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尾索動物の話  2018年4月10日

ハルトぼや の話

 珍味  味噌漬けの 逸品添えて おもてなし

海鞘は普通は刺身あるいは酢の物で食す。少しでも鮮度が落ちると臭みが出てしまい、全く別の食材になってしまうからだ。港だと焼くこともあるらしいが。
ところが、福岡では被嚢の味噌漬薄切りを祝膳の席に供するそうだ。勿論、三陸とは違う種。
  ハルト海鞘

驚くのは、皮(被嚢)を剥いて内側の肉質部位(筋膜)を取り出して食べるのではなく、棄てるものと思っていた被嚢の方を使うのだ。確かにこの種では、分厚いから使いたくはなるだろうが、セルロース分があるから堅そうだが。味噌漬にするとほぐれるということだろうか。
実際、玄界灘宗像鐘崎では正月を迎えるにあたって、「のうさば[干星鮫]+海鞘味噌漬け+栄螺麹漬」を用意したものだという。現在は、ホヤは高級食材になってしまい作られなくなっているらしいが。
[「これ、鐘崎の漁家のお雑煮です」むなかたタウンプレス平成28年12月15日]

ホホウ〜、流石、宗像の海人と考えてはいけない。弘前藩でも、琥珀漬け(「土佐日記」に登場するホヤの味噌漬のこと)が珍味だったからだ。["弘前藩よろず生活図鑑"@陸奥新報2009.12.03]

わざわざ被嚢の方を食す習慣は他の種でも見られる。


 皮を剥く 手間が嬉しい お酒好き

長径10cmにもなる楕円形の大型種。食べる部分は、皮の内側らしい。
  酢海鞘
名前が奇妙なのは、血管系の体液が硫酸だからである。そこだけとれば、食材に適しているようには思えないが。[小林佐太郎:「スボヤの體液特に血管系との関係」東北理科報告(函館高等水産)13, 1938]
天草地方では被嚢がぶ厚く堅牢な種を食用にしていたようだ。
  黒海鞘

九州だと、獲るのに適した時期は気温が高く、筋膜の生食に向かなかったのかも。


 海鞘食えば
 喉が鳴るなり
 ビアホール

マ、三陸の食文化ではあるものの、海鞘生食の定番はコレ。
  真海鞘
それにしても、英称は秀逸。
今でこそ、三陸の食べ物となっているが[→]、鎌倉時代後期の「厨事類記」に掲載されている貴族用饗膳図では、窪物(塩辛類)の一種として、"老海鼠 ホヤ"として記載されている。"海月"と隣り合わせであり両者は初献の定番品だったことがわかる。平安期から、海鼠類似の香気(オクタノール)が好まれていた故だろうし、その旨み成分(グリコーゲン)は牡蠣をしのぐから、藤の花を愛でながらの酒宴にはつきものだった可能性が高い。(尚、「延喜式」では三河産として登場しているとのこと。)

🍍 分からない パイナップルの 育ち方
北海道種も。
  赤海鞘
コレ、イケルという声多し。

白ワイン ホヤ酢があると 止まらない
夏の冷酒、冷えたビールに地場モノのホヤ刺は素敵だが、それは三陸ならではという訳ではない。
南欧(仏、伊、クロアチア、モンテネグロ、ギリシア)の港町では地中海の海の幸ということで、レモン絞り汁で生を食すことが楽しみだったようである。どうせ、北の人達にはわかるまいということで情報は限られているが。
呼び方は地域毎にちがう。
  "Figue de mer[Sea fig]"・・・仏
  "Limone di mare[Sea lemon]"・・・伊
  "Morsko jaje[Sea egg]"・・・クロアチア
  "Fouska[Bubble]"・・・ギリシア

漁民にとっては、他の魚介では得難い味ということで、旬を待ち望んでいたであろう。

 チリ鮑?
 いくらなんでも 違うダロ

チリでも海鞘は食用とか。
  "Piure"
スペイン語圏だが、現地英語では"Chilean abalone"と呼ぶらしいが、だからといって食指が動く代物という訳ではないと思う。
"Bizarre creature that looks like a rock, can breed with ITSELF and is considered a delicacy in Chile" By Victoria Woollaston Daily Mail 15 July 2013



 潰された 漁撈文化は 戻せない

定番の畜産物にパンという決まりきった食事を飽きずに毎日の人達には、海鮮食はハードルが高い。そんなこともあって、漁撈を好むアボリジニーがいたらしいが、その文化は消滅させられてしまったようである。
  "Cunjevoi"

海鞘食は、なんとなく、かなり違う食文化の話とみなしがちだが、漁民なら自分達のセンスでの美味しい食材には目がない訳で、獲りたて海鞘が該当する可能性は高い筈である。

ミ(Σ)彡 真っ黒で 無機質的でも 味絶品

"甘みがあって美味しかった"という声があがるほどの逸品あり。
  烏海鞘
"周防大島のホヤ"2014/7/19@鯛の里日記(沖家室島の民宿の日常)

