表紙 目次 | (C) Hans Hillewaert ■■■ 2018年1月14日 ■■■ われから …清少納言が愛しいと感じた虫のなかに割殻が含まれているが、その生物については、たいていは分類名だけの通り一遍の解説で済まされてしまう。ほとんど知られていないからだろう。 虫は 鈴虫 日暮 蝶 松虫 螽斯[=蟋蟀] 機織 割殻 ひを虫[=蜻蛉] 螢。 [枕草子#43@912年] 海人としての伝統感と、仏教的な生命感から、しみじみさせられる虫だったのであろう。 そもそもこの名称は、藻塩製造の折に大量に付着していた虫の甲殻が割れてしまうことを表現したに違いなく、情緒的共感を呼ぶ生物だったのだと思われる。 それが、恋に破れてしまったせつなさに繋がったのだろう。 昔、男、人知れぬ物思ひけり。つれない女のもとに、 恋ひわびぬ 海人の刈る藻に 宿るてふ 我から割殻身をも 砕きつるかな [伊勢物語#57] 在原業平はこの歌については、藤原直子の歌からの転用を示唆しており、"我から"と"割殻"を掛けた作品が一世風靡していたようである。 海人の刈る 藻に住む虫の 我から割殻と 音をこそ泣かめ 世をば恨みじ 藤原直子(典侍正四位下) [古今集巻十五恋五#807] 静かに暮らしていた割殻君も、藻と一緒に獲られてしまい、塩を取る作業でパリパリと殻が割れていく訳だが、どうにもならないとはいえ、もの悲しい想いこそすれというのであろう。失恋も受け入れるしかなく、心が割れて行くようだという独白的台詞に皆共感を覚えた訳だ。 この割殻だが、伊勢志摩の海老の類と見られていたようだが、かなり広い範囲での種類を指していると思われる。 伊勢志摩や 海人の刈る藻の 人知れず 我から割殻辛き 恋もするかな [白河殿七百首恋#465@1265年] 仏教感が滲み出る名称なのであろう。 我から割殻と 藻に住む虫の 名にしおへば 人をば更に 恨みやはする [西行「山家集」戀百十首#1336] 殻でできているかのような割殻を取り上げたが、藻場での葉上棲の代表はもっぱら横蝦。こちらになると肉付きは結構ある。 この近縁種の展開先は色々。特に岩礁域の底棲種は少なくない。軽やかに歩いているだけでなく、必要とあらば泳ぐようだが、体躯の形態からみて、歩行生活を基本としているように見える。つまり、底棲対応種。昆布の根などイの一番の展開先だっただろう。 そのような集団は、底蝦と呼ばれているが横蝦と言ってもよかろう。もともと、"横"と呼ぶ由縁は、その手の種が転石の隙間等に横向きで入り込む習性であり、そんな所は無縁の生活をしていても結構横向き歩行をするからだ。喜んでそんな態勢をとっているのではなく、強い水流に押されているだけだとは思うが。 [(参考)富川光:「Jasogammarus属(甲殻類:端脚目:キタヨコエビ科)の分類と系統)」広島大学大学院教育学研究科紀要II-56 2007年] と言うことで、この仲間は底棲種と見たいところだが、水深数百メートルレベルからのネット採取でも見つかる。浮遊性種も多いことになる。(この深さでは光が届かないから視力は失われているだろうから、浮遊しながらどのように餌をとるのか。) マ、水母蚤のように、浮遊といっても、同じように浮遊する生物を付着先にするための過渡期であるかも知れぬ訳だが。水母の傘に乗ってあちらこちら旅行というのも乙なものといったところか。 ただ、けしからぬ輩と顰蹙をかいがちなのは、海樽喰いの大樽回か。 さらに、この仲間とされる浜跳虫になると、事実上の陸上棲種。しかも、昆虫のバッタ顔負けの跳躍力を持っているから驚異的。もちろん、バッタとは違って脚力ではなく、蝦特有の背筋力で撥ねる能力を伸ばしたに過ぎないのではあるが。 と言っても、生活域は海だが、完璧な森林棲息種も存在するのである。ご発展なのだ。 [(参照) 笹子由希夫:「日本産ハマトビムシ科端脚類の分布と分子系統解析」三重大学大学院生物資源学研究科 平成23年] このように、結構ユニークな集団から形成されているので、どうしても分類は錯綜してくる。情報が増えれば組み換え必須な領域と見てよさそう。 節足動物 甲殻類 【軟甲】 《木葉蝦Phyllocarida》 《棘蝦Hoplocarida》 《真軟甲亜綱 Eumalacostraca》 {厚蝦Syncarida} {本蝦Eucarida} {嚢蝦Peracarida} ◆ : ◆等脚Isopoda ◆端脚Amphipoda (Sea flea) --Gammaridea -Hirondelleidae 〇Hirondellea 海溝大底蝦(gigas) -Synopiidae ○Synopia・・・フクスケヨコエビ 福助横蝦(ultramarina) -Epimeriidaeヨロイヨコエビ ○Epimeria 紅鎧横蝦(pelagica) (rubrieques)@南極 →[PHOTO] (C)IRSNB -Lysianassidaeフトヒゲソコエビ -Eusiridaeテンロウヨコエビ --Hyperiidea…サルパ,クラゲ寄生種多し -Hyperiidae ○Hyperia・・・クラゲノミ 水母蚤(galba) (macrocephala) ○Themisto 日本海蚤(japonica) (libellula)@北極海 ○Hyperoche 鋏海蚤(medusarum) -Cystisomatidae ○Cystisoma・・・フクロウミノミ -Phronimidae ○Phronima・・・タルマワシ (Ram bug amphipod) 大樽回(sedentaria) --Senticaudata(旧:Caprellidea) -Ampithoidaeヒゲナガヨコエビ ○Ampithoe・・・ヒゲナガヨコエビ 日本藻葉横蝦(lacertosa) ラモンド髭長(ramondi) -Anisogammaridaeキタヨコエビ ○Jasogammarus 大蝦夷横蝦(jesoensis) 北陸横蝦(hokurikuensis) 藤野横蝦(fujinoi)@山形 庄内横蝦(shonaiensis)@山形 帝横蝦(mikadoi)@東北地方 姫横蝦(paucisetulosus)@関東〜北 顎棘横蝦(spinopalpus)@関東平野湖沼 アナンデール横蝦(annandaiei)@琵琶湖 姫アナンデール横蝦(fluvialis)@東海地方 涸沼横蝦(hinumensis)@汽水域(涸沼, 宍道湖) 成田横蝦(naritai)@琵琶湖 諏訪横蝦(suwaensis)@諏訪湖 (fontanus)@中国陝西省 (hebeiensis)@中国河北省 (debilis)@中国黄山 (koreaensis)@韓国 -Mesogammaridaeナギサヨコエビ -Crangonyctidaeマミズヨコエビ - -Cyamidae ○Cyamus・・・クジラジラミ シアムス(balaenoptera) -Caprellidae ○Caprella・・・ワレカラ (Skeleton shrimp) 丸鰓割殻(acutifrons) 棘割殻(scaura) 大割殻(kroyeri) 岡田割殻(okadai)…ポピュラー 滑々割殻(goaba) -Caprogammaridaeヨコエビワレカラ ○Caprogammarus 横蝦割殻(gurjanove) ○Protomima 昔割殻(imitatrix) -Podoceridae ○Podocerus・・・ドロノミ 泥蚤(inconspicuus) -Dullichiidaeシャクトリドロノミ ○Dulichia・・・マストヨコエビ - -Corophiidae ○Corophium・・・ドロクダムシ 富岡泥管虫(lamellate) -Ischyroceridae ○Jassa・・・カマキリヨコエビ 蟷螂横蝦(falcata) -Maeridae 〇Elasmopus 磯横蝦(japonicus) -Melitidae ○Melita・・・メリタヨコエビ メリタ横蝦(koreana) 棘メリタ横蝦(dentata) -Talitridaeハマトビムシ (Sand hopper) ○Paciforchestia・・・ホソハマトビムシ ○Platorchestia・・・ニホンヒメハマトビムシ 日本姫浜跳虫(platensis) 〇Parorchestia …森林土壌棲 (Landhopper) -Hyalidae ○Hyale 藻屑横蝦(grandicornis) -Eophliantidae ○Ceinina 昆布ノ根喰虫(japinica) -Photidae ○Gammaropsis・・・ソコエビ 日本底蝦(japonica) ○Photis・・・クダオソコエビ 日本管尾底蝦(japonica) -Aoridaeユンボソコエビ ○・・・Grandidierellaドロソコエビ 日本泥底蝦(japonica) (旧ヨコエビGammaridea所属群) --Pseudingolfiellidea -Pseudingolfiellidae(旧 所属不明) --Colomastigidea -Colomastigidaeツツヨコエビ -Pagetinidae --Hyperiopsidea -Hyperiopsidae -Vitjazianidae --Amphilochidea -Amphilochidaeチビヨコエビ -Stegocephalidaeフクレソコエビ -Dexaminidaeエンマヨコエビ ○Polycheria・・・ホヤノカンノン 天草海鞘ノ観音(amakusaensis) 「動物」の目次へ>>> トップ頁へ>>> (C) 2018 RandDManagement.com |