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2005.9.26
 
 


茘枝に想う…

 晩夏になると、生ライチ(茘枝)をさっぱり見かけなくなる。さびしい限りである。
 検疫の仕組みが効率化され、農薬規制の厳格化さえできれば、大量輸入可能な果実だと思うが、動きは鈍い。

 しかし、冷凍ものはごく当たり前に出回るようになった。
 品質バラツキが激しいのが問題ではあるが、ライチ好きには有難いことである。

 ところで、茘枝といえば、どうしても楊貴妃を想い起こしてしまう。

 玄宗皇帝は楊貴妃のために、長安まで早馬で夜を徹して運ばせたという話は余りに有名である。

 唐代の詩人杜牧が、二人が過ごした華清宮の地を訪れ、七言絶句「過華清宮」を詠っている。(1)
         長安回望繍成堆,
         山頂千門次第開。
         一騎紅塵妃子笑,
         無人知是茘枝來。

 楊貴妃が嬉しがる様子を彷彿させる、よくできた絶句である。注釈無しでもよくわかる。

 ライチは獲れる場所と時期が限られている上、数日で痛んでしまう果物なので、こんなことがおこったわけだ。
 そのため、昔は高級品だった。流石、楊貴妃ということになる。

 しかし、冷凍化できるようになってその状況は変わる。
 と言うより、中国政府の開放政策のお陰である。比較的裕福である、福建・広東の農家が大増産に励んだのだ。高価な果物ということで、一気に果実畑に投資したのである。

 そのため、今では、世界のライチ市場は中国産一色だ。

 もちろん、過剰生産だから底値状態。

 しかも、売れ残っても、冷凍や缶詰にして大量販売できる状況ではない。おそらく、低品質と見なされたライチは、ほとんどが捨てられているに違いない。もったいないが、致し方ない。
 先物市場でも育てていれば多少はバッファーになったかもしれないが、儲かると聞けばすぐに投資する体質だからどうしようもない。
 農家はたまったものではないだろうが、商業資本的な経営が普通だから、それほど不満が溜まらないのかもしれない。

 先進国で消費が増えない限り、過剰生産状態はこの先も続くと思われる。
 なにせ、ライチの木の寿命は100年以上あるからだ。

 捨てる位なら、ジュースにしたらよさそうに思うが、昔はライチジュースを飲んでいた人も、今では清涼飲料の方を好むため、人気がないらしい。
 お陰で、ライチ市場の拡大に力が入る。

 特に盛んなのが、ライチ酒製造のようだ。果汁に水と糖を加えて発酵させる酒造りだと思われるが、およそ14度だから果実ワインと言えそうだ。
 日本の店頭には、様々な“茘枝酒”が並んでいるが、不思議なことにそれほど安価ではない。
 いつまでも価格が崩れないところを見ると、結構人気があるということだろうか。

 と言っても、ライチ酒人気を生み出したのは、中国産“茘枝酒”ではない。

 中国への関心が高まったことに目をつけて、ホワイトリカー化とフルーツフレーバーの多様化の流れに乗るべく、フランスの企業が人工的にブームを作ったのである。

 商品名は、もちろん“茘枝酒”ではなく、“SOHO”[日本市場は“DITA”] 。24度のリキュールである。ネーミングが単純明快だから、解説なしで対象層がわかる。
 1989年にバーやディスコ向けに出荷され、流行ったので、1991年から大々的に一般消費者ルートの販売を始めたようだ。(2)
 欧州の流行が、すぐに他の地域に伝播したのである。市場のグローバル化が進んでいることがよくわかる例である。

 リキュールだから、銘柄は好き好きとはいえ、あっという間に競合商品が揃った。
 ちょっと名称を並べてみるだけで10種類を越える。一般名称もあるから、様々な製品が流通しているのかもしれない。

   BOLS LYCHEE
   CREME DE LYCEE
   DITA
   KWAIFEH LYCEE (20度)
   LIQUEUR DE LYCEE
   LYCEE AU COGNAC FRANCOIS PEYROT
   LYCEE DREAM
   LY SHAN[喜壽] (薔薇の香り)
   PARAISO
   SUNTORY LITCHI
   SATHENAY LYCEE
   YACHTING LITCHI'S

 LITCHIという名称は米国タイプ、LYCEEは欧州タイプだから、欧州主導の文化であることが一目瞭然である。

 良く知られていることだが、地場農産製品の保護を基本政策としているEUは、リキュールでも“Creme de 果物 de 原産地”型の商品を支援しているが、消費者は伝統の地場品から離れつつある。新参者の方が余程愉しいのである。

 要するに、モノ余り社会では、新しい嬉しさを生み出すスキルが重要なのである。
 伝統を単純に尊ぶ時代は終わった。ファッショナブルでない伝統製品は衰退せざるを得ないのである。

 話はとぶが、この観点では日本は異常な方向に進んでいる。

 高価につく原料をわざわざ使って、膨大な労力をかけた開発を行い、ビールの代替商品を作ったりする。税制が歪んでいるため、原価が高くても、売価が安くなるからだ。売れ行き好調だが、こんな不毛な開発競争を続けさせる政治が何時までも続いている。

 --- 参照 ---
(1) http://www.dxgzs.com/sc18mj/sdm.htm
(2) http://www.pernod.fr/animer/gamme/liqueurs.htm
  http://www.dita.jp/about/story.html


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