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節足動物
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■■■ 2018年1月31日 ■■■

蜘蛛族すごいゼ! …

蝉年(カマキリ先生の12虫歴)の正月、NHK for Schoolの再放送「香川照之の"昆虫すごいぜ!"」を一挙に視聴。(トノサマバッタ、モンシロチョウ、タガメ、オニヤンマ、マレーシア採集の5編)
現地でのご活躍や板書を用いたご講義からほとばしり出る、常軌を逸した大人としての"熱さ"と、スタジオでの冷静そのものの子供のスットンキョウなお言葉を十二分に堪能させて頂いた。

たまたま、節足動物甲殻類の解説を眺めていた最中だったので、大いなる刺激を頂戴した。(甲殻類は基本水棲で、その陸棲型が昆虫。)昆虫は、水中を除けば、世界の至る所に進出しており、その環境に応じて究極と言えるまで身体と技を磨いており、確かに"凄いゼ!"なのだ。

しかし、節足動物には、それ以上に"凄いゼ!"君が存在する。食シーンの常連たる甲殻類や、そこらで見かける昆虫とは違って、嫌う人がワンサカのクモ・ダニの類である。甲殻類に対応する用語で言えば鋏角類。
それに気付いたのは、甲殻類を眺め回してきたから。

そんな話をしてみよう。

ダニは別として、マニアや研究者を除けば、蜘蛛は軽視されがち。そこらでよく見かける生物であるのに、さっぱり関心が集まらない。せいぜいのところ、毒グモ渡来ニュースで一時大騒ぎする程度。
これは、「昆虫に似ているが、分類上は別なのだヨ。見ればわかるように、足の数が違うからネ。」と教わってきたことが大きいのではなかろうか。

一見、後者を教えている"科学教育"に思えるが、実は逆。前者を妥当な見方とし、学者の目だと両者を区別するのだ、という丸暗記推奨の論旨に近い。
いいがかりをつけているのではない。暗記苦手な人に尋ねればわかるが、クモは昆虫と思っている人だらけ。どうせ学者の話ということで、教わった後半の部分を忘れているのだ。

・・・実は、両者が似ているなど、笑止千万。今になって、それに、ようやく気付いたのである。香川照之タガメ捜査課長のお蔭でもある。

しかしながら、そうなるのも致し方ない。節足動物の全体分類は未だにナンダカネ状態だからだ。蜘蛛の仲間も同様にはっきりしていない領域が多い。
(その割に、解説は結構豊富である。但し、知りたいと思うとそれに関しては何も書いてなかったり、原始的との評価が定着しているのかと思えば、実は、一番進化しているとの見方が提起されていたりと、読むのにえらく骨が折れる。
言ってみれば、百花斉放大いに結構の世界ということ。つまり、昆虫と蜘蛛の違いも、肢の数以外、ズバッと書くことができないのだナと納得させられる訳だ。)


と言うことで、少々時代を遡って、どんな分類だったか思い出してみた。
マ。忘却のかなたなので間違っているかも知れぬが、節足動物とは、化石の三葉虫を除けば、3つに区分されていた筈。
 ・海蜘蛛
 ・蜘蛛
 ・蝦蟹+昆虫+百足/ヤスデ
(馬陸)
最後はごちゃまぜ集団だが、三葉虫と袂を分けて進化した群とされていたように思う。残りの海蜘蛛と蜘蛛は三葉虫の系譜に連なるといった解説。写真やスケッチを眺め、ふ〜ん、形状からいえばそんなものかと、なんとなく納得していたと思う。
ところが、実際はそう単純ではなかった模様。その後、紆余曲折あって、今に至っても様々な分岐説があるということだと思われる。

一方、分子生物学の節足動物分野での成果は目覚ましく、この分野でのハイライトが3つあり、ほぼ定説化してきたようだ。
 ・脱皮タイプが一群となっている。
 ・「甲殻類⇒昆虫[六脚類]」という流れで進化。
 ・「甲殻類+昆虫」と「多足類[百足/ヤスデ(馬陸)]」は遠縁。


そうなると、分岐図では以下のようになる。蜘蛛の仲間を「鋏角類」として一括し、これとは別な集団として、「蝦蟹+昆虫+百足/ヤスデ(馬陸)」を大括りして"大顎"と名付けた昔の見方が俄然輝いて見えてくるではないか。

