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2003.10.4
 
 


短角牛肉の苦闘…

 豚肉の「国産」分類はそれなりに意味があったが、ほとんど機能不全なのが、牛肉の分類である。
 国産といっても、ピンからキリまでが含まれているからだ。ピンは「西の松坂、東の米沢」だが、キリは乳牛が産んだオス牛や廃乳牛だ。食肉牛以外の肉も「国産」表示で売られるのだから始末が悪い。
 意味の薄い表示だ。

 しかし、消費者の「国産は旨い」という思い込みは強いから、国産牛の競争力は強い。
 といっても、ウルグァイラウンド農業合意で、国内生産者は急激に高付加価値品シフトと経営規模拡大に動いた。
 お蔭で、店頭には美味しそうな国産牛肉が並ぶようになった。すべてが、霜降り志向である。「黒毛和牛」「肥後あか牛」といった霜降り品種全盛である。
 [筋肉内脂肪蓄積が多く、不規則な網目状に沈着している肉が霜降りだ。牛肉は、豚肉に比べれば筋繊維が硬いから、脂肪交雑(サシ)で柔らかくなる。これに油脂の旨みが加わるため、食べ易くなる。]

 しかし、油脂を多くすれば、下手をすればギトギト感がでる上、健康へのマイナスイメージもある。実際、霜降り肉は油脂の含有量は20%をはるかに越すが、赤身の米国牛は5%が切ることが多い。
 そこで、低脂肪な赤身中心の和牛の売り込みが図られている。
 岩手、青森、秋田、北海道を中心に飼育されている「短角和牛」である。

 穀物過多の餌から、米国同様の草飼育に転換ようとの試みである。
 しかし、飼料コストは多少下がるが、末端価格は黒毛和牛の半額以下である。これではとても戦いになるまい。

 どう見ても、市場は、赤身へ動いてはいないのである。
 草で肥育すると、どうしても、脂が黄色くなるし、肉色も黒ずむ。違いが見てわかるから、消費者は敬遠することになる。食べても、柔らかみやジューシー感は相当落ちる。食経験があっても、低品質な肉と考えてしまうらしい。
 こうした肉を美味しいと評価するのは、フランス料理のシェフ達や、肉素材そのものの香りや旨みを求める一部の人達だけのようだ。

 この状況を見て、霜降り嗜好は日本独特、と語る人も多い。

 牛乳にしても、日本では乳脂肪含量が3.5%以上ばかりだ。工業的に低脂肪化したミルクが登場するくらい、高い値だ。海外なら、3.5%といった高い値のミルクは滅多に見かけない。
 しかも、高額ミルクは、この値がさらに高い。
 日本はここでも独特といえる。

 確かに、特異だが、日本人だけが、脂を好むとは思えない。文化や官能上の特異性ではないような気がする。
 そうなると、日本の肉産業の特異性が原因である可能性が高い。
 日本における肉の歴史は短い。豚肉、牛肉、鶏肉市場が一気に急成長したため、生産側が当座作り上げた価値観が続いているのではなかろうか。

 生産者が考えた、肉のトレンドは、柔らかくてジューシー方向だった。霜降りこそ、この典型と言える。
 同時に、脂肪含量が高いものを、高品質と見なしてきた。このような生産者側の思想が、消費者の頭に埋め込まれているのではなかろうか。


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