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2005.4.5
 
 


大阪の食を考える…

 ゴールデンウイークに食博覧会・大阪が開催される。(1)
 1985年から、4年に一度開催されており、今回が5回目である。東京に住んでおり行ったことがないので、感覚が湧かないが、入場者は60万人を越すと見込まれているから、相当な規模である。

 万博の成功以来、大阪はイベントを多発している感じがする。
 そう簡単に人が集まる時代ではないから、準備も大変だろう。

 とはいえ、「くいだおれ・大阪」だから、外れることは無いのだろう。しかし、逆に、このことで過去のイメージに寄りかかりすぎる危険性はある。とりあえずイベントだけは成功ということになりかねない。

 何故そう思うかといえば、くいだおれと言っても、家業を賭けて食に入れ込んだ話は聞けないし、新しい食文化を生み出す動きが活発とも思えないからだ。

 昔は、そうではなかった。大阪こそ食文化の発信地だと聞かされると、それなりの納得感があった。

 誰でもわかる、実例が示せたからだ。

 「昭和3年、先代・薩摩平太郎が考案した『うどんすき(R)』」で有名なのが、「美々卯」(平野町)(2)

 「牛肉専門店として営業し、昭和27年先代店主三宅忠一により ”しゃぶしゃぶ” を考案」したのがスエヒロ(曽根崎新地)(3)

 「とれとれ、ぴちぴち、かに料理」 のスローガンと、動く蟹の巨大看板で誰でも知る店「かに道楽」(道頓堀)(4)。「かにすき」なる食べ方を始めたと言われている。

 なかでも、驚くのが、食堂園(千日前)(5)の話。
 「いい焼肉店は、焼いた後タレをつけて食べます。いい焼肉店は、煙が出ません。」「このシステムを最初に考えたのは、食道園です。」
 焼肉屋の仕組みとは韓国文化の輸入ではなく、大阪発だったとは。

 しかし、最近の大阪には、どうもこのような迫力が感じられない。
 どこか歯車が噛み合わなくなっているのではなかろうか。

 歴史はあるし、独自の文化を展開することに強いこだわりを持つ社会なのだから、もっと主張すればよいと思う。
 IWC総会で鯨料理パーティーを開催する女将(6)がいる社会なのだから、難しいことではなかろう。

 と言っても、甘味処で黒蜜がかかっているトコロテンを出したり、やきそば定食(焼ソバ+ご飯+味噌汁)をメニューに並べる喫茶店といった大阪文化を売り込んでも徒労に終わろう。

 重要なのは、食の底流に流れる「思想」を伝えることである。

 東京では、昔から、B級グルメの、うどん、お好みやき、たこ焼きを見て、大阪人は安価な小麦粉バラエティ料理好きと見る人が多かった。下手をすると、これが大阪食文化の本質と解釈されるのである。
 先ずは、この見方を変えさせる必要があろう。

 東京より歴史がある社会が、単なる安物追求食文化を続けててきた筈がなかろう。
 東京より物価全般が低いのに、食パンの価格は高いと言われているほど、食にこだわる地域である。
 大阪は、本質を噛み砕いて伝える努力を怠っているのではないかと思う。お堅い説明を嫌う風土があるのかもしれないが、「まいど」と「さよか」型のコミュニケーションでは良さはなかなか伝わらない。

 例えば、こういうことではないか。素人が勝手に書き下してみよう。

 “うどんの決め手は出汁。後はお好み。”
 今や、うどんといえば讃岐である。すぐにわかる麺の腰と、地粉の香りのイメージで惹き付けたのだ。生醤油だけでも美味しいと主張している訳だ。

 “お好みやきとは個人注文に応じる特製品。”
 結構、これが殺し文句になるのではないか。十人十色の食を実現した点を伝えないと、誰もたいした食と思うまい。
 浸透してきた大阪のお好み焼きだが、ソースが決め手ということで、最近は広島焼に人気を奪われている感じがする。

 こうしたことはB級に限らない感じがする。

 懐石はやはり京都、という印象がある。割烹でも、様々な挑戦を繰り広げている東京のお店が目立つ。そして、各地方は独自の食文化を伝えようと、熱心である。
 誰でもが、「ふく」は下関、と言う。本当かね。

 大阪の印象は薄くなりつつあるのが実態ではなかろうか。

 少し前は、大阪は関空を活用してアジアのハブ化を目指すと語っていた。それなら、アジアの食文化で動けばよかったのではないか。
 英国のティーとは本質的に違う、大阪の喫茶店文化“チャイ”を広げることもできた筈だ。

 ・・・どうして、今まで培ってきた文化をウリにしようとしないのか、さっぱり合点がいかないのである。

 21世紀はイノベーションの時代である。勝ち組になれるのは、おそらく“思想のイノベーション”を実現した人達である。
 それは、独自の文化基盤を持たない限り難しい。大阪に、チャンスが巡ってきたと思うのだが。

 --- 参照 ---
(1) http://www.shokuhaku.gr.jp/nani.html
(2) http://www.mimiu.co.jp/mimiu/menu/udonski.html
(3) http://www.e-suehiro.com/rekisi.html
(4) http://www.douraku.co.jp/kansai/menu/honten/nabe.html
(5) http://www.syokudoen.co.jp/den/index.html
(6) http://www.tokuya.jp/okami.html
(全般) 吉本俊二著「大阪的基準」東洋経済新報社 2001年


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