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2007.10.2
 
 


韮の話…

伎波都久の岡のくくみら我れ摘めど籠にも満たなふ背なと摘まさね [万葉集 14−3444]
   伎波都久(茨城県真壁郡の地名)の丘のくくらみ(茎韮:ニラ)を、私が摘んでも、なかなか籠いっぱいにならないわ。
それなら、あなたのいい人と一緒に摘みなさいな。(1)

 韮は、中華料理食材という印象が強いが、伝統的な野菜である。
 臭いがキツイから、純和食にはほとんど使われないため、そんな雰囲気は感じないが、大昔からお粥に入れて食されてきたのは間違いなかろう。
 白米を思う存分食べられるなど夢だった時代では当然の話だ。

 東京近辺でも、甲州韮崎、伊豆韮山などという地名がある位だから、昔から、生育環境が合う土地が多かったようである。
 現在のニラ産地としては、高知県(2)が有名らしいが、競争は激化しているようだ。
 最上地方のブランド野菜「達者de菜」(3)のように、力をつけてきたものがでてきたからである。

 ただ、どの地域も栽培品種はほとんど変わらないようだ。どこを見ても、「パワフルグリーンベルト(4)」、「ミラクルグリーンベルト」、 「スーパーグリーンベルト」、「ワンダーグリーンベルト」といった、幅が広くて厚いグリーンベルト系の全盛。
 欧米では、ほとんどニラは栽培されていないというのに、どうしてこんな命名にしたのか、その気持ちがよくわからないが、栽培農家の琴線に触れる言葉なのだろう。

 ニラが古い野菜であるのは、自生していたりのを見かけることからも想像がつく。
 も  っとも、よく見ると、それはニラではなく、ノビル(野蒜)だったりするが。
 ニラは、家庭菜園跡だった場所とか、農家の庭で勝手に繁殖していることが多いようである。
 素人には、形状ではすぐに見分けがつかないが、葉の根元をちぎって、臭いを嗅げば、ノビルは葱臭がするので判別可能である。
 ただ、植物に無関心の人になると、これは韮臭も葱臭も無いと、とんでもないことを言う人もいたりする。それは間違いなく水仙だ。確かに、葉の形状が似ていると言えなくもないが、もしも、こんなものを食べたら、おそらく下痢では済むまい。
 それにしても、農家の人は、何故、畑の隅や道端に、水仙を植えるのだろうか。
 ともあれ、素人は、野草取りに手を出すべきではない。

 言うまでもなく、ノビルも、ニラ同様、古代からの土着の野菜である。なにせ、酢味噌和えのノビルと、鯛で食べたいというのである。
  醤酢に蒜搗きかてて鯛願ふ我れにな見えそ水葱の羹 [万葉集 16-3829]

 この気持ちはよくわかる。ノビルで一杯は、なかなかのものだからである。

 --- 参照 ---
(1) http://www.h3.dion.ne.jp/~urutora/m3444.htm
(2) http://www.pref.kochi.jp/~engei/hyakusai/ninki/6.htm
(3) http://www.pref.yamagata.jp/ou/sogoshicho/mogami/314041/publicfolder200612279137505379/publicdocument200612283585694460.html
(4) http://www.musaseed.co.jp/sec02/thd01/fou20_leek/leek_powerfulgb.htm
(万葉集) http://etext.lib.virginia.edu/japanese/manyoshu/AnoMany.html
(韮のイラスト) (C) Hitoshi Nomura “NOM's FOODS iLLUSTRATED” http://homepage1.nifty.com/NOM/index.htm


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