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2005.2.15
 
 


パスタは家庭料理だ…

 メニューを見ただけではレストランの料理の質や量はわからないが、価格付けやバラエティの特徴から、その方針は見えてくるものだ。
 ところが方針がよく読めない店に出くわした。
 アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ1皿がなんと2,000円近いのである。 

 こんな料理は作ろうという気になれば、だれにでも作れる。ありふれた材料だし、深鍋とフライパンさえあれば、特殊な道具や技術は全く不要である。ところが、この値段である。尋常ではない。

 ちなみに、家庭用レシピ例を示しておこう。尚、パスタとしては細目のスパゲッティを選び、最後に塩や胡椒を加えて自分流の味に調整する人が多いようだ。

  (1) 1人前の材料を揃える。
   ・乾燥パスタ-----------------100グラム前後
   ・塩(茹でるため)--------------少々(鍋の水量による)
   ・生の大蒜(aglio)--------------1片程度
   ・オリーブオイル(olio)----------約40ml
   ・乾燥赤唐辛子(peperoncino)----1本程度
   ・生のパセリ-----------------微量(その時の気分で加減)
  (2) 大きい深鍋にできるだけ多量の水を入れ、塩を加えて、沸騰させる。
  (3) 鷹の爪(乾燥赤唐辛子)1本の種を楊枝で取り除いて、キッチン鋏で輪切りにする。
  (4) パセリを微塵切りにする。
  (5) 芯の部分を除いた大蒜1片を薄くスライス切りする。
  (6) パスタを茹で始める。(キッチンタイマーON)
  (7) 厚手のフライパンにオイルと大蒜、鷹の爪を入れてから、極く弱火で暖め始め、徐々に香りをつける。
  (8) オイルに香りがつき、大蒜が色付いてきたら、火を止める。(油はね火傷防止)
    即座に、オイルより若干少なめの量の茹で汁をスプーンで注ぎ込む。
    そして、フライパンをゆすりながら、ヘラで素早く攪拌する。
  (9) パセリを振りかけ、茹であがったパスタを入れて一気に絡める。(茹で加減確認は必須)
  ・・・もちろん、すぐに皿に盛り付けて、食べ始める。

 思わず、“店に負けない皿を家で拵(こしら)えよう”(1)と言いたくなる単純極まりない料理である。
 それでも面倒なことは間違いないから、外で食べる人も多いだろう。なにせ、スタンドでなく、ゆったり腰掛けて、ウエイトレスにサービスしてもらっても、290円(税込304円)で食べられる料理なのである。(2)

 もちろん、キャベツとアンチョビのスパゲッティが看板料理化している人気のお店(3)もあるから、高額な家庭料理系パスタが珍しいとは言えない。

 メニューで驚いたのは、パスタ価格そのものではない。フォアグラのソテーが同じような値段だったからである。

 こちらも、よく考えれば、冷凍フォアグラを解凍して、ソテーするだけかもしれない。従って、家庭でも作れないことはない。と言っても、スーパーでは見かけないし、材料自体が高価であるから、家庭料理としては現実性に乏しい。

 分量が違うにしても、こんなに違うタイプの料理がほぼ同価格というのは、いかにも不可思議な感じがする。この店では、皿の内容ではなく、皿の提供の仕方に価値があるのかもしれない。
 手間を考えれば、どちらにしても、たいしてかわらぬということだろう。

 レストランもついにここまで来たか、という感じがした。
 美味しさを追求する余地が見つからなくなっているのだろう。

 流通技術が進歩したお陰で、今や、美味しそうな食材は何時どこからでも調達できる。そのため、旬の地物の特徴を生かした料理が消えたのである。工夫できる余地が少なくなってしまったとも言えよう。
 そのため、食そのものではなく、調度や部屋の印象、サービスする人々が醸し出す雰囲気、といった食に直接関係ない部分でお客様を満足させようという訳だ。

 よく考えると、それも無理からぬ点がある。
 レトルトのパスタソースの種類たるや凄まじいものがあるからだ。

 ここまで競争が熾烈化すると、生半可なレストラン料理より、レトルトの方が美味しい可能性もある。
 (業務用レトルトの普及を、一般消費者の目から眺めている感想に過ぎないが。)

 実際、ディチェコのNo.11(最安値は3個\398)で、販売価格\200以下のレトルトを300種類以上食べ比べた方がいる。(4)
 (実は、正直なところ、余りに種類が多くて、眺めているだけで食べた気になって食傷気味になってしまった。「3★」評価品を見る限り、企業間格差より、製品差が大きいようだ。)

 これだけ食べても飽きがこないのである。
 評価者の多大な努力もあるだろうが、不味ければ趣味でとてもここまではできまい。
 食品企業のソース作りこみが相当進んでいると解釈してよいと思う。(5)

 要するに、茹で加減を間違えない限り、パスタ家庭料理は、店に負けないくらい美味しいのである。

 --- 参照 ---
(1) 木暮修著「家で作れないものは外で食べて、店に負けない皿を家で拵えよう」 平凡社 2003年
(2) http://www.saizeriya.co.jp/menu/grand/pasta.html
(3) http://www.a-c-c-i.com/member/ono/danoi.html
(4) http://www.h6.dion.ne.jp/~keine/pasta/
(5) 尤も、絡めるだけで済むアーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ・ソースだけは注力しても人気がでないようだ。


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