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2004.1.29
 
 


廃れた特産茶の復興…

 北の愛媛県と、東の徳島県に接する、四国の嶺北地方にある、高知県大豊町は、特別天然記念物の大杉があることで有名だ。
 山の中にある町だが、「碁石茶」という幻の銘茶の産地としてもよく知られるようになった。
 但し、お茶の木が珍しいとか、この地域の気候に合わせた栽培でユニークな風味が生まれている産品ではない。独特の製法で知られているのだ。
 といっても、生産農家は一軒まで落ち込んだらしい。(今は復活途上らしいが。)
  (http://www.town.otoyo.kochi.jp/gakusyu01.html)

 このお茶が注目を浴びたのは、正真証明の発酵茶という点である。普通、発酵茶と呼ばれているのは、酵素でお茶が変化するだけにすぎないが、この茶だけは乳酸菌が関与した発酵で製造される。日本では、極めて珍しいタイプのお茶である。
  (http://www.city.kochi.kochi.jp/deeps/01/0104/rekishi/re0307.htm)
 
 珍品ではあるが、飲み続けたいと思うほどの味ではないらしい。だからこそ、廃れてきたのだと思われる。それでも生産者が残ってきたのは、このお茶の熱烈ユーザーが存在したからである。

 それが、香川県の塩飽諸島の一つ、志々島の人々である。「碁石茶」の茶粥を食す習慣が受け継がれているのだ。調味料なしで、米とサツマイモを入れてお茶で煮込んだ、シンプルな食事である。お茶の深い渋みを味わう訳だ。多少塩分を含んでいる井戸水には、最適なお茶なのであろう。
  (http://www.shikoku-np.co.jp/feature/nokoshitai/syoku/8/index.htm)

 こんなことが、すぐにわかる時代になったのも、インターネットのお蔭である。
 (もっとも、「碁石茶」で検索すると、同じような記述のウエブばかりで、見る気が失せるが。)

 これだけ関心を集めた理由は、言うまでも無く「乳酸発酵」の健康増進イメージである。TV放送の影響で、あっという間に、人気を博したのである。
 実際、「碁石茶商品は品薄のため当サイトからはご注文をうけつけできなくなりました。」という状態らしい。
  (http://www.daibikkuriichi.com/shop/yutorist/index.php?kaisyaid=9)

 30gで1000円という高額商品にもかかわらず、注文が殺到しているようだ。
  (http://www.green-shop.co.jp/go-tea/go-tea.htm)

 お蔭で、同じような乳酸発酵茶も関心を集めている。

 まずは、徳島県那賀郡相生町の「阿波番茶」だ。こちらは、徳島県で飲まれて続けているポピュラーな番茶である。酸味があり、さっぱりした風味らしい。
 オモトと茶を産出する農山村だが、この機を逃すまいと、農業振興に力を入れている。
  (http://www.toukei.maff.go.jp/shityoson/map2/36/364/)

 しかし、周桑郡小松町石鎚地区に伝わる「石鎚黒茶」は、一戸の農家が自家用茶として製造しているだけのようだ。そこで、町の特産を目指し町のグループ活動や、愛媛県技術センターでの活用検討が続いているようである。
  (http://www.pref.ehime.jp/noukei/gijutu/siken/dayori/dayori_12/matumoto/matumoto.htm)

 乳酸発酵茶は四国だけかと思うと間違いで、例外的だが、富山県下新川郡朝日町の「バタバタ茶」もその分類に当てはまるらしい。
 但し、このお茶は、特殊な茶せんでバタバタとかき混ぜ泡立てて飲む。抹茶型の楽しみである。
 ここでも、特産品としての育成を目指して、地元が活動しているようだ。
  (http://www.toukei.maff.go.jp/genti/2002_09/02_091_11.html)

 こうした流れを見ていると、廃れてきた伝統産品を、なんとかして魅力的な農産物品として再興させようと考えている人が多いことに気付く。
 確かに、「碁石茶」を見ると、「残り物には福」が成り立つように見える。
 頑張ればなんとかなる、という気になるのも無理はない。

 しかし、素晴らしい特性があるなら別だが、このようなブームは長続きするものではなかろう。廃れて来たのには、理由がある筈だ。その原因を取り除くことができないなら、単純な農産品振興策では、奏効するとは思えない。

 といって、農業振興を止めれば、博物館的に独特の産品を守るだけに落ち込んでしまう。事態は益々悪化するかもしれない。

 ということは、産品を売るのでなく、産品に係わる文化を売るビジネスを考えるしかあるまい。
 難しいが、この挑戦しか残っていないのではないだろうか。
 幸いなことに、今のうちなら、志々島の「碁石茶」茶粥が示しているように、まだ独特な文化が生き残っている。これこそ、金の卵だと思う。

 もっとも、どこにでもありそうなガラス細工講習会に、「バタバタ茶」の無料茶会を付け加えるような企画では、せっかくの価値が下がってしまう。
  (http://www.pref.toyama.jp/sections/1605/toyamagt/ni_1.html)

 貴重な文化を活かした事業化の知恵が求められているのだ。
 今、一番必要なのは、農産品振興の官庁支援ではなく、イノベーション創出に繋がる知恵である。


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