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2007.11.27
 
 


芹の話…

芹の根も 棄てざりし妻と 若かりし  加藤楸邨

 「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草」という言葉は馴染み深い。
 ペンペン草や母子草など、美味しいものとも思えないし、仏の座は植物名称が違うというのに、(1)どうしてこの言葉が伝わり続けるのか不思議な感じがする。

 そうなるのは、大昔からの伝承だからと思ってしまうが、違うようだ。
 七草のうち、古代から食べられているのが確実なのは、万葉集に登場する「世理」だけなのである。
 初めて、この7種が揃って登場するのは、“四辻の左大臣”が著した源氏物語の注釈書「河海抄」らしい。1362年頃の書籍である。ただ、草の順番は違う。(2)

 芹と言うと、鍋料理のイメージがい。芹なしなど考えられぬ地域もある。当然ながら、根も使う。
 鍋も良いが、冬に入る時期のおひたしもなかなかのものだと思う。独特の香りと、食感は他の野菜では真似ができまい。
 昔はもっと人気があっただろうが、食の洋風化で余り使われなくなっているような感じがする。そのお陰で、七草の言葉に感情がこもるのかも知れぬ。

 と言っても、洋風では使わないということではなさそうである。1933年10月の正餐メニューに、レタスと水芹のSALADが登場しているのだから。(3)
 水芹とはセリを指す。常識なら、SALADならレタスとセロリになりそうにと思うが。別にセロリが入手できなかった訳ではない筈だ。外国船向けに、明治初期にはすでに栽培されていた位なのである。

 なお中国名ではセロリは旱芹。中国では、水芹菜ではなく、セロリが主流だそうである。ただし、日本でも中華料理屋でよく出てくる、茎が緑色の方で、白色の西洋セロリとは少し違う。(4)

 ところで、セリは春の草になっているが、鍋以外で食べるなら、冬に入りかける時期が柔らかく最高ではないかと思うが。
 もっとも、水田に水をはったハウス栽培ばかりだと聞くから、時期は余り関係ないのかも知れぬ。

 --- 参照 ---
(1) 「春の七草」[牧野富太郎: 「植物学九十年」 宝文館 1956年]
  七草: 芹,ペンペン草,母子草,ハコベ,タビラコ,蕪,大根
  http://www.geocities.jp/kyoketu/7100.html
(2) 木下武司(帝京大学医学部): 「春の七草と七草粥について」
  http://www2.odn.ne.jp/~had26900/topics_&_items2/on-nanakusa.htm
(3) 浅間丸の昭和8年10月2日(金)ディナーメニュー
  http://www.nykline.co.jp/rekishi/faq/mame002.htm
(4) Ringo-do 「食物本草歳時記」−せり
  http://www.eonet.ne.jp/~ringo-do/honzo_seri.htm
(俳句の出典) 「加藤楸邨と埼玉」 さいたま文学館 http://www.mmjp.or.jp/saibun/book/zuroku/syuson.htm
(芹の花のイラスト) (C) お花のアイコン館 http://flower.girly.jp/hanasakuin/text/14se.htm


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