalanidaeメガカラヌス -Paracalanidaeパラカラヌス -- -Bathypontiidaeバシィポンティア…漸深層浮遊性 -- -Eucalanidae ○Eucalanusユウカラヌス -Subeucalanidaeサブユウカラヌス -Rhincalanidae -- -Ryocalanidaeリオカラヌス -- -Spinocalanidaeスピノカラヌス -Arctokonstantinidae -- -Aetideidaeアエティデウス -Clausocalanidaeクラウソカラヌス -Diaixidae -Euchaetidaeユウキータ -Kyphocalanidae -Mesaiokeratidae -Parkiidae -Phaennidaeフェンナ -Pseudocyclopiidae -Rostrocalanidae -Scolecitrichidaeスコレシスリックス -Stephidae -Tharybidae {後脚Podoplea} ◆カヌエラCanuelloida -Canuellidaeカヌエラ -Longipediidae ○Longipediaロンジペディア 足長底微塵子 ◆キクロプスCyclopoida…寄生種有り 淡水域優位群 -Ascidicolidae -Chitonophilidae -Corallovexiidae -Cyclopidae ○Cyclopsキクロプス 剣微塵子 (kikuchii) ○Diacyclopsディアキクロプス (bicuspidatus) ○Ectocyclopsエクトキクロプス (phaleratus) ○Eucyclopsユウキクロプス 鋸剣微塵子 ○Halicyclopsハリキクロプス 塩水剣微塵子 ○Macrocyclopsマクロキクロプス 大剣微塵子 (fuscus) ○Megacyclopsメガキクロプス ○Mesocyclopsメソキクロプス 朝顔剣微塵子 ○Microcyclopsミクロキクロプス 小型剣微塵子 ○Thermocyclopsテルモキクロプス (crassus) -Cyclopinidaeキクロピナ -Lernaeidae ○Lernaeaレルナエア 錨虫 -Mantridae -Notodelphyidaeノトデルフィルス 海鞘ノ虱 -Oithonidae ○Oithonaオイトナ -Paralubbockiidae -Speleoithonidae (◆タウマトプシルスThaumatopsylloida…全て寄生種) -Thaumatopsyllidae ◆ゲリエラGelyelloida ◆ハルパクチクスHarpacticoida…寄生種有り 海底域優位群 -Ancorabolidae ○Ceratonotus (steiningeri)…深海 -- -Diosaccidae ○Amphiascus 掃除底微塵子(kawamurai)…牡蠣殻付着珪藻食 -- -Cylindropsyllidae -Hamondiidae 紐砂微塵子 -- -Longipediidae 足長底微塵子 -- -Aegisthidaeアエジスツス -Balaenophilidae -Cancrincolidae -Cletodidaeクレトデス -Clytemnestridaeクリテムネストラ -Darcythompsoniidae -Euterpinidaeユウテルピナ -Latiremidae -Leptastacidae 櫛毛砂微塵子 -Leptopontiidae -Miraciidaeミラシア -Normanellidae 二爪手長底微塵子 -Canthocamptidaeカントカンプタス ○Bryocamptusブリオカンプタス ○Glaciella 氷河微塵子(yalensis) ○Morariaモラリア 歩底微塵子(srichardi)@吹上大宮御所正門にも棲息 ○Epactophanesエパクトファネス チビ底微塵子(varica)@吹上大宮御所正門にも棲息 -Dactylopusiidae ○Dactylopusioidesダクチロプジオイデス -Tachidiidae カワリ底微塵子 ○Euterpinaユウテルピナ -Harpacticidae ○Harpacticusハルパクチクス 底微塵子 ○Tigriopusチグリオパス 潮溜微塵子 -Ectinosomatidae 船型底微塵子 ○Microsetella 泳底微塵子 -Phyllognathopodidae ○Phyllognathopusフィログナソプス 木葉顎底微塵子(viguieri)@吹上大宮御所正門奥にも棲息 -Porcellidiidaeポスセロイデス 吸付微塵子 -Tegastidaeテガステス 横微塵子 ◆ミソフリアMisophrioida -Misophriidaeミソフリア ◆モンストリラMonstrilloida…すべて寄生種 -Monstrillidae ○Monstrillaモンストリラ ◆モルモニMormonilloida -Mormonillidaeモルモニラ ◆ポエキロストムPoecilostomatoida…ほとんど寄生種 -Bomolochidae 鰓虱 -Chondracanthidae ツブ虫 -Clausidiidae -Corycaeidaeコリケウス -Ergasilidae 偽鰓虱 -Herpyllobiidae -Kelleriidae -Lichomolgidae -Lubbockiidae -Macrochironidae -Myicolidae -Mytilicolidae ○Pectinophilus -Oncaeidae ○Oncaeaオンケア -Philichthyidae -Philoblennidae -Pseudanthessiidae -Rhynchomolgidae -Sabelliphilidae -Sapphirinidae ○Sapphirinaサフィリナ (Sea sapphire) (darwinii) (opalina-darwinii) (metallina) -Splanchnotrophidae 海牛宿 -Synapticolidae -Taeniacanthidae 細鰓虱 -Urocopiidae ◆シフォノストムSiphonostomatoida…全て寄生性 -Artotrogidae -Asterocheridae -Caligidae ○Caligusカリグス 魚虱 鱪虱(coryphaenae) 秋刀魚魚虱(macarovi) ○Phsudocaligus (fugu)…草河豚等に寄生 ○Lepeophtheirusレペオフテイルス 鮭虱(salmonis) -Cecropidae 翻車魚ノ虱 ○Cecrops 翻車魚金魚蝨[マンボウチョウ](latreillii) -Dichelesthiidaeツツウオジラミ -Dirivultidae -Eudactylinidae 本鮫虱 -Hatschekiidae -Kroyeriidae -Lernaeopodidaeレルナエオポーダ 長頸虫 -Lernanthropidae -Megapontiidae -Nicothoidae ○Nicothoe Lobster louse(astaci) ○Sphaeronella -Pandaridae 鮫黄虱 -Pennellidaeペンネラ ○Pennella 鹿尾菜虫[ヒジキムシ] 鯨鹿尾菜虫(balaenoptera) 鮪鹿尾菜虫(filosa) 梶木尾菜虫(instructa) -Pontoeciellidae -Pseudocycnidae 帯魚虱 -Rataniidae -Sphyriidae -Trebiidae 「動物」の目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2017 RandDManagement.com |