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2007.12.25
 
 


水菜の話…

水菜の泥 洗い落とせば 清冽に   高橋正子 [「水煙」主宰]

 水菜は、昔は京菜という名前で、冬場に時々お漬物ででてきた野菜だと思う。辛味というか、少々苦味を感じ、独特のもので結構人気があった。もちろん青物も売りに出ていたが、株が大きく、いかにも根元の泥を洗い落とすのが面倒な感じだった。
 これが、小株になって、京野菜“水菜”として登場してきた。京菜時代に比べ、えぐ味も薄くなり、茎の白さが目立つ品種に変わってきた。しかも、泥のかけらもついていないものばかり。
 生産者にとっても、大株は収穫がつらくなったに違いないし、シャキシャキ感を活かしたサラダに人気が出たから、当然の流れであろう。

 “水菜”ブームの初期の頃は、量の割りに値段が高い感じがしたが、そのうち大量の特売品が出回るようになり、今や、スーパーの葉野菜コーナー定番品だ。一年中、安定した品質と価格で並ぶから、重宝している人は多かろう。
 ただ、関西で鍋に使われる水菜を見ると茎が細いし歯も繊細な感じだ。東京で店頭に並ぶ水菜の方は茎が結構太い。洗い易いし、傷みにくいことが重視されているのかも知れない。

 いかにも時代の変遷を感じさせる葉野菜である。

 と言うのは、小株になったからではなく、全く切れ込みがない丸葉の壬生菜が、水菜の一種であることを知ったから。
 小生は、上質の出汁に、京油揚と壬生菜を入れるだけの簡素な鍋が大好きだが、壬生菜が水菜と同じものであることを、今回、初めて知った。壬生菜は、味、食感、共に全く違うから、そうとは全く気付かなかった。

 要するに、壬生は水菜の名産地だったというのだ。「茎は細くして多くあり、故に千筋蝉菜という」と京の名所解説に掲載されているそうである。(1)これが、天明の頃。それが、壬生菜に変わっていく。新撰組発祥の頃らしい。
 ココ、現在の四条大宮西側の住宅密集地域。水が溢れる畦が存在するような、低湿地帯だった面影など皆無。

 そして、今や、水菜の生産地は京都府と言うより、茨城県である。こちらは、大規模ハウス栽培が主流。(2)JAなめがた みず菜部会だけで京都府の生産量を超えてもおかしくないのである。茨城の農家が、水菜にこだわりがある訳もない。市場の変化に対応しているだけのこと。青梗菜の売れ行きが落ち、水菜へとシフトしたということのようだ。とすると、水菜も飽和してきたから、次は縮みほうれん草だろうか、などと素人は考えてしまう。
 農業ビジネスのプロなら、いかに政府や自治体から沢山お金をもらうか、どんな作物にすれば儲かるか、どう工夫すれば競争優位に立てるか、という観点で動くのは当たり前である。首都圏で商売するつもりなら、大量生産で市場でポジションをとらない限り収益をあげるのはなかなか難しいから、京野菜ブームに目をつけ、一気に生産体制を確立して京都府を追い抜いたに違いあるまい。

 おそらく、量だけでなく、質でも力を入れることになろう。茨城県産が京都府産を質でも越える品を供給してもなんら驚きではなかろう。実際、京都府産より高値で売れる千葉県産品もでている位だ。美味しければ、京都産ラベルでプレミアムはとれるだろうが、ほとんど同等になってくると、そのラベルに意味がなくなってしまう。
 しかも、京都産水菜の市場シェアは首都圏では数パーセントにすぎず、市場での価格決定権を失っている。(3)

 水菜は、本の上だけの“京の伝統野菜”と化してしまったと言ってよいだろう。

 --- 参照 ---
(1) 菊池昌治: 「現代にいきづく 京の伝統野菜 古都の食文化を担って」 誠文堂新光社 [2006年]
(2) 「いばらき農産物紹介 みず菜」 http://ibrk.jp/agricultural/mizuna.aspx?sort=LastUpdatedesc
(3) “平成18年度 「ブランド京野菜等倍増戦略」第2次プラン第1回政策検討会議 第1回政策検討会議 議事概要” [2006年]
  http://www.pref.kyoto.jp/nosan/resources/plan-180921.pdf
  [2005年] http://www.pref.kyoto.jp/nosan/resources/11710005.pdf
(俳句の出典) 俳句日記/高橋正子のブログ http://blog.goo.ne.jp/npo_suien02/m/200610
(水菜の写真) (C) ridia http://ameblo.jp/ridia/ [photolibrary “1973 水菜と虫” http://www.photolibrary.jp/img2/177_1973.html]


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