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2006.6.1
 
 


グルメ記事の影響度…

 先日、人通りが少ない道を話ながら歩いていたら、突然小雨にみまわれたので、横手のビルの庇の下に入った。たまたま、地下の居酒屋につながる階段があり、話途中だったので、ここで一休みすることになった。

 時間は早かったのだが、先客で3分の1ほどが埋まっていた。お客さんは、きちんとした身なりのサラリーマン集団と、若い女性のグループだけ。
 居酒屋だが、古材などを使っている上、部屋ほどではないが仕切りもついていて、それなりの雰囲気がでている。
 おそらく好調な店の部類だろう。

 メニューを見ると、結構手がかかっているものや、気が利いたものが並ぶ。安くはないが、高くもない。
 たいしたものは注文しなかったが、接客は悪くない。
 ところがである。
 付き出し、煮物、汁物、どれをとっても、見かけは綺麗で楽しいのだが、ちっとも美味しくない。

 他のお客さんは満足しているようだが。

 う〜む。

 店を出るとき、一枚の紙が貼ってあるのに気付いた。他店の紹介である。
 そこには、見覚えのある店の名前。

 一ヶ月も前だろうか、小道を散歩していてお昼になったので、ぷらっと入った店だ。当然ながら、大衆食堂である。
 ただ、見かけは一般住宅風であるから、お洒落なお店ということにはなろう。
 何故このお店に入ったかといえば、前日、列車のなかで暇なので、週刊誌を読んだら、このお店が取り上げられていたからである。

 記事によると、この店のウリは、メニューを絞り込んで、徹底的に材料にこだわること。
 それはそうだろう。大衆食で、技術を競ったところで、たいした差はつかないからだ。
 材料にこだわる店は別に珍しくないが、ここは、他の店では手に入らない材料も提供できるので、記事になったようである。

 せっかくだからと、同行者はこの逸品食材モノを食べた。一方、小生は、一般食材モノ。
 ところが、残念ながら、逸品食材モノの感想は芳しくない。これなら、街の真面目に料理している食堂で結構、との評価である。雑誌の記事とは正反対だった。
 それ以後、一度も入ったことはない。

 そうか、この居酒屋も、あの大衆食堂と同じ経営だ、と合点がいった訳である。

 長々と書いたが、要は、雑誌の威力が大きいということ。
 行ってみたいとの衝動をおこすだけでなく、解説を読んでいると、美味しく感じる人が多いのだから、たいした影響力である。

 そんなこともあり、「ヒットの極意は雑誌掲載」と、宣伝に力を入れている店が益々増えているそうだ。
 それも、料金を払わず、無料の記事として掲載してもらうことに大きな意味があるという。しかし、そのためには、広告料以上に出費は嵩むらしいが。

 ライターの世界は狭いそうで、なりたい人は多いらしいが、簡単ではないのだと。この業界で食べていくには、それなりの道があるのだ。従って、この世界で通用する心の機微を知っていると、記事にしてもらえる確率は極めて高くなるのだという。
 そして、上首尾に記事にしてもらったら、マスコミの階層構造に合わせて、しかるべき人を呼んだり、パーティ招待などを組み合わせて、露出拡大を図るという。

 単純に見えるが、最初に記事にしてもらう雑誌の選定だけでも、簡単ではないらしい。

 素人は、グルメ情報は、新聞やテレビから雑誌に流れるものと勘違いし易いが、逆なのだ。だからこそ、最初の発信が肝要なのである。
 新聞やテレビは、先ず、雑誌の情報をあたり、全体像をつかんでから、どう報道するか決めるという。従って、的確に雑誌を選定して記事にしておくと、情報の流れから、自然に有名になれるのだそうだ。

 今や、どんな点をウリにすれば、ライターが喜ぶかなど、レストラン屋には常識だという。

 なるほど。
 面白いから、なにが常識か、さらに聞いてみた。

 先ずは、写真映りが良い料理と、居心地のよさそうな雰囲気は必須。
 東京では、グルメ専門のカメラマンがいるし、ライターとは仲が良いから、カメラマンに嫌われたらお終い。

 その上で、嬉しくなる接客の仕方や、食材の特殊性が重要である。ライターに使い易い材料を提供するのである。皆、多忙だから、すぐに書けそうな素材を用意しておくのだ。

 ここまでは、最低条件。
 シェフか経営者が、食に対する独特な考え方を思いを語ることが重要である。この時、この世界に知り合いがあり、交流していることを匂わすことを忘れてはいけない。取材側は安心して、それなりの「文化」的な装いができるから大喜びする訳だ。
 こうして、狭い社会の仲間入りをすることが第一歩となる。

 さらに、二歩目の話が続くのだが、それは止めておこう。

 もっとも、これは東京だけで通用する話らしい。食道楽の大阪は、全く違うという。
 定評あるグルメ雑誌(1)での評価に注意を要すらしい。大御所体制なのだろうか。

 こんな話を聞いていると、食文化発信者というより、経営の技巧に走っているレストランが増えているようだ。

 経営の技巧は、それはそれなりに重要ではあるが、土台になる思想を欠くと、そのうち、その薄っぺらさを見抜かれ、人気を失うことになるのではなかろうか。

 と言っても、独自思想だからといって、人気が集まるとも思えない。程度問題である。

 ニューヨークには「Quintessence」という有名店があるそうだ。ここはグルメのオアシスと称しているが、その材料は “the most rare and exotic ingredients found on earth”。(2)
 100%有機栽培品の「レア」料理が食べられる店なのだ。「レア」と言っても、ステーキの焼き加減の用語と違い、純生食という意味。珍しいから、日本にいても、このレストランの話は耳にする。メディアのお蔭である。
 米国のレストランだから流石に飛行機に乗って食べに行こうとは思わないが、たとえ、日本にあっても、文化が違いすぎて、ちょっと触手が伸びない。あまりに前衛すぎるからだ。

 --- 参照 ---
(1) http://www.amakara.net/home/
(2) http://www.raw-q.com/


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