ところが、食在広州も、流石に海鞘だけは食材化の工夫はしなかったようだ。
一方、朝鮮半島南端の島嶼域や港町では海鞘は海鮮鍋食材として使われている。


 鍋つつき
 エスニックムードに
 酔いしれて

使う種は真海鞘とはかなり異なり、柄と傘の茸形状で小さめ。
  白海鞘
  柄海鞘
Meongge(海鞘)の主産地は巨済島と宣伝されているが、観光用の喧伝では。その辺りの島嶼ならどこも同じだと思う。ただ、Mideoduk(柄海鞘)の方は古くから名産地があり、馬山が断トツ。カフェインゼロの代替茶が定着する風土だから、おそらく、旨みが出る茸の代替品として類似形状の海鮮が用いられたのだろう。
日本では、養殖漁業の有害種という声ばかりで、食用にしたとの話は耳にしない。出汁文化の有無の差だと思われる。
それに、船底に付着して各地に広がるタイプだから外来侵入種と認定されることになり、敵視される場合が多かろう。

【尾索動物/Urochordata or Tunicate
┼┼┼海鞘[ホヤ]Ascidians
┼┼┼《Stolidobranchia》
┼┼┼-Pyuridae
┼┼┼┼○Bathypera
┼┼┼┼┼(ovoida)
┼┼┼┼○Boltenia・・・クシエラボヤ類
┼┼┼┼┼南櫛鰓海鞘(transversaria)
┼┼┼┼○Culeolus・・・ツリガネボヤ類
┼┼┼┼┼釣鐘海鞘(herdmani)
┼┼┼┼○Hartmeyeria・・・ネズミボヤ類
┼┼┼┼┼鼠海鞘(orientalis)
┼┼┼┼○Herdmania・・・ベニボヤ類
┼┼┼┼┼紅海鞘/Herdman's sea squirt(momus)
┼┼┼┼○Microcosmus・・・ハルトボヤ類
┼┼┼┼┼ハルト海鞘(hartmeyeri)[食用:福岡/九州北部]
┼┼┼┼┼"Limone di mare"(sabatieri)@地中海[食用]
┼┼┼┼○Pyura・・・カラスボヤ類
┼┼┼┼┼烏海鞘/Elongated tunicate(vittata)[可食]
┼┼┼┼┼口紅海鞘/Elongated tunicate(elongata)
┼┼┼┼┼枕海鞘(mirabilis)
┼┼┼┼┼"Piure"(chilensis)@チリ[食用:"Chilean abalone"]
┼┼┼┼┼"Cunjevoi"(praeputiali, dalbyi, doppelgangera)
┼┼┼┼┼┼┼┼@豪州[旧食用-アボリジニー]
┼┼┼┼┼ミハエル海鞘(michaelseni)
┼┼┼┼○Halocynthia・・・マボヤ類
┼┼┼┼┼真海鞘/Sea pineapple#1(roretzi)[食用:三陸]
┼┼┼┼┼赤海鞘/Sea pineapple#2(aurantium)[食用:北海道]
┼┼┼┼┼[イガ]海鞘(hilgendorfi)
┼┼┼┼┼┼リッテル海鞘(変種)
┼┼┼┼┼[イガ]海鞘(igaguri)
┼┼┼┼┼Sea peach(papillosa)
┼┼┼-Styelidae
┼┼┼ {Styelinae}
┼┼┼┼○Cnemidocarpa・・・ホソスジボヤ類
┼┼┼┼┼白海鞘擬(irene)
┼┼┼┼┼蜜柑海鞘(pedata)
┼┼┼┼┼真桑海鞘(clara)
┼┼┼┼○Dendrodoa・・・ムラボヤ類
┼┼┼┼┼ムラ海鞘(aggregata)
┼┼┼┼○Polycarpa・・・クロボヤ類
┼┼┼┼┼黒海鞘(obscura)[食用:天草]
┼┼┼┼┼錦海鞘(aurata)
┼┼┼┼○Styela・・・シロボヤ類
┼┼┼┼┼白海鞘Pleated Sea Squirt(plicata)[食用:朝鮮]
┼┼┼┼┼柄海鞘/Stalked sea squirt(clava)[食用:朝鮮]
┼┼┼┼┼長柄海鞘(longipedata)
┼┼┼┼┼二筋海鞘(canopus)
┼┼┼┼┼Angular sea squirt(angularis)
┼┼┼┼┼Stalked tunicate(montereyensis)
┼┼┼┼┼(coriacea)
┼┼┼┼┼
┼┼┼《Phlebobranchia》
┼┼┼-CorellidaeCorellidae
┼┼┼┼○Corella・・・ドロボヤ類
┼┼┼┼┼泥海鞘(japonica)
┼┼┼┼┼Orange-tipped sea squirt(eumyota)
┼┼┼┼○Chelyosoma・・・カメノコボヤ類
┼┼┼┼┼酢海鞘(siboja)[食用:九州北部]
┼┼┼┼┼亀の子海鞘(sibogae)
┼┼┼┼┼北亀の子海鞘(yezoense)
┼┼┼┼○Rhodosoma・・・ガマグチボヤ類
┼┼┼┼┼蝦蟇口海鞘(turcicum)
┼┼┼┼┼

(参照)西村三郎[編]「原色検索日本海岸動物図鑑[U]」保育社, 1995
"FOOD:Tartuffe di mare"BLOG@notesfromdisgraceland 29. VIII 2017

(分類参照) ママでなく、素人が改編
JODC(日本海洋データセンター)GODAC/JAMSTEC


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