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2007.5.23
 
 


日仏魚料理の違い…

 寿司が世界的に流行してずいぶんたつが、一過性ではなく、定着したようで、今や、ビジネスマンのチョイスの一つとなっている。
 その気持ちはよくわかる。

 食材が多岐に渡るから、食材の話題で盛り上がり愉しいという話ではない。ワインとフレンチのビジネスランチなどとっていれば、時間ばかりかかる上に、後の体調にえらく差し障るので、軽い食事への流れがあり、これに乗ったのである。
 そのなかでも、寿司食は、胃の軽さを実感できる。
 一度始めたら、止められなくなるのも当然。

 オッ、日本食は結構いいじゃないか、と感じている人は多い筈。
 もっとも、だからといって、懐石に手を出すという訳ではない。こちらは、たいていの人は、チマチマした前菜のような皿ばかりで、味も薄く、好きになれないことに変わりはない。
 新しい流れが見られるのは、魚料理の考え方である。

 フレンチでは、魚料理というと、ほとんどの場合、先ずは、sole(舌平目)かbar(スズキ)が登場するが、この発想が変わり始めたのである。

 世界的に著名な和久田哲也シェフの超人気レストラン、TETSUYA'Sのメニューが与えた影響である。
 TETSUYA'Sの看板料理は、“Confit of Petuna Tasmanian Ocean Trout with Konbu, Daikon & Fennel Seasonal Green Salad”。(1) [オーシャン・トラウトのコンフィ, 昆布・大根, ういきょうのサラダ添え]
 他の皿は毎月変わるようだが、これだけは別扱い。

 常識では、鱒(オーシャン・トラウト)は鮭(アトランティック・サーモン)の代用品。その鱒をわざわざ用いた料理である。実は、ここがミソ。食べ方を工夫すれば、鮭よりずっと美味しいからだ。
 “超低温で魚の身に火を通し、「生であって生でない触感」を生むにはオーシャン・トラウトが一番”(2)なのだ。
 いかにも、素材に合わせた調理と生鮮感溢れる香りの組み合わせ。これが魅力の素。
 シドニー近辺に留まらず、世界の目を惹き付けたのは、すべてが、意外とシンプルな料理(3)だった点と言われている。素材を生かす日本料理の考え方が、欧米のプロフェッショナルには新鮮に映ったのである。

 今迄、日本料理で注目されていた点と言えば、面白い調理パフォーマンス、珍しい食材や魚肉の生食というもの。表面的であり、決して、日本の魚料理の本質を伝えることはできなかった。それが、フレンチを通して、その本質を伝えたと言えそうである。画期的なことだと思う。

 伝統的なフレンチ魚介料理観では、平目(Turbot) オヒョウ(Helbut)(Cabillaud)も、単なる白身魚でしかなく、それぞれの素材の特徴を生かした調理を目指すとの発想にはならない。
 調理と言えば、ムニエル(Meuniere)、グリル(Grille)、ポワレ(Poele)、カツ(Cotelette)、グラタン(Coquilles)、テリーヌ(Terrine)と、どれをとっても素材の差を感じさせると言うより、料理人の味付けでの違いが勝負。
 スモークサーモン(Saumon fume)、 アンチョビ(Anchois)、 塩漬けニシン(Hareng salse)といった独 特な素材は別だが、素材に合わせた調理を追及しないことが特徴と言えそうだ。
 もちろん、南蛮漬のように、素材感を大切にしないものもあるが、おそらくこれは調理が難しい小魚を使おうということ。エスカベーシュ(Escabeche)とは考え方が違う気がする。

 日本の魚料理は、簡単なものでも、その種類たるや相当な数にのぼる。(4)魚の種類毎に、様々な食べ方や味付けの方法が用意されるからだ。
 従って、殊勝にも、魚料理の基本を習おうと考えると、大変である。
 魚ごとに処理の仕方も色々。美味しく食べようと思うなら、結構、細かい処理に慣れる必要があるのだ。(5)
 丸のままや、ぶつ切り、といった手をかけないものならよいが、3枚おろし、5枚おろし、手開き、刺身、たたき、吊るし切り、と魚に合わせた技法の取得が要求される。
 そうして準備した材料を、さらに、茹でる、煮る、蒸す、焼く、といった様々な調理法で料理することになる。
 もちろん、鮮魚だけでなく、干物や漬物にした食べ方もある。

 こんなバラエティに富んだ食文化は世界的にも珍しいようだ。
 廃れないようにしたいものである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.tetsuyas.com/page/menu.html
(2) http://aussie.australia.jp/blog/blog_writer.php?writer_id=57 (3) “TETSUYA” Harper Collins 2000年 [邦訳有]
(4) (社)大日本水産会おさかな普及協議会「お手軽料理」
  http://www.google.com/Top/World/Japanese/%E5%AE%B6%E5%BA%AD/%E6%96%99%E7%90%86/%E9%A3%9F%E6%9D%90%
  E3%83%BB%E7%9F%A5%E8%AD%98/%E9%AD%9A%E4%BB%8B%E9%A1%9E/
(5) 築地場外市場商店街振興組合「月刊料理帖 和の魚料理:基本」
  http://www.tsukiji.or.jp/ryori/ryori.html
(イラスト) (C) SweetRoom http://www.hisaz.com/sweet


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