↑ トップ頁へ

2007.10.9
 
 


山葵の話…

彼の人の ツウンと鼻を 掠めゆく  尤 [ハイクブログ]  山葵美味!

 ワサビは純然たる日本独自の香辛料。
 山葵専用の卸し道具を用いて、その場で生の薬味をつくる食習慣は日本位ではないか。
 面倒だが、美味しいから、そのうち、世界に広がるのではないかと見ているのだが。

 古くから使われてきたと言われているが、昔は使い方が違っていたようである。
 室町時代の公家料理書、「四条流包丁書」に、鯉は山葵酢、鯛は生姜酢、鱸は蓼酢、鱶は芥子酢と記載されているという。(1)
 上品さと、衛生問題を考えると、そんなものかも知れないという感じはする。

 商人階級がおおっぴらに山葵を食べられるようになったのは、江戸時代になってからのようだ。
 “文化のはじめころ 深川六軒ぼりに 松がすし出きて 世上すしの風一変(1929年「嬉遊笑覧」)”し、うたになっているそうだ。(2)
 “伊豆わさび 隠しに入れて 人までも 泣かす安宅の 丸漬のすし”
 要するに、贅沢品の山葵を使ったのである。ちなみに、この「松がすし」に対抗したのが、、甘味で差別化を図った「与兵衛すし」らしい。おそらく、こちらの方が山葵味が引き立ったに違いない。
 よく知られるように、その後、贅沢は不許可になるが、一度覚えた味は消えないということ。

 もっとも、それは、安価なホースラディッシュを使った“粉わさび”が登場したからである。
 しかし、生山葵の美味しさは知ってしまえば忘れることはあるまい。
 もう少し、気軽に買える価格になればよいのだが。
 などと思って、ウエブを見ていたら、山葵業界も、変化の波に洗われているようだ。

 山葵は冷たい水が一年中流れる、根が張れる場所での栽培が最適というのは、皆ご存知。
 しかし、それは過酷な労働を意味している。奥多摩の狭い谷間の山葵田など、運搬だけでも大仕事の筈。
 狭い傾斜地に石垣を組んで、多少の平地を作り、おそらく粘土層を作ってから、石や砂を敷いたもの。そこに冷水を供給するのである。機械化環境とは程遠い。メインテナンスはさぞかし大変だと思う。
 おそらく、有名な、島根西部・山口辺りになると、渓流利用だろうから、さらに重労働かも知れない。“400年17代にわたりわさび田を守り続けてきた”(3)という農家のように、情熱がなければ、とても山葵作りなどできそうにない。(4)
 天城・湯ヶ島の名物ワサビ田は、「畳石」栽培方式と言われるが、要するに、山にプール状の田を作り、湧水を循環させているということだろう。場所が場所だけに、栽培地を作るだけでも一寸やそっとの労力ではなさそうだ。ここまでしないと、名物にはならないということ。
 素人目には、楽そうに見えるのは、広い山葵田の安曇野。始終安定して水が流れるように、適度な傾斜をつけ、安定した水位になるように調整しているようだ。安定した排水の実現はそう簡単ではなさそうな感じがする。一回しか行ったことはないが、日除けがかかっていなければ、眺めていて気分がよいから、観光地するのもわかる気がする。

 しかし、こんな“沢”に依存するのでなく、畑で作っているところもある。ただ安価になるから、生産量は少ないようだが。
 それに、労働が楽になるといっても、やはり重労働感は否めない。(5)

 それに、畑で作れるとなれば、安価な輸入品との競争に巻き込まれ、厄介である。20分の1の労賃の人達が、50haのワサビ畑から出荷するのだから、とてもコスト競争にならない。(6)

 さらに、最近は、水量が豊富なら、環境を気にする必要もない機械も登場してきた。(7)

 こうなると、差は品種だけになりかねないが、代表的な「真妻」系以外にも、「だるま」系や「みどり」系などがあるようだが、どうもはっきりした系列はなさそうだ。
 株分けで繁殖させるのが、高級化のコツらしいが、10年もすると生命力が衰えウイルスにやられるので、様々な新品種を常に試しながら栽培しているからかも知れない。栄養繁殖でなく、種系の「実生」苗を使えばよさそうに思うが、低価格になってしまうからなのだろうか。
 もっとも、こちらも、それほどウイルスに強いというほどでもないようだ。
 そうなると、組織培養苗(8)で、この問題を切り抜けるしかなさそうに思うが、単価は相当高くなるだろうから、そう簡単ではなさそうである。

 山葵ビジネスの方向はいろいろありそうだ。
 農家も、将来を見据えた、戦略的な展開が必要になってきたということだろう。

 --- 参照 ---
(1) 三谷 勇・樋田史郎(神奈川水総研): 「スズキ」 7.洗いが最適 (2003年6月)
  http://www.agri.pref.kanagawa.jp/suisoken/Sakana/Misc/Suzuki/
(2) 篠田統: 「すしの本」 柴田書店 1970年
(3) 「わさび仕事」 わさびの門前(有東木の日本最古のわさび農家) http://www.wasabiya.net/sigoto.htm
(4) 「ワサビ栽培に夢」農業共済新聞島根版 [2006年4月3週]
  http://www.nosai-shimane.jp/nosainews/nosainews.php?date=h180403
(5) 「農家の嫁の事件簿」 [岩手県釜津田のワサビ農家(苗/路地モノ/沢モノ)]   [2006年12月21日〜] http://kamatsuta.way-nifty.com/blog/cat6385324/index.html
  [2004年12月14日〜2006年5月15日] http://kamatsuta.exblog.jp/i35/
(6) http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shizuoka/kikaku/074/27.htm
(7) 岐阜市のわさび栽培装置の製造・販売会社フォス(藤原雅章社長)
  http://www.foth.co.jp/tayori/2007/03/post_1.html
(8) http://www.miyoshi-agri.co.jp/wasabi/index.html
(山葵の俳句) livedoor ハイクブログ http://haiku.blog.livedoor.com/ichiran.php?kg=8665
(山葵の写真) (C) photolibrary 55253 山葵 by ミノックス  http://www.photolibrary.jp/img25/4286_55253.html


 「食」の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2007 RandDManagement.com