そこで、「蜘蛛族すごいゼ!」と気付くことになる。
同時に、クモが嫌われるのもごもっとも、と。

これでは、ナンのコッチャっだろう。そのご説明の前に、分岐を見ておこう。・・・
┌───環神経タイプの動物群
┼┼┼線形,類線形;鰓曳,動吻,胴甲
脱皮型
│┌──有爪動物
└┤汎節足動物
│┌─緩歩動物
└┤Tactopoda
┼┼│┌[化石]<三葉虫類>
┼┼││
┼┼└┤狭義の節足動物
┼┼┼
┼┼[現生系]
┼┼┼├───→<鋏角類>
┼┼┼
┼┼┼│↓"大顎"セクター
┼┼┼
┼┼┼├───→<多足類>
┼┼┼
┼┼┼│↓<汎「甲殻」類>
┼┼┌┴┐
┼┼頭蝦,嚢胸,舌形,鰓尾,鬚蝦,貝形虫,姫宿蝦,蔓脚,「軟甲」
┼┼彫甲,鰓脚,橈脚,百足蝦
┼┼
┼┼
┼┼<六脚(昆虫等)類>

<大顎>という名称にピンとくるなら、おわかりだと思う。
節足動物とは体節毎に間接を持つ脚が一対ついており、それが決まった個数で連続すると同時に、脚が変異しているのが特徴。
甲殻類の場合、その脚が頭の先では触角になり、次が顎脚となり、胸肢が歩脚で、腹肢が遊泳脚になっていたりする。鰓は肢からでていたりする。
一方、蜘蛛は<鋏角類>と命名されているように、先頭の第一肢が触角ではなく、鋏角。つまり、無触角。(三葉虫には触角らしきものが存在する。)さらに、顎脚も無い。

このことは、食餌の仕方が根本的に違うことを意味しよう。蜘蛛は肉食とされているが、生身の肉やその変性身体である死肉は食べないことを意味する。
触角で餌を確認し、顎脚で口に餌を突っ込むような行為はできない訳で、食餌はもっぱら経口流動食。昆虫のタガメは注射針を餌に挿して液体化した肉汁を食べる訳だが、注射針を持たぬ蜘蛛も似たような食性ということ。消化の第一段階はすべて体外で行う訳である。
従って、蜘蛛の一大特徴は神経毒を注入する牙ということになろう。
タガメは消化酵素を餌の体内に注射器針で注入して、栄養液化して吸い取るのだと思うがそれとは違う。神経毒で餌が動けなくなると唾液を牙から餌の体内に入れ、口を吸いつけ啜りつづけるのだ。生かしたまま体内を崩壊させ、液状化した肉汁を頂戴するのである。従って、かなりの食餌時間を要することになろう。(餌を糸でグルグル巻きにして保管するのはその頃合いを見計らっているのかも。)考えるだに恐ろし気な習性である。

そして、環境と餌に合わせ、究極まで能力を研ぎ澄ませているように思われる。
例えば、トノサマバッタの桁違いの跳躍力は、所詮は逃げるためのもの。蜘蛛ももちろんその目的も兼ねてはいるものの、第一義的には餌に跳びかかるための機能。斜め上方にカタパルト的に跳び出し、翅を出して飛び去るのとは違う。横方向に狙った位置に正確に着地できるように素早く跳ぶのである。体操選手の能力を凌駕しているのは明らか。本気で横跳びすれば身体の数十倍は軽くいけるのではなかろうか。

身体にしても、昆虫のように3分割ではなく、前部と後部に別れているのも"凄いゼ!"。(触手と顎脚を必要としない単純な口器なので、頭部を独立させて、餌と環境に応じた大きな変異を図る気が全く無いのである。)
基本代謝機能はできる限り後部配置。(循環器、主消化器、生殖器、呼吸器)前部は餌捕獲と当座の栄養液確保に集中している訳だ。想像にすぎぬが、口腔に液体を一時貯留し、紛れ込んだ小さな塊を食道で弾き、胃に送り込む作業を繰り返すのでは。胃は消化作業はせず、液体を口から吸い込んだり押し出すポンプ役と違うか。一気に腹で消化できる訳がないから、付属の液体貯蔵嚢があっておかしくない。

ここまで合理的に配置してしまえば、脱皮がスムースにできるなら、昆虫のように体節構造を引きずる必要もなかろう。ただ、内臓的には体節構造を活かして、腹内には、腸に繋がる栄養液貯蔵用盲嚢がかつての体節数だけ持っている可能性はあろう。餌にありつけなくとも、長期間生存可能なのだから、この手の構造は不可欠だろう。(飛行機や船での大旅行渡来蜘蛛が多い由縁。)

そう考えると、"蜘蛛の糸"とは、不思議なものとは言いかねる。人間で言えば尿の排出に当たる機能でしかないからだ。
経口栄養液食なので、糞はたいした量にならないかもしれぬが、不要な窒素分は多量に生まれてしまう。水分維持を考えれば、固体排出が望ましい訳で、それを糸状にしたにすぎまい。その廃棄物を活用すべく、アイデアを煉ったのである。・・・"凄いゼ!"。
しかも、用途は捕獲網だけでなく、巣造り利用や、移動用縄と様々。圧巻は、パラグライダー的用途。無翅だが、空気の流れに乗って遠方に進出する方法まで編み出したのである。